32.天啓を授かりし者の命題
「獄炎玉!」
もう、自分が怖いので使いたくなかった最上級スキルだが、山となったゴブリンの死骸を片付けるには結局これが一番効率が良い。
剛雷撃は音と光がヤバいので半球で仕切られている獄炎玉でゴブリンの山々を焼却して行く。
1000匹もの死骸の山と同じだけ森が削られてしまったが、そこは許容してもらおう。
「ウォータ!」
焼け石に水かも知れないが、焼け跡の端の方に水をかけてゆく。
基地のすぐ横で森林火災なんかになったら大変だ。MPがもっと欲しい...。
MPが尽きる前に何とか範囲内の端だけでも水をかけ終えた俺は、ゴブリンを狩った時よりもくたくたになっていた。
さて、もう一踏ん張りだ。服にフレイムを付与し、身軽になったところで、ガルヴァリへ向けて走り出す。
途中で、エルモナルに来て最初に見かけた猪が感知に引っかかったので、ソウルイーターを使いそのまま体当たりで焼き殺し袋へしまう。
残りMPが僅かな状態から使っても効果は変わらないので、ソウルイーターは本当に有能魔法だ。
倒し終えると戦闘終了なので自動でソウルイーターは解除される。バッシュ達とガルヴァリの宿屋でこの猪ステーキを食べた事を思い出す。あの時、ファングボアは魔物では無く動物だと聞いていたが、ソウルイーターで問題無く魂を吸収できたようだ。一気に疲労感が無くなった俺は全速力でガルヴァリへと向かった。
しばらく走り続けていると、遠くに巨大な石壁に囲まれた街が見えてきた。辺りは薄暗くなり始めていたが、どうやらガルヴァリに着いたらしい。
ステータスが上がったせいか、来た時よりも更に時間が短くなっている。歩くと一週間はかかるとローニンが言っていたが、体感で1時間程度で着いた気がする。
ガルヴァリに着いた俺は早速ギルドへ向かった。
夕刻の冒険者達が集まるピークは過ぎたようで、ギルド内はそれ程混雑していない。
見慣れた黄色いポニーテールの女の子がカウンターに座り書類を片付けている。
「エイミー、エリバン基地の事でギルドマスターに至急報告があるんだけど、面会できないかな?」
「シュンさん!ゴブリンの件ですか?分かりました。すぐ行きましょう。二階へどうぞ!」
俺の表情から逼迫した状況を読み取ったのか、手を付けていた書類をそのままに、エイミーが急いでギルドマスター室まで案内してくれた。
長い廊下の突き当たりの大きな扉をノックし、エイミーが言う。
「失礼します。冒険者シュン様が火急の報告があるとの事でお連れしました」
「入れ」
エイミーがドアを開け、俺は中へと通された。
「お忙しい所申し訳ありません。エリバン基地の事でご報告があります」
デスクワークをしていたギルドマスターユディエルは机から目を上げこちらを見つめる。
「急ぎの用件か。エイミーも中にいて良いか?」
「構いません」
ゴブリンの件も知らされていたし、エイミーは若く見えるがそれなりの立場の人なのだろう。
「で、エリバンまでかなりの距離があるが、何故シュンがエリバンの状況を知っているんだ?」
「突っ込みどころが多々あるかもしれませんが、取り敢えず一通り報告させてください。簡潔に説明すると、昼前にゴブリンの話を聞いた後、俺は走ってエリバン駐屯基地まで行きました。基地は予想通りゴブリン達に襲われ大きな被害を受けていましたが、家屋床下のシェルターに生存者がいることを確認しました。駐屯基地隊長のローニンと言う方と基地周辺のゴブリンを殲滅し、また走ってここまで戻ってきました」
「...」
「...」
二人とも俺が何を言っているのか分からないような顔で呆然としている。
「エリバン基地周辺のゴブリンはいなくなりましたが、ローニンの話だと、いずれ別のゴブリン達が再び集結し基地を襲う可能性があるとの事で、明日の朝一で生き残り約100名がガルヴァリに向け避難を開始します。受け入れの準備と迎えの馬車を用意していただけると助かるのですが...」
「...」
「...」
「...」
少しの間沈黙が流れる。
「あの、マスター。だそうですけど、どうしましょう?」
「うん。あ、うむ。そうだな。ええと...すまん。なんだって?」
「エリバンの生き残りがいるのでその人達を受け入れて欲しいのですが...」
「シュン...。一日でエリバンまで行くなんてとても人間のできる事じゃない。だが...ローニンの名前が出てきたと言う事は実際行ったのだろう。しかし、ゴブリン共は少なくとも1000匹はいると報告があったが...それを全て殲滅したと言ったのか?」
