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36.ガニメデの闇

お茶を持って来てくれたエイミーを交え、四人でソファに座る。


「さて、シュン、ローニン、今回は大変だったな。色々力を尽くしてくれてありがとう」


お茶を口にしてから、ユディエルが礼を言う。


「いえ、俺に関しては少し様子を見てみようかと勝手にやった事ですし。その後は流れでそうなっただけですから」


「少し様子見の流れでゴブリン1000匹を殲滅させたか...」


「まあ、それは...ははは」


「ユディエル様、昨日もチック男爵の迎えの馬車がオークの群れに襲われそうになっていた所をシュンが助けてくれました」


「オークの群れだと!?死傷者は無しか?」


「はい。というかシュンが一人であっという間に全滅させました...」


「なんと、オークの群れですらソロで余裕とは...。冒険者ランク的にはCクラスじゃないのか...?」


「分かりませんが、今回エリバンに行ったことでLVもまた上がりましたので、時間を見つけて昇級試験を受けさせてもらおうと思っています」


「分かった。またその時は言ってくれ」


「はい」


「シュンの事をあまり知らないんだが、今は冒険者ランクは何なんだ?」


「えーと、今はFだな」


「何!?F!?嘘だろう...?」


「言っただろ。冒険者になって間もないって」


「本当に本当だったのか...」


「ローニン、シュンは異常だ。普通の冒険者と一緒にしてはいかん。今までもいくつもの異常性が窺える逸話が残されている。そしてこれからもその逸話は増えていくだろう」


「ユディエル様、そんな...。まぁ、否定はしませんが」


「はあ...、つくづく凄い冒険者だったんだな。そんな凄腕冒険者に助けてもらえたなんて、俺達は本当に幸運だったんだな」


「ふっふっふ。まあそういう事だ」


ユディエルが自分の事の様に愉快そうに笑う。


「時にシュンよ、今回の迎えの件では迷惑をかけたな。当初の予定では街の馬車屋に頼むはずだったのだが、エイミーから緊急で要請を受けた馬車屋のうちの一軒が、領主である男爵チックに報告してしまったのだ」


「シュンさん。すみません」


エイミーが申し訳なさそうにしている。


「いや、人物的には多少問題がありそうな方でしたが、20台も用意してくださって、おかげでエリバンの皆もゆったりガルヴァリまで来ることができましたよ。食料も用意してくれてましたし」


「そうか。費用はギルド持ちという情報も伝わってしまったからな。後から報酬とは別に、馬車代、御者や私設警護団を動かした事による人件費代、食糧費等諸々請求が来るだろう。エイミーすまないがそちらの処理は頼む」


「はい、今回は私が口止めしておかなかった事に落ち度があります。申し訳ありませんでした」


「イレギュラーな事例だったからな。仕方ない。この経験を今後に活かせばそれで良い」


「はい」


「あの、何故そこまで男爵チックを毛嫌いするのですか?」


「うむ...。シュン。チックのおまえにたいする態度。どう感じた?」


「態度...。必要以上に低姿勢で、まるで媚を売るような感じでしたが...」


「だろうな。お前は既にガルヴァリの情報通の間じゃちょっとした話題になっている」


「えっ?」


「まぁ、当然だな。驚異的なLVアップスピードに最年少冒険者ランク更新、一度の狩りでの魔物討伐数の異常な多さ...。実力のある冒険者にありがちなのだが...。貴族が繋がりを持とうと躍起になって近づいてくる」


