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38.作戦会議

ゴブリンの大軍団が俺の周りを取り囲んでいる。頑丈だったはずの巨大な石の壁が無残にも砕かれ、街の中は破壊し尽くされ酷い有様だ。


なぜこんな事になってしまったのだろう?思い出そうとしても思い出せない。

俺の周りのゴブリン達は、その醜悪な顔をニヤつかせながら一様に俺を見据え、飛び跳ねたり手に持つ武器を鳴らしたり足を踏み鳴らしていきり立っている。

そして俺の目の前にはオレンジ色の肌をした一際大きなゴブリンが立っていた。


「...お前は...、ゴワゴワ、か?」


「...」


「何故だ⁉︎お前は死んだはずじゃ...!」


「ググ...オレ、オマエ、コロス。オマエ、コロスマデ、オレ、シネナイ」


「くっ!何がどうなっている⁉︎ユディエルやエイミー、ローニン達はどうしたんだ⁉︎」


「オマエタチ!アトハ、アイツヲ、タオセバ、オワリ、ダ!イッセイ二、カカレエェッ!」


ゴブリン同士の意思疎通も人間の言葉なのかよ!

どうでも良い事に突っ込みを入れながら俺は戦闘に備え構える。


俺を取り囲んでいたゴブリン達が一斉に奇声を上げながら向かってくる!


まずい!属性付与もソウルイーターも発動していない!


「くそっ!これでもくらえ!獄炎玉!」


...


⁉︎


獄炎玉が...出ない⁉︎


「剛雷撃!」


...


何も起こらない!


何故だ⁉︎


「グギャギャ!」


「アガガ!グワウッ!」


一瞬にして俺はゴブリンの波に呑まれ、なす術もなく総攻撃を受ける。


棍棒や切れ味の悪い錆びた剣で袋叩きになる。体と言う体に打撃、斬撃を受け、もはや何処が痛いのか分からない。


全身からの出血が酷い...。


「やめてくれ!ヒール!」


「ギャッギャッギャッ!」


何も起こらない俺をゴブリン共があざ笑う。


ヒールも発動してくれない。


ゴブリン共の合間から街の方を見ると、ユディエル、エイミー、ウェイン、ローニン、サーシャ、エリック...。


エルモナルで知り合った仲間達が苦しみながら次々に火に呑まれて行く...。



「うわあぁぁぁあ!!!やめろぉぉぉお!!!」




...







「..ン!」




「...ュン!」



「シュン!!」



「シュン!いるんだろう!」


何処かで聞いた声で俺は目を覚ます。

...なんだ、夢か...。

どうやらあのまま買ったばかりのベットで寝てしまったようだ。外は暗く、今は夜中らしい。

しかし嫌な夢を見た。外はそんなに暑くないのに全身汗びっしょりだ。


「浄化」


体と服と買いたてのベットを綺麗にし、玄関へ向かう。


ダンダンダン!


「シュン!いるんだろう!開けてくれ!」


新築の玄関扉をそんなに乱暴に叩かないでくれ。それに夜中に大声で近所迷惑じゃないか。一体何処の礼儀知らずだ?


「はい。どちらさまで...」


眠い目で玄関扉を開けると、そこには知った顔の男がいた。


「バッシュ⁉︎どうしてここに⁉︎」


「シュン!説明は後だ。時間が無い!とにかく急いで戦闘準備を整えて俺に着いて来てくれ!」


ランクD魔物のワーウルフを瞬殺した実力派PTでリーダーをしているバッシュだが、鬼気迫る表情を見るとただ事では無い何かが起こっているようだ。


「もう、俺ならいつでも行けます!もしかして、ゴブリンですか⁉︎」


この状況で考えられる最悪の事態はそれだ。


「そうだ!詳しいことはギルドに向かいながら話す!とりあえずギルドまで行くぞ!」


こうして俺達二人は大急ぎでギルドへ向かう。


「夜は盗賊が出るから冒険者はほとんど街にいて外には出ん。その時間帯を狙い街に近づいて来たようだ。エリバンが機能を失い、替りの警戒網ができる前の隙を狙われた。魔物のくせに狡猾な連中だ」


「人間の行動パターンを把握しているなんて...」


「ああ、侮れん。俺達三人はユディエル様からの依頼を受けて急ぎガルヴァリに戻ってきたんだが...。ユディエル様は国王に会いに首都クロノに発ってしまって不在だ。急ぎ呼び戻しに速馬を走らせてはいるが...。ゴブリンに邪魔されずにユディエル様の所まで無事に辿り着けるかどうか...。くそっ!まるでこの時を狙っていたかのような...、ガルヴァリにとって最悪のタイミングだ」


