110.対竜王作戦会議
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バゴ革命軍本部会議室
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「し、信じられん…。レイルよ、本当にガイアの面々は既にレーベ山脈を制圧したというのか?」
広くない会議室の円卓に、ハークライツ元帥を中心に、四天大将ラウダ、サリオス、十騎士の生き残りライラックを始め数人の幹部達が集まり、驚きの眼差しをガイアと中将レイルに向けていた。
「うむ。我も最初は到底信じられなかったが、確かにこの目で確認しましたぞい。やつらの巣には一匹たりとも怪鳥は残っておらんでした」
レイルはこういった場が慣れていないのか、父親のハークライツに対しておかしな口調になっている。普通に敬語とか使えないのかな?
「ラウダ。これで分かったであろう?人類最強は伊達ではないのだ」
「ううむ…」
唸るラウダの横で、サリオスが夫のユーバーを見つめ微笑む。
「姉者、無論兄者も活躍したが、他の三人も同等、いや、シュン殿に至ってはそれ以上の働きをしたようだぞい」
レイル!良いんだ。こういう時はサリオスの旦那、ユーバーを立てないと!
「そ、そう。それは…益々ガイアのメンバーは頼もしいという事だな」
「ラウダよ。ここは一つ、シュン殿を信じ、精鋭部隊によるザダル暗殺作戦を実行してみても良いと儂は思うのじゃが…?」
「……。そうですな。私とてガイアの力を信じてないわけではないのですが…」
ラウダは目を閉じ、少し考えた後俺の目を見る。
「シュン殿、竜王ザダルを甘く見てはいけない。それだけは忘れないでくれ。この戦で皆、家族や親しき者を失っている。…きっと今まで経験した事のない死闘となるだろう」
「…はい」
「すまない。本来我々竜人族の問題であるのに…」
大将ラウダのその言葉に、不甲斐なさそうに俯く革命軍幹部の面々。
「シュン殿、情けない話だが、我らには現状を打破する妙案が無いのもまた事実。このままでは地力の差で帝国軍にいずれ滅ぼされてしまうであろう…」
「…父上」
力無く語るハークライツを姉弟が哀しそうに見つめる。
まあ確かに思い返してみると、軍議では揉めていてなかなか方針が決まらなかったようだし、サリオスが、基本的な身体能力で劣るはずの人族である俺達に助けを求めてきた事からも、状況は想像以上に悪くなってきていたのだろう。
危険を承知の上で、元帥自らが停戦協定なんかに出向くくらいだしな…。
「ハークライツ元帥。大丈夫です。それに、そんな事になったら人族の世界にもザダル達の手が伸びて危険にさらされるのですから、もはやこれは竜人族だけの問題では無いでしょう」
「う、うむ。そう申してくれると我々も有難い」
実際、今の状況はそこまで悲観しなくても良いとも思う。
仮に俺達がサリオスに出会わずに革命軍が負けた場合、人族は何の準備もないまま、いきなり竜王ザダル率いる竜人族帝国軍に攻め込まれていただろうし、今なら革命軍の強力な仲間達とも共に戦える。
ザダルの過去を聞き、強さをある程度測れたのも大きい。戦いの前にレイルからもっとザダルの事を聞いておこう。
「では、約束通り、少人数の数チームで攻め入りましょう」
「分かった…。しかし、何か策はあるのか?」
「はい。今から皆さんに説明します」
っと、その前に…。
俺は、四天大将という、元帥を支えるべき柱の一人エールマンがスパイだったと聞いた事を思い出し、感知Ⅱに意識を移す。
円卓を囲む面々は皆、緑の輪郭に光っている。
…取り敢えず全員敵対心は無いようだが、感情を抑えていたら感知Ⅱでも判別できないかもしれない。
…その時は諦めて力押しだな。
「俺の作戦はこうです…」
円卓を囲み、対竜王ザダルの作戦が皆に伝えられる。俺ありきの作戦だが、結構勝算があるのではないかと自分でも思う。
「な、なんともはや…。そんな事が本当に可能なのか?我らだけでは到底不可能な作戦じゃな…」
椅子から立ち上がり俺の作戦を聞いていたハークライツが、感嘆のため息と共に深く椅子に座り込んだ。
「多少の調整は必要でしょうが、恐らく可能でしょう。取り敢えず今夜は休んで、明日の早朝作戦を実行しましょう。それと、どこから情報が漏れるか分かりませんので、革命軍の皆には申し訳ないですが事後報告でお願いします。部隊の皆はバゴの街の護りに当たっていて下さい。この作戦は極秘裏に進めましょう」
