23.無双
俺達は昨日ホーンラビットと戦った場所に来ていた。
「ウェインは今まで魔物を倒したことはある?」
「いえ、一度もありません」
「じゃあレベルは1かな?」
「あ、多分そうだと思います」
1と11か...レベル差10だとどれくらいの補正が入るか...?
なんにしても倒してみるか。
「じゃあ今から敵をおびき寄せるから、ウェインは身を低くして襲われないように気をつけながら見ていてね」
「わ、分かりました」
ウェインは不安そうな顔をするが、盗賊退治の一件で、感知は仲間への敵意も判断できることが分かったので、俺が戦いながら気をつけていれば何も問題はない。
俺は昨日見たホーンラビットをイメージしながら魔笛を短く吹いた。
感知で見えていたホーンラビット数匹の体の輪郭が緑から赤に変わり、草原の奥からこちらへ走って向かって来る。
「5匹か...」
俺は念の為剣と皮の服に少しだけ魔力を込める。
「む!剣も服も軽くなったぞ!」
少ししか魔力を込めていないのに効果は抜群だ。
エト神が用意してくれた魔法の皮服は、服自体が軽くなるだけでなく、体も軽くなり、地面をひと蹴りすると10メートル近く前進できた。
「うぉお!凄いぞ!」
その勢いのまま一番近くまで迫ってきていたホーンラビットを一刀の元に切り捨てる。続けて2匹、3匹、もの凄いスピードで移動しながら一瞬で5匹を倒し切った。
レベルが上がった!
魔法:フレイムを覚えた!
魔法:アイスを覚えた!
レベルが上がった!
魔法:ライトニングを覚えた!
魔法:ウォータを覚えた!
レベルが上がった!
特殊スキル:属性付与を覚えた!
レベル3アップか。
魔法を色々覚えたぞ。
後で使ってみよう。
ウェインにはどのくらい経験値が入ったかな?
倒したホーンラビットを袋に回収しながらウェインの元へ駆けつける。
「レベル上がった?」
「す、凄いです!レベルが一気に7になりました!鑑定と観察眼を覚えました!」
「鑑定は物を見るんだろうけど、観察眼はなんだろうね?」
「使い方はなんとなく分かります。敵の強さを見るスキルだと思います」
「なるほど。戦わずして敵の強さが分かるのは良いね。試し斬りも安全に出来そうだね」
「ですね!ほんとに僕向きの当たり職ですよ!」
良かった。ウェインもだいぶ嬉しそうだ。懸念していたレベル補正も大きな影響は無いようだ
「ウェイン、ちょっと相談。俺次のランクになりたいからレベル20まで上げたいんだ。ウェインもランクを上げたければやっぱり冒険者登録をした方が良いと思うんだけどどうかな?」
「うーん。あんまり強い敵とは戦いたくないですね。武具屋として生きていきたいので冒険者にはならないままで良いです」
それもそうか。死んだら終わりの世界だ。ゲームではなく現実なのだ。
「そっかそっか。それじゃこのまま魔物狩りを続けるね」
「はい。お願いします」
Fランク依頼はホーンラビットの他には確かキラーワームとゴブリン、ウルフあたりがあったか。
キラーワームとゴブリンは見た目が気持ち悪そうだからウルフと戦ってみよう。
生息域は分からないが、依頼書に描いてあったウルフの絵を思い出しながら魔笛を吹く。
感知範囲を可能な限り遠くまでにしてみたが敵対反応は現れない。
聞こえないくらい遠くにいるのかな?
俺は再び長めに魔笛を使う。
流石に離れすぎていて魔笛の効果範囲外か。
諦めてキラーワームかゴブリンにしよう。
と、その時、感知範囲の端に赤い動くものが見えた。
お、ウルフが来たかな?
草原の奥にある森の中から、一匹、二匹と大きめの狼が早足で向かって来る。
ん!?なんだあの数は!?
最初数匹だった狼達は、あっという間に数十匹の群れを成し、俺達を射程圏内に捉えたと見るや、全員でもの凄い速さで駆け出した!
ウェインは恐怖で言葉を失い、俺は魔笛を長く吹きすぎた事を後悔しつつ、戦闘態勢に入る。
「ウェイン!最初の一匹だけで良い!強さを見れる!?」
俺はウェインに役目を与える事で恐怖心が誤魔化され、動けるようになる事に賭けた。
「あっ!はい!観察眼!」
良かった。恐怖による硬直は解けたようだ。
「強さランクF!氷属性には強いですが、火属性には弱いです!」
おぉ、弱点まで分かるのか。
「了解!特殊スキル。属性付与!フレイム!」
俺は炎を纏わせるイメージでエト神から貰った魔法剣にスキルを使ってみる。
すると、手から湧き出した青い炎が柄の部分から剣先に向かって迸り、静かに燃える魔法剣へとその姿を変えた。
ウルフの大群が迫って来ているにもかかわらず、静かに燃えるその美しい剣身を見ていると、心が鎮まってくるのが分かる。
ピンチの時こそ冷静に。だ。
俺は魔法の皮服にも魔力を流し、防具にも炎のイメージを浮かべる。
「属性付与。フレイム」
呟くように唱えた次の瞬間、全身から燃え盛る青白いオーラのようなものが噴き出した。
「あつっ!シュンさん!大丈夫ですかっ!?」
「あ、ごめん。俺は大丈夫。自分の魔法だからか、全く熱さは感じないんだ。少し後ろに下がっていて」
「分かりました!」
50匹以上集まっていた狼達は、俺の体から発せられる熱を感じ取ったのか、10メートル程離れたところで立ち止まり、恐ろしい形相で威嚇の唸り声を上げている。
「さて、狼狩りと行きますか」
ダッ!
ザンッ!
一瞬だった。
群れのど真ん中に突っ込み一薙ぎで数匹のウルフを斬り払う。斬り口から炎が上がり、斬られた者達は叫び声を上げる事無く絶命する。
グルゥッ!
数匹が一斉に飛び掛かってくる!
ゴウッ!
キャィッ!
俺の体に近づきすぎたウルフ達は、あまりの熱さにもんどりうって地面を転がり、腕や顔を火傷で爛れさせた。
魔笛で敵対心を持っていなければ逃げ出していたのかもしれないが、ウルフ達は怯む事無く俺に向かって来る。
精神が研ぎ澄まされているのか、ウルフ達全ての動きが遅く見え、大群の中でも落ち着いて対処する事ができた。
「さぁ、残りも狩り尽くすか」
ザンッ!
ゴオッ!
ザンッッ!
ザンッ!
ウルフ達は俺の動きに全くついてくる事ができず、ただ斬られ、燃やされるのを待つだけだ。
50匹以上いた狼達は、ものの数分でその全てが死に絶えていた。




