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26.不穏な動き

ガルヴァリは冒険者の街、しかもここは冒険者ギルドの本部。下のカウンターがあるロビーも広いが二階の廊下も広く、長い。

いくつもの部屋の扉を両脇に見ながら、その広い廊下の突き当たりにギルド長室はあった。

派手では無いが決して質素でも無い。

それなりに威厳を感じさせるドアの前でエイミーは立ち止まり、ドアをノックする。


「失礼します。エイミーです。シュン様をお連れ致しました」


「ご苦労。シュンだけ中に入れ」


「シュンさん。中へどうぞ」


「ああ、ありがとう」


俺は結構な緊張感を持ち中へ入る。


「失礼します」


中へ入るとランクアップ試験の時に見た屈強な男、ギルド長の剣聖ユディエルが来客用のソファに座っていた。


そして、その対面にはユディエルと同い年くらいの聡明な雰囲気の男が、後ろに護衛を二人付け座っていた。


「おう、良く来た。まぁ、そこに座れ。すまないがあまり時間がないのでな。手短に話す」


二人とも深刻な表情をしている。つられて俺も神妙な面持ちでソファに座る。

2人を左右に見る形だ。


「まずは、そうだな。こっちのじいさんは菊一紋次郎。俺の盟友でこの国の王様だ」


「えっ?はい?」


唐突すぎて一瞬理解出来なかった。

そしてその名前...思いっきり日本の有名な刀を連想させるじゃないですか...。


グレイヘアをピシッと後ろに固め、着物の様な羽織を纏った壮年の男が鋭い目つきでこちらを伺う。

貴族にも会った事がないのに、いきなり国王様にお会いしてしまった。こんな時何と言えば良いのか?作法みたいな物はあるのか?


「くっくっくっ。変わった名前であろう。何、畏る事はない。お主のことはコヤツから聞いておるぞ。王などと言っておるが、昔は儂も冒険者での。コヤツとはよく魔物の群れを潰しあって腕を競ったものよ」


「おい、今はそんな昔話どうでも良い。シュン。単刀直入に言う。今この街、いや、ガルヴァリだけじゃなくこの国全体に危機が迫っている」


「⁉︎どういう事ですか?」


「...ゴブリンだ」


「ゴブリン?あのランクFの依頼にあるザコ魔物ですか?そんなのがなぜ国に危険を及ぼすんです?」


「確かに。ヤツらは単体だとその力は取るに足らない。お前が今日狩りまくったウルフの方が強いくらいだ。しかし、ヤツらは群れる。そして多少の知能を持つ。武器も使う。群の規模によっては十分一国を滅ぼし得る脅威になるのだ」


「なるほど。そのゴブリンどもが群を成している。と?」


「そうだ。ガルヴァリの西の森の更に奥に我らの国境警備隊が駐屯している基地がある。一週間前、そこからの通信魔法で、ゴブリンどもの不穏な動きを察知したと報告があった。斥候を送り様子を見るよう指示したが、それきり連絡が途絶えた。救助隊を送る準備を進めているが、警備隊を全滅させる程の戦力があるとなると、下手に人を送っても被害が増えるだけだ...」


「そんな...。群の大体の数は把握できているのですか?」


「最後の連絡時には、少なく見積もって1000匹」


「1000...凄い数ですね...。しかし、国の危機と言うからにはもっと敵の数は増えると予想しているのでは?」


「察しが良いな。およそニ百年前の記録に同じようなゴブリンの大規模な襲撃があったと記されている。当時の記録によると、その数およそ5万匹...」


「なんですって...」


「昔の文献じゃ。何処まで正確かは分からん。信じきることもできん。しかし、それ程の数ならば、国を滅ぼすことはできずとも大きな損害をもたらすことは出来るであろう。そして国力が衰退すれば、ここを狙う他国にとって願っても無いチャンスとなるわけじゃ」


それで国王が冒険者を統括するギルド長に助けを求めに来たと言う所か。


「状況は理解しました。分からないのは何故私がここに呼ばれたかです。冒険者登録をしたばかりの、経験値もほとんど無いヒヨッコのこの俺に何をして欲しくてここに呼んだのですか?」


