106.レイルとシルヴィア
「シュン殿、先程は誠に申し訳なかったの」
「良いって。俺も不用意な発言だったよ。ラウダからザダルの昔話は聞いてたのに」
「ザダル…。あやつの強さは確かに尋常ではない。危険なヤツだぞい…」
「分かってる…。けど、レイルは良いのか?今はこんな事になっちゃったけど、昔は親友だったんだろ?」
「良いのだ。過ちを正すというのもまた、親友がやるべき事なのだ」
「…そうか」
レイル、良いヤツだな。友達になりたい。
「…シルヴィアもきっと、それを望んでおろうの」
「あ…」
シルヴィアさん…。確か色々あってレイルと良い仲になった矢先、ガーディアンにやられて…。あまり触れない方が良いかな…?だけどレイルからシルヴィアさんの話題出してきたし聞いた方が良いのかな…?
「ん?どうかしたかの?」
「あっ、いや、その、えーと…」
「?」
「…シルヴィアさんて、…どんな人だったの?」
「ハッハッハー。シルヴィアか。…我とシルヴィアとザダル、三人は幼馴染でのう。遊ぶのも勉強するのも、戦闘訓練の時も、いつも三人一緒におったのう…」
夜空を飛ぶレイルの顔は見えないが、その口調から昔を懐かしんでいる様子が感じとれた。
「シルヴィアは普段は少し抜けている所もあるが、正義感が強くてのう。我と共に竜人族が歩むべき正しき道を探していた。ザダルはあのような事になってしまったが、我はシルヴィアと二人でザダルが道を踏み外さぬよう見守っておったつもりだったのだがの…」
「うん…」
「その辺も大将ラウダから聞いたかの?まあ、それもあって、戦争が始まるまでは我ら二人でザダルを説得しようと話をしに行った事もあったのだが…。あやつも立場上なかなか会う事ができずにのう…。そうこうしておるうちに戦が始まってしまい、戦うしかなくなってしまったのだ…」
「うん。…え?」
「ハッハッハー!我もシルヴィアも結局力不足だったということよの」
「あ、あの…?」
「のう、シュン殿よ。これは我の勝手なお願いなのだが…」
「あ、はい?」
「できればザダルは殺さずに、降伏させてほしいのだ。あやつは負けを知らん。一度誰かに敗れれば、物の見方が変わるかも知れん」
「あ、それは、まあ、はい。良いですが…」
「本当か⁉︎すまぬの。我とシルヴィアとでもう一度ザダルと話をしたいのだ」
「あっ、あの!えと…」
「ん?何かの?」
「…シルヴィアさんてご健在で…?」
「む?健在も何も、我と同じく革命軍中将だぞい。本拠地におったが、会ってなかったかの?」
「ええっ!ククナの森でガーディアン・ロードにやられたんじゃ…?」
「む?…ああ、あの時の事も聞いたのだな。うむ。確かに、あの時は危うかったのう。失血により気を失いはしたが…」
「したが…?」
「ハッハッハー!もうダメかと思うた時、…奇跡が起こったのだ」
「奇跡?」
「そう、あれは、まさに奇跡だの…」
***
「おおおぉぉぉ!シルヴィア!シルヴィアアァァ!」
レイルの悲痛な叫びに、目を閉じたシルヴィアが返事をする気配はない。
「ぬうううう!恨むぞ!我自身よ!この世で一番大切な存在を守れぬようでどうするのだ!今!ここでシルヴィアを助けることができるのは我しかおらぬのだぞ!」
自らを鼓舞し、レイルはシルヴィアの細い腰に開いた傷口を強く押さえ立ち上がる。
「我のために回復薬を使ってくれたせいでシルヴィアはこんな目に!…ここで救えなかったら一生後悔することになるぞ!それでも良いのか!レイルよ!」
自分自身に発破を掛け、何とか歩こうとするが怪我と疲労で思うように足が前に進まない。
