105.レイル
「ハッハッハー!上層部より何やら厄介事を頼まれたようだの⁉︎」
会議室を出た俺達ガイアの四人は、革命軍本拠地の中庭でレイルと合流していた。
「うん。まあだけど、俺達もレベル上げしたかったから丁度良かったよ」
「そうかそうか。ならば早速レーベ山脈に向かうとするか。時間がないのだろう?」
「あ、待ってくれ。皆準備は良いか?」
「ああ」
「ええ」
「大丈夫です」
「よし、それじゃレイル、頼むよ」
「承知!」
レイルはそう言うと目を瞑り精神を集中する。
するとレイルの体の中心が眩く輝き始め、一瞬のうちに全身が青白く光ったかと思うと、目の前に深い青色の巨大な竜が姿を表した。
竜化したレイルは尻尾を器用に使い、中庭に用意してあった船型の籠を自分の背中に乗せる。
「さあ!こちらも準備は良いぞい!レーベ山脈までは一時間もあれば着く。夜通し戦闘になるだろうから少しでも寝ておくが良い」
「すまない。ありがとう」
言いながら俺達は籠に乗り込んだ。
「なんの!では出発!」
こうしてガイアの四人を乗せたレイルは大きく羽ばたきバゴの街を後にした。
***
「ユーバー、ちょっと…」
レイルの背中の上で俺はこっそりユーバーを呼ぶ。
「なんだ?」
「いや、ちょっと確認。一日って24時間で良いよね?」
「?…そうだが?」
「だよね!うんうん。いや、何でもないんだ。ありがと」
レイルの言う一時間が地球の時間感覚と違っていたら仮眠を取るのに困る。今まで時間の進み方に関しては体感地球と変わらないと思っていたので気にしていなかったが、一応確認しておいた。
因みに今はすっかり夜も更け、月明かりと満天の星空の下、俺達はレーベ山脈に向かっている。
「ねえ、シュン。コカトリスってどんな敵なんだろうね?」
「さあ?ユーバー知ってる?」
「うむ。サリオスも言っていたが、コカトリスは巨大な怪鳥だ。基本的な能力も高いが、最も厄介なのは奴の嘴だ」
「嘴?」
「正確には唾液だな。コカトリスの唾液に触れると体が徐々に石化してゆくらしい」
「なんだって…⁉︎」
「その鳥なら魔人族の国にも生息していますよ。飛行を使えない魔人にとってはかなりの強敵です」
「そうか…。石化って治せるの?」
「普通は治すことはできん。死と同等、いや、不老不死すらも無力化する、死以上の恐ろしさを持っている状態異常だ」
「うえ…」
「まあ、普通なら。の話だが」
「と言うと…?」
「うちのリーダーは普通じゃない存在の筆頭ですからね。何かあるのですね?」
シュトローム。失礼な事を言う。
「…エデンだ。あれを常に展開しておけば石化も治る」
出た。最強の回復魔法。反則的な便利さだ。
「エデンが切れたらまずいのか。そこらに何個も出しておけば良いかな?」
「いや、そうもいくまい。あの魔法は確かに最高の回復能力を持っているが、一つだけ致命的な弱点がある」
「え…。何?」
「あの魔法は使用者の意思とは関係なく、効果範囲内に入る者全てを回復する」
「うん」
「つまり、敵もあの中に入ると回復するのだ」
「えっ」
「回復に専念できる時や、闘技大会のようにある程度のルールがある場なら良いが、乱戦になる戦場ではいまいち使い所が難しい魔法だ」
「そうだったのか…」
常にエデンの中で戦えば良いと思ってた俺は、ユーバーの言葉に肩を落とす。
「そうガッカリするな。コカトリス戦では貴重な石化回復手段だ。常に一つはエデンを展開しておいてくれ。石化攻撃を受けた者は最優先でエデンに入るようにな」
「分かった」
「ええ」
「承知しました」
「あ、一応最初に少し倒してみて、大丈夫そうだと判断したら魔笛で呼び集めるからね」
「魔笛を使って狩るから、会議の時全滅させても良いか聞いてたのね?」
「うん。本当は、いて困る魔物なら問答無用で全滅させたい。ただ、竜人族は魔物を食べる事もあるみたいだから一応確認したんだ」
「ああ、そういえばサリオスが言ってたわね。帝国軍は人も魔物も食料にしようとしてるって…」
「うん」
⁉︎
感知Ⅱに敵対反応⁉︎
フワッ
「えっ⁉︎」
「あっ!」
「キャーッ!!」
「むううっ!」
「わあああアッッ!」
ゴオオオオォォッッ!