「なんですって...」


「力のある冒険者を金で囲って、自分の力としたいのだ。従えることが難しくとも、良好な関係性を保つことができれば自分に損にはならないという事だな」


そんな事もあるのか...。目立ち過ぎるのはやっぱり考えものだな。


「まあ、心配するな。その様子だと、あまりそういった道は選びたくないのだろう?完全に守る事はできんが...。ギルドの方で出来る限りの露払いはしよう」


「ありがとうございます。しかし、何故そこまでしてくれるのですか?」


「何、強い冒険者程、自由でいたがるものだろう?俺も昔はそうだったからな」


「ユディエル様、もしかして...。そんな事を言いつつギルドがシュンとの繋がりを作ろうとしているんじゃないでしょうね?」


ローニンが冗談ぽく言う。


「な、何を言うのだねローニンくん。あくまで私はシュンの自由の為にだな...」


「...」


「...」


まさかの図星だったのか。


「ごほん。まあ、正直に言うと、その下心も少しはあるのも事実だ。だがその方が、実際シュンが冒険者として活躍する場が持てるのもまた事実だ」


「ふふ、俺は全然そうして貰えると有り難いですし、エイミーにもユディエル様にもお世話になりっぱなしで、もう既に恩なら充分感じていますから、ご心配には及びませんよ」


「はっはっは。そうかそうか。シュンはやはり話の分かる男だな!な!エイミー!」


「そうですね!良かったです!そんなシュンさんにステキなお知らせがあります!」


「ん?いきなりなんだい?」


「勝手ながら、シュンさんのお家をご用意させていただきましたー!」


「えええええ⁉︎どゆこと⁉︎」


「ふっ、ガルヴァリをシュンのホームにしてもらおうと思ってな。何、今回のエリバン基地の生存者救出とゴブリン千匹討伐の報酬とでも思ってくれ」


「まあ、くれると言うなら有り難く頂きたいですけど...。良いんですか?家なんて滅茶苦茶高価な気がするのですが...」


「良いんだ!チックじゃないが、シュンと良好な関係を築けるのなら、これほど賢い投資はないのさ」


なんてこった。エト神様ありがとう!この素晴らしい肉体と才能をありがとう!多くの人を助けられるし、感謝されるし、強いって素晴らしい!

しかし、これでギルドに敵対することは出来なくなったな。まあ、する気もないけど。

しかし、貴族には気をつけないといけないな...。



「さて、シュン。ローニン。ここからは真面目な話だが、今回シュンが倒したゴブリン1000匹はまだ序の口なんだな?」


「はい。今回のゴブリン達を倒した後、言葉を話すゴブリンに会いました」


「何⁉︎言葉を話すだと⁉︎」


「スキルの観察眼で見たところゴブリンリーダーと言う魔物で名前をゴワゴワと言っていました」


「名前まであるのか...。それで?」


「はい。ゴワゴワが言うには、配下を全滅させられた自分は、背後にいる何者かに殺されてしまう。と言っていました」


「なるほど...。言葉を扱う魔物か...。剣聖の俺でも話で聞いたことしかないぞ。高度な知能を持つドラゴン族ならまだしも、ゴブリンが喋る。か...」


「マスター、まさか...」


ユディエルとエイミーは何か心当たりがあるのか、黙って難しい顔をしている。


「ユディエル様、もしかして何かご存知なのですか?」


「ううむ...。不確かな事だからまだなんとも言えんが...。厄介な事になりそうだ。エイミー、至急この事を紋次郎に伝えて面会の約束を取り付けてくれ」


「承知しました。シュンさん。ローニンさん。失礼します」


急に慌て出した二人の様子に、俺とローニンは顔を見合わせる。


「...二人を信頼して話すが、絶対に他言無用で頼むぞ」


「...はい」


「エルモナルで最も信仰されている聖天神道教は知っているな?」


聖天神道教とは、エトを神として崇めている教会の事だ。


「はい。エト神ですよね?」


「そうだ。そして、世間的にはあまり知られていないが、エト神と対極の位置にいる神がいる。エト神が魔物を倒し人類を守る神なら、その神は人間を殺し、魔物の味方をする神だ」