「はい」
「この短時間でか?」
「はい」
「信じられん...。ユーバーがシュンを頼る様に言ったのが分かってきたな」
「マスター。話を進めましょう。100名の受け入れとなると、すぐに用意するのは難しいです。とりあえず町中の宿屋を100名分虱潰しに当たりましょう。仮設の小屋を大至急北エリアの空き地に作り、4人で一つの建屋に入ってもらいます。仮設小屋の準備が出来た所から順次移ってもらうとして、30棟も用意すれば間に合うでしょう」
「分かった。それで行こう。迎えの馬車は用意できるか?」
「馬車屋に聞いてみますが...。明日中に用意できたとしても10台が良い所でしょうし、護衛の問題もあります」
「一台に10人か...。多少きついが詰め込むしかあるまい。護衛は依頼で出して冒険者を募る。人件費は依頼達成報酬に載せておいてくれ。馬車と宿代、仮設小屋の建設費もギルドの方でもとう。シュン、基地は襲われたと言っていたが皆の食糧は大丈夫か?」
「はい。今夜中にエリバンへ戻ります。ローニン達と合流した後は移動しながら魔物を狩るので、それを食糧にします」
「今夜中に戻る...だと?...いや、もうお前を疑うのは止めよう。シュンがそう言うなら、そのように出来るのだろう。任せたぞ」
「はい」
「それはそうと、さっきローニンが隊長と言ったな?やつは副隊長だったはず。隊長のイシュエルはどうした?」
「残念ですが...、ゴブリンにやられたようです」
「!」
俺の言葉にエイミーも驚く。
「...そうか。有能な男であったが...。残念だ。
ゴブリン共を倒してくれたこと、生き残りを発見し救出してくれたこと、礼を言う。後は無事ガルヴァリまで皆を連れてきてくれ。頼む」
「分かりました」
「エイミー、護衛依頼と馬車と受け入れの宿、それと仮設小屋の方も頼めるか?ギルド職員を何人使っても良い。お前の裁量で至急手配を進めてくれ」
「...分かりました」
エイミーが心配そうな顔でユディエルを見る。
イシュエルと言う人の事でだろう。
「では、失礼します。諸々の手配ありがとうございます。よろしくお願いします」
「うむ」
なんとか段取りが着いた事に安心した俺はエイミーとギルド長室を後にする。
「エイミー、イシュエルという方はもしかして...」
「ええ、ユディエル様の弟さんです。エリバンと言う要所を任される程の優秀な方でした...」
「そうか...」
「シュンさんが仇をとってくれて、ユディエル様も感謝していると思います。シュンさんが気に病む事じゃないですよ」
そう言って、エイミーはいつものように笑ってくれるが、やはりどこか寂しそうな笑顔に見える。
ユディエルと同じように、多くの人達が魔物に家族を殺され、悲痛な想いをしているのだろう。
...これだけの力を手に入れた俺がやるべき事は何なのだろう?
弱い魔物だけを狩り、安全に生きる事も選択肢の一つではあるが...。
答えは既に見えている気はしているが、まだ気持ちの整理がつかない。エルモナルでの人生をどう生きて行くか...。そろそろそれを決めるべきなのではないか?と、ある種、道徳的な強迫観念が襲い掛かってくるが、焦って答えを出すものでもないだろう。とにかく今はエリバンの人達を助ける事に集中しよう。
いつもと変わらず冒険者で賑わう夜の街を通り抜け、俺は再びエリバンへと向かうのであった。
最近、アクセス解析なる機能がある事を知りました。
まずは、お読みくださっている方々。
本当にありがとうございます。
こんな拙い文章の物語りを読んでもらえているなんて、すっごい嬉しいです。モチベーション上がりまくりです。
そして、評価ポイントをくれたり、ブックマークをしてくださっている方々。
いやもう、本当にありがとうございます!
他の方々の作品と比べたらまだまだ評価ポイントは低いですが、それでも付けてくれている方がいる。と言う事が、もう本当に嬉しいです。
僕の尊敬しているアーティストの方が、自分達が作った曲は聴いてくれる人達が聴いてくれて初めて完成する。的な事を言っていました。
規模は比べるまでもなくだいぶ小さいですが、僕の書いているお話も、読んでくれている人がいてくれるからこそ存在価値があると言えるのだろうなー。と感じています。
と言う事で!後書きが長くなってしまいましたが、「天啓チート」これからもまだまだ面白くなるよう頑張りますので、(主要仲間キャラがまだ一人も登場していませんし!)何とぞよろしくお願い申し上げます!