「くそーッ!!神よッ!!エト神よ!頼む!我に力をッ!大事な者を救える力を、授けてくれいぃッ!!」
その場に膝をついてしまったレイルは天を仰ぐが、その声に答える者はいない。
「…くっ、ううッ、すまぬ!すまぬの!シルヴィア…。我の力不足で、主を、救ってやれん…」
動かないシルヴィアを胸に抱きしめ、消え入るような声で咽び泣くレイル。
と、その時、そんな彼の耳に不思議な声が届いた。
「…イル」
「…レイル」
「⁉︎…だっ、誰かの⁉︎」
レイルは驚き、顔を上げ辺りを見回すが、誰も見当たらない。
「…レイル。正しき者よ…」
よくよく聞いてみると、優しくも威厳のあるその声は天から響いているようだ。
「…」
現実離れした状況に、言葉を失い空を見上げるレイル。
眩しい光に遮られ、上を見ても、声の主はおろか、何も見ることはできない。
風は止み、レイルとシルヴィアがいるその場だけに暖かな光が空から降り注ぎ、草花が青々と茂る。
「レイル。お前の望む力は愛する者の為。もう一人の竜人が求めた己の為の力とは全くの別物だ…」
「…」
「これで…大切な者を護るが良い…」
その台詞を後に光は消え失せ、冷たい風に頬を撫でられたレイルは我に返る。
「…い、今のは一体…」
今のは現実なのだろうか?それとも自分の願望が見せた幻か?
迷うレイルだったが、今のがもし現実なら、何らかの力でシルヴィアを助けられるかもしれない。
そして、シルヴィアを助けたい、と、レイルが改めて強く思った次の瞬間。
「ぬううッ!」
体の内側から今までに感じたことの無い大きな力が湧き上がり、その全身が青白く光輝く!
グオオオオオォォォォッッ!!
大地を震わす咆哮が、ククナの森に響き渡る。
森に突如現れた巨大なブルードラゴンは、気を失った少女を背中に乗せ、学園都市パンデモニウムに向かい飛び去って行った。
***
「そうか、そうだったんだ!それでシルヴィアさん無事だったんだね!」
「ハッハッハー!我の事も少しは見直したかの?」
「ああ!流石レイルだ。やる時はやる男だね!」
「ハッハッハー!当然だの!」
「良かったー。ラウダから聞いた昔話だったけど、俺、レイルもシルヴィアさんのことも凄い好きになっちゃってさ!」
「ハッハッハー!それは光栄だの!夫婦揃ってこれからも宜しく頼むぞい!」
「ええっ!二人結婚したんだ!やっぱりねー!良かった!おめでとう!」
「ハッハッハー!ありがとうの!」
「あー!早く皆にも教えてやりたいなー!きっと皆もシルヴィアさんの事知らなくてレイルの事可哀想に思ってるよ」
「む、そうなのか?ならば早く知らせてやらぬとのう」
「通信でローザに言っちゃお」
「よせよせ、もう寝ておるかもしれぬぞ?」
「あ、それもそうか。じゃあ合流してからにするか」
「ハッハッハー!何、もう間もなくレーベ山脈に着くわい!」
「おお、俺が眠れなかった!」
「ハッハッハ。すまぬの。しかし一晩くらい寝ずに平気で戦えるようで無いと、戦争なぞやってはおられぬぞ?」
「そ、そうだね。まあ、コカトリスが何匹いるのか知らないけど、速攻で終わらせて、余った時間で寝るとするよ!」
「ハッハッハー!その意気や良し!」
意気込みで言ったんじゃなく本気で言ったんだけど、まあ良いか。
こうしてレーベ山脈に着いた俺はレイルを残してすぐさま瞬間移動でローザ達の元へ飛び、今度はガイア全員でレーベ山脈へと瞬間移動したのだった。
レイルの力を覚醒させたのはエト神だったのでしょう。
エト神は基本人々に直接干渉しませんが、レイルの強い強い願いが届いたのだと思います。
シルヴィアさんのことは合流してすぐにガイアの皆に伝えました。