「...」


「街にいる者だけでなんとかするしかないが...、首都からの援軍も無い今、ガルヴァリの冒険者で頑張るしかない」


「ガルヴァリに兵はいないのですか?」


「いるにはいるが、あくまで街を守る兵だ。外に出て戦う戦力は無い...」


「冒険者の戦力は?」


「残念ながら俺達3人パーティーがトップクラスだ。それ以上はいない。シュン。お前以外ではな」


「えっ?」


「お前が冒険者になってからの活躍はユディエル様や、こちらに来てからエイミーに聞いている。ゴブリン1000匹斬りにオークの群れをソロで瞬殺だったそうだな」


「はい。まぁ...」


1000匹全てを斬り殺したわけではないので1000匹斬りなんてカッコ良いものでは無いが細かいことはまぁ良いにしよう。


「冒険者になったばかりのお前に何が起こっているのか理解に苦しむが...。ジドールのじいさんも言ってたし、本当なんだろう。俺はお前を信じる。このペースにも普通に話しながらついてきているしな」


無意識だったが、俺達二人は結構なスピードで走っている。レベルが上がり普通に感じていたが...。俺の力を見ていたのか。さすがだな。


早く走っていたおかげか程なくしてギルドへ到着した。



「あ!シュンさん!」


「小僧!」


「シュン!」



「皆!集まっていたんだね!」


エイミーとウェイン、ジドール、それにローニンがギルドに集まっており、周りに冒険者も何人かいる。


しかし...


「ゴブリンの規模は?」


「...分からん。今ハーマンとシンディが偵察に行っているが...。最初にゴブリンの大群に気づいた冒険者達の話だと、とても数えきれない程の数で震えあがったそうだ...」


「なるほど...」


「シュンが殲滅したエリバンのゴブリンはおよそ1000匹。それが本隊ではないとすると...」


「本隊はおそらく万単位じゃろうな...」


ローニンとジドールが絶望的な予測を告げる。


「皆!お待たせ!戻ったよ」


ちょうど良いタイミングでシンディとハーマンが戻ってきた。


「真っ暗な中の偵察はてこずったよー。あ、シュンくん来てたんだねー。良かった。作戦会議に間に合ったねー」


こんな時でも相変わらずハーマンはのんびりした感じだ。


「お二人とも無事で何よりです。意外と早く再会できて嬉しいです」


「あたし達もさ。今回は何やら期待させてくれる情報も聞いてるよ。頑張ろうね」


「はい」


「で、外の様子はどうだ?」


「言いたく無いけど...絶望的だね。もう程なくしてここまで来そうな勢いだよ。とてもこの人数でどうにかできる規模じゃない」


「しかし、エリバンが再び襲われるのが一週間後と見ていたのに...。ガルヴァリまで来るのに一週間もかからないなんて早過ぎる。完全に想定外だった...」


ローニンの言う通りだ。だからこそユディエルもこのタイミングで紋次郎に会いに行ったのだろう。


「だが、希望はある。シュン。あのゴブリンの死体を焼いていたスキルならなんとかならないか?」


「俺もそれしかないと思っていたが、どこまで通用するか...」


「待てシュン。お前は複数の職のスキルや、魔法まで使えると聞いたが、どの職のスキルも範囲攻撃は無いだろう。かと言って大規模魔法を使えたとしても数発で息切れする。どうする気だ?」


「俺が使うスキルは広範囲を対象にするので大丈夫です。作戦に乗ってくれるなら、俺の案を言います」


「広範囲のスキルなんて聞いた事がないぞ...。だが、信じると言ったからには信じる!シュン。お前の作戦を教えてくれ。俺達ではとても太刀打ちできる規模の相手じゃ無い...」


「分かりました。ではまずリーダーを4人決めて東西南北にある街の出入り口四ヶ所を守りましょう。東門はローニン、北はハーマンがリーダーでシンディもそこに着いてもらいます。南がバッシュで西がウェイン。冒険者達は職業のバランスが良くなるように分かれてそれぞれのリーダーに着いてください」


「街の要所を守るのは分かるが、西に戦力を集中した方が良いんじゃないか?」


「そうですよ!僕が一人で西門ですか⁉︎ゴブリンは西の森から来るんですよね⁉︎」


「大丈夫。西門の外に俺が行くよ。基本的には各門の皆も安全なはずです。全てのゴブリンのターゲットを強制的に俺に指定します」


「なんだと⁉︎そんな事が出来るのか⁉︎」


「バッシュ。シュンは異常だ。普通の感覚でいるとこれから先何度も驚かされて疲れるぞ」


「そ、そうか...」


ローニン。言い方!


「しかし、ガルヴァリの街は広い。おそらくは西から攻めて来るだろうが...本当に大丈夫か?」


「問題ありません。一応街の中を通られないように全ての門は閉めて皆はその中で待機していて下さい。万が一門が破られた時はお願いします」


「本当に一人でやるのか...?」


「バッシュ、シュンならきっと大丈夫だ。信じよう」


「多勢に無勢なのでどんなに優れた作戦であっても通用しないでしょう...。俺が崩された時は...すみません」


「何。この状況だ。やれるだけの事をやって、後は運を天に任せよう」


天に...か。つまりエト神に。だな。

...エト神様。お願いしますよ。


こうして大規模襲撃に対する作戦とは思えない、とても簡素で幼稚な作戦会議は終わり、俺達は4方向に分かれてギルドを後にした。

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