「そのような神の存在、聞いた事がないですよ...」


エルモナルで生まれ育ったローニンでさえも知らないようだ。


「言っただろう。世間的には知られていないと。しかし、暗い噂の影には常にこいつらの存在が着き回る」


「その神の名は?」



「...テオ。邪神テオ・サキシサス」



「邪神...テオ...」


「そして、邪神テオを信仰する組織を闇の眷属と言う」


「そんな奴らが存在するなんて...」


「今回ゴブリンリーダーが言葉を話したと言ったな?普通言葉を話す魔物などいない。さっきも言ったドラゴン族くらいだ。まあ、ドラゴン族は厳密に言うと魔物とはまた別の存在だが」


「...そこに闇の眷属が関係していると見ているのですね?」


「そうだ。ヤツらは俺達が知らない不思議な儀式や、生き物を作為的に進化させる危険な薬を作り出したりもしているようなのだ」


闇の眷属...。できれば知らないままでいたかったなぁ。怪し過ぎる...。


「闇の眷属は隣国ガニメデ公国を根城としている。あの国は危険だ。闇の眷属と結託し、色々と怪しい動きをしている。ろくでもないことを企んでいるのは明らかだ」


「何か、解決する具体策はあるのですか?」


ユディエルは何か考え込むように険しい顔をして黙っている。


「...無い。いや、正確に言うと今までは無かった」


そう言って意味深げに俺を見つめる。


「?...⁉︎」


「シュン。今まで俺達アスリア国は単純に軍事力が不足していたのだ」



この国の名はアスリアと言うのか。今知った。


いや、それは今はどうでも良い。

なぜ俺がそんな話をされているかの方が俺にとって重要だ。


「だが今はシュンがいる。おまえは謎の人物であり、人類最強の男ユーバーとも繋がりがある。お前がこのままのスピードで成長を続け、ユーバーと二人でアスリア国に協力してくれれば、数万の軍にも匹敵すると俺は考えている」


やはりそういう事か...。

しかし、そこまで大きな事に足を突っ込まなければならないのか?俺はエルモナルに来たばかりの一冒険者なのだ。


エト神から天啓と言う大きな力を授かったが...。


「力を持つ者の運命(さだめ)か...」


俺は一人呟いた。


「シュン。今回エリバンが落とされ、万が一ガルヴァリも落とされよう物なら、アスリアが危ない。どうか力を貸して貰えないだろうか?」


ローニンが俺の横顔をジッと見つめているのを感じる。やめてくれ。そんな重荷を背負うのはごめんだ。



...



しかし、俺は既に決意していた。自分の中で葛藤はあるが、エリバンで助けた皆。サーシャやエリックの笑顔。イシュエルを殺されたユディエル...。

エルモナルに来て間もないが、出会った人達の顔を思い出す。



...やってやろうじゃないか。



日本ではこんなデカイ事が出来る機会等無かった。誰でも無いだろう。しかし今はそれだけの事が出来る力を持とうとしている...。


魔物を狩まくり、人類を殺そうとしている闇の眷属と、その背後にあるガニメデ公国とやらを懲らしめてやろうじゃないですか。



「分かりました。俺なんかの力で良ければ、喜んでお貸ししましょう」


「!」


ユディエルとローニンが目を見開き顔を見合わせる。


「そうか!ありがとう!礼は出来る事なら何でもしよう!」


「エリバン救出の礼は既に受け取りました。ゴブリン大集結が解決したら、また改めて考えます」


「分かった。その時を楽しみに待っているぞ」


こうして俺はエルモナルでの生き方を定め、覚悟を決めた。万が一の事があっても、俺一人が死んで終わり。じゃなくなった。俺が死んだらガルヴァリだけでなく、アスリア国全ての国民が闇の眷属の毒牙に侵されるということだ。

いや、アスリアの後は更に他の国にも危険が及ぶだろう。


エルモナルを救う。か。結局最初にエト神に言われた通りに動く事になりそうだな...。

今日の決断が運命の別れ道なのだろうと感じつつ、思いを新たにするのであった。

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