2.天空の神殿
「13時31分」
白髪だらけの医師が若い看護婦に時間だけを告げ、ベットで寝ている俺に向かい二人で合掌し軽く頭を下げる。
そんな様子を、俺は病室の天井辺りから見ていた。
(ん?何この状況。えっ?幽体離脱ってやつか?)
看護婦が寝ている俺に繋がれている器具類を慣れた手つきで外していく。
(新人看護婦じゃなかったのかよ!ってそれはどうでも良いんだよ!
ってか、やめてくれ!俺はまだ生きている!)
不思議と一週間ぶりに声を出せている気がするが、下にいる医者と看護婦にはまったく聞こえていないようだ。
そして相変わらず身体は動かせない。というか身体自体が意識のある"ここ"には無い。
これは、まさか、、、
俺、死んだのか?
あまりに急な出来事に、息をしていない俺の身体が何処かへ運び出されても、片づけが終わって病室から誰もいなくなっても、俺はしばらく呆然としていた。
何も考える事が出来ずに佇んでいると、突然、上に向かって強い力で引き上げられる感覚が俺を襲う。
俺の意識は、病室の天井を突き抜け一瞬にして病院の建物から遠ざかる。そのまま雲の中へ吸い込まれるが、太陽の光が乱反射しているのか、眩しすぎて何も見えない。
身体が無いのに何故眩しさを感じるんだ?と、冷静に考えながらも流れに身を任せていると、眩しさが少しだけ和らぎ、ふと気がつくと俺は辺り一面真っ白な空間の中にいた。そして、目の前にあった霧のようなモヤが晴れると巨大な神殿が唐突にその姿を現した。
(これは...現実か?)
ビルの4階程の高さはありそうな神殿は、巨大な柱も、精巧な彫刻で飾られた壁も、建物全体が白く輝いており入るのが躊躇われるくらい圧倒される。
(入るのがだいぶ怖いぞ。中に何がいるか分からないし!けど...まぁ、誰かしらに導かれて?ここに連れて来られたんだろうから入るしか無いよな...)
他に行くところがあるわけでも無し、鬼が出るか蛇が出るか...
俺は二本の巨大な柱に挟まれた無駄に広い階段を登り、立派に装飾された開き扉を押して、恐る恐る神殿の中へと入って行った。