会話の途中、一瞬の浮遊感の後、籠が突然地面に向かい一直線に落下し始めた。
何が起きた⁉︎レイル⁉︎
あまりに突然の出来事に俺は声も出せず状況を把握しようとする。
レイルが誤って落としたか⁉︎いや、それにしては早すぎる!明らかに自由落下より早い!レイルが俺達を背負ったまま急降下しているのか!
「キャー!シュン!助けてー!!」
「シュトローム!ユーバーを頼む!」
「わっ!分かりました!」
「ゼログラビティⅢ!」
俺は必死に柱にしがみつくローザを抱えて籠を脱出した。
同じく飛行を持つシュトロームがユーバーを抱え脱出する。
ドッガーンッッ!
俺達が落下する籠の中からなんとか脱出した直後、レイルの背中から放り出された船型の籠は地面に叩きつけられ大破した。
木片や土埃が舞うその奥から青白く光る目が二つ此方を見据えている。
「…兄者だけは助けるつもりだったが、全員無事か。さすがだのう」
「レイル⁉︎どう言う事だ!」
ラウダから語られた昔話を聞き、レイルの事をすっかり気に入っていた俺はあまりに突然な出来事に驚く。
「…」
レイルは俺の問いには答えず、鋭い目つきでユーバーを睨む。
「兄者…。どう言う事か説明してもらいたいのだが…?」
「…何をだ?」
「とぼけるでない!今主らが話しておった事、我は聞き逃さん!」
「だ、だから何のことよ…⁉︎」
「…魔笛」
「えっ?」
「何故闇の眷属の発明品である魔笛をシュンが持っておるのだ!まさか…、我らを騙しておったとなればいくら義理の兄でも許さんぞ!!」
『………』
「ククッ!」
「プッ!」
「あーはっは!」
「…」
俺とローザは思わず吹き出し、ユーバーは笑い、シュトロームは力が抜けてその場に座り込む。
「なっ!何がおかしいのだ!我の言葉に答えよ!」
「あっはっは、すまんすまん。違うのだ、落ち着けレイルよ。誤解だ」
「む?…誤解、とな?」
「そうだ。魔笛といっても、私達が言う魔笛は魔器の魔笛ではない」
「…何?」
「効果は同じだが、私達の言う魔笛はシュンのスキルだ」
「なっ⁉︎あんなとんでもない能力が、個人のスキル…だと…?」
「ああ、コカトリス戦を見ててもらえば分かるよ。道具なんて使わないでも出来るからさ」
「なっ…」
「しかし、レイルさんもやり過ぎじゃないですか?本当に敵なのかまだハッキリしていないのにいきなりこの仕打ちは…」
「むっ!くっ!…もっ!申し訳なしッ!我の早とちりでとんでもない事を…!」
「シュトロームよ、戦場では一切気を抜かないのは当然のことだ。やらねば自分がやられて終わりなのだからな。常に神経を研ぎ澄ませ、状況を判断して即座に最善の策を講じる。流石レイルは一流の戦士と言う事よ」
「兄者…」
「だけど、船、無くなっちゃったわね」
「うーん…。ねえレイル。船無しでも皆を運べる?」
「出来なくもないが…不安定だし、とても仮眠なぞ出来るものではないかのう…」
申し訳なさそうにレイルが言う。
「あ、そうだ。皆はここで休んでてよ。俺だけレイルに連れてってもらうから」
「む?我は構わぬが、どうするのかの?」
「レイルと二人でレーベ山脈に着いたら、瞬間移動でここに戻るよ。それからまた皆でレーベ山脈に瞬間移動しよう」
「成る程な…。規格外すぎて私もそんな作戦思いつかなんだ」
「そんな事までできてしまうのか…。シュン殿、その、瞬間移動は何人でも出来るのかの?」
「さあ、多分同じパーティーメンバーだけ、かな?」
「そうか…」
残念そうな様子のレイル。
「ああ、革命軍の大部隊をまとめて一度に敵本陣に移動させようって事か。さすがにそれは出来ないかな…」
「ぬう…。良い策だと思うたがのう…」
「さて、それじゃ時間も無いし、行こうか、レイル」
「承知した。要らぬ心配かもしれぬが、ここも魔物がおらんわけでは無い。船の破壊音に釣られて様子見に来る者もいるかもしれぬ。我の失態でこんな事になり申し訳ないが、休むなら交代で休むと良い」
「ああ」
こうして俺は一人レイルの背中に乗り、改めてレーベ山脈へと向かうのであった。