「シュン。お前はユーバーと言う男を知っているか?」


!名前を聞いて思い出した!エト神から会うように言われたのはその人物だ。


「名前だけは知っています。その方がどうかしたのですか?」


「今現在世界にたった1人しかいないSランク冒険者。人類最強の男。それがユーバーだ。普段何処にいるのか知らんが、会った事がある人は殆どいない伝説のような人物だ」


「えっ」


エト様...有名だからいずれ会えると言ってたような...。

なんだかすごく会うのが難しそうな気がしてきたぞ。


「そのユーバーから儂の所に連絡が来たのじゃ。国に危険が迫りし時、ガルヴァリの冒険者シュンを頼れ。とな」


「...」


エト神。明らかにユーバーと連絡を取っただろ!まだこちらに来て間もないのに!ヒドイよ!ノンビリコッソリ、危険な橋は渡らずに弱い魔物ばかり狩って安全に冒険者生活を送りたかったのに!


「ユーバーが何故お前の事を知っているのか知らんが、伝説の人類最強の男が認めたお前ならこの危機を救ってくれると信じているぞ!」


「いやいやいやいやいや!ちょっと待って下さいよ!俺先日冒険者になったばかりなんですよ?倒した事のある魔物!ミミズ!兎!狼!この3種類だけですよ⁉︎ゴブリン5万匹なんて勝てるわけないじゃないですか!!!」


「まあ、そう急くでない。何も一人で戦えと言っているわけではない。無論他の冒険者にも救援要請を出すし、国に所属している軍隊も1万程度なら出せる。ただ、滅多に人前にその存在を表さない伝説の男が、このタイミングで声を掛けてきたのじゃ。お主が鍵となるような気がしてならんのじゃ。国王の頼みじゃ!どうかこの国に力を貸して欲しい!」


「陛下!」


見栄も恥も無く15歳の少年に頭を下げる国王に、護衛の者が声をかけ、もの凄い形相でこちらを睨んでくる。


「くっ!...分かりましたよ。ただし、俺は戦力の一部であって、主力ではないですからね!」


「おぉ!ありがとう!相応の力を示し、危機を乗り越えた暁には、出来る限りの褒美を用意する。その時は何なりと申してくれ!では、儂はやらねばならぬ事がある故、失礼する!ユディ、協力感謝する!」


「お前が俺に感謝だなんて気持ち悪いぜ。良いから行け。忙しいんだろ?」


二人はお互いニヤリと笑い合うと、紋次郎が勢いよく席を立ち、護衛を連れ颯爽と去って行った。


「やれやれ、相変わらず騒がしいヤツだ。問題が起きた時にしか会いに来やがらん」


「あはは、仲がよろしいのですね」


「ふんっ。...まあ、何度も命を助け、助けられた仲だからな。家族以上かもしれんな」


「まさに盟友ですね。羨ましいです」


「ふっ。お前もいずれそんな相棒が見つかるさ。類は友を呼ぶ。異常に強い奴には似たような奴が寄って来るもんさ」


「いや、俺そんなに強くないですから!」


「今はまだ...。だろう?」


さすがに歴戦の戦士。人の強さに関しては感じる物があるのだろう。


「まぁ、期待に応えられる様に頑張りますよ」


「ふふ、頼んだぞ」


「差し当たりゴブリンですが、具体的に俺に何かして欲しい事はあるのですか?」


「いや、まずは敵の力を正しく見極めなければこちらも対策の立てようが無い。最低限の戦力確保は引き続き行って行くが、まずは偵察専門部隊からの情報待ちだ」


なるほど。偵察専門の部隊がいるのか。心強いな。俺の感知スキルや、先程話に出ていた通信魔法のようなものが使えるのだろうか?


「それまでは体力を温存しておいて欲しいが...。お前の場合、異常なまでの急成長をしているからな...。一体どうやっているのか知らんが、ゴブリンどもが襲ってきた時に少しでも戦力になれるよう程々に鍛えるのも良かろう」


「分かりました。では俺はこれで一度失礼します」


「おう、期待しているぞ」


俺はユディエルに一礼し、ギルド長室を後にした。





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