「了解した。サリオス、レイル、ライラック。竜人族の誇りにかけて、必ずや作戦を成功させ、竜人族の未来を掴み取ってくれ!」
『はっ!』
竜人族からはこの三人に同行をお願いした。四天大将ラウダは革命軍を統率し、残る中将クラスの竜人と力を合わせバゴの護りと元帥ハークライツの護衛に専念してもらう。
「シュン、流石に少し疲れたわ。早く休ませてもらいましょ」
隣に座っていたローザが小声で俺に話しかける。コカトリス戦で肉体的にも精神的にも疲労したのだろう。いつもは明るいその表情にも疲れが見て取れる。
シュトロームも、珍しくユーバーも眠そうだ。
「そうだね。では、俺達はこれで失礼します」
「うむ。来客用の部屋を用意してある。少しの時間だが、ゆっくり休むが良い。レイル、案内を頼んだぞ」
「承知」
ハークライツはレイルに指示を出し、コカトリス討伐の報告と、作戦会議は幕を閉じた。
「シュン殿、今回シルヴィアは連れて行ってはダメかの?」
部屋に向かう途中、レイルが聞いてきた。ザダルを殺さず、レイルとシルヴィアで話がしたいと言っていたな。
「うーん、申し訳ないけど、シルヴィアさんは中将としてここに残って欲しいかな」
俺の作戦では初期段階では二つのチームで動く。
一つは俺、レイル、ライラック。
もう一つはユーバー、シュトローム、ローザ、サリオスだ。
支援、回復が使える俺とローザは別チーム。ユーバーとシュトロームにローザを守ってもらい、大将のサリオスは戦闘力の底上げだ。
俺のチームは十騎士でリーダーを務め、敵地で罠にかかっても、追手を振り切り単身ハークライツを護り連れ帰った実力者ライラック。中将ながら機動力が群を抜いて高いレイル。チームの戦闘力に関しては俺がいるのでユーバーチームともバランスが取れているだろう。
「そうかの。まあ、仕方ない。作戦に個人的な感情は禁物だからの!主に従うわい」
すまない。レイル。未知の強さを秘めたザダルから俺が守りきれるのは、多分二人くらいまでだろう。
「すまない。ありがとう。それより、ザダルの事をもう少し知っておきたいんだけど…」
「ぬ?それは構わぬが、休まなくて大丈夫かの?」
「ああ、俺の体は特殊だからね。疲労感もないし、ある程度なら寝なくても大丈夫だ」
実際ソウルイーターでコカトリスの魂を頂きまくったので疲労感は全く無い。むしろ元気が有り余っている。
「相変わらず凄いのう…。しかし、主は良いかも知れぬが…、他のガイアの三人も聞いておった方が良いのではないかの?」
「大丈夫。今は三人とも疲れてる。休養が優先だ」
「そうか。主らの力を知りたかったとは言え、コカトリス討伐なぞ…。すまなかったの」
「はは、良いよ、良いよ。レイルが謝る事じゃないし、それに、皆結構レベルアップできたしさ」
「そうか…。それなら良かったぞい」
申し訳なさそうに笑いかけてくるレイル。なんか…やっぱり良いヤツだなー。仲間にしたい。竜人族枠、サリオスと思ってたけど、レイル良いヤツ。この戦いが無事に終わったらサリオスとレイルとハークライツに話してみよう。
「むっ⁉︎」
「どうしたの?シュン」
急に立ち止まった俺にローザが声をかける。
…なんてこった。恐れていた事が起こってしまったようだ…。
「なんでもないよ。皆先に休んでて。レイルとザダル対策練るから!」
「え、これから?シュンも休んだら?」
「そうですよ。いくらシュンさんでも無理は禁物ですよ?」
「二人とも大丈夫だ。シュンはさっきの戦いでコカトリスから元気を貰っているからな。それに、そんなヤワな身体に作ってはいない」
ユーバーは意外とスパルタなのだろうか?エルモナルに来てすぐの時に、案内人として小屋にいて欲しかったと思った事もあるが、まあ、いてくれてなくて良かったかもしれない…。
「そうそう。大丈夫大丈夫。あ!ここが俺達の部屋だね。それじゃ皆また後で。レイル行こう。皆!ゆっくり休んでね!おやすみ!」
「え、ええ。おやすみ…」
ガイアの三人を部屋の前に残し、俺は足早にレイルとその場を離れる。
「シュン、どうしたのだ?急に焦り出したように見えるぞい」
「レイル!少しまずい事になった。革命軍の皆にくれぐれも街から出ないように急いで伝えられるか⁉︎」
「あ、ああ、それは構わんが、一体どうしたと言うのだ⁉︎」
「…敵襲だ」
敵対心を示す真っ赤な輪郭の大軍勢がバゴに迫っているのを、俺の感知Ⅱは捉えていた。




