住めれば都2
ふと、部屋の上部に設置されているテレビモニターに目がいった。
なぜなら、普段見慣れている建物が映っていたからだった。
真緒もそれに気付き口を開いた。
「あー、あれ永ちゃんの家じゃん。」
宇宙を近くに!新型マンション着工へ!!
愛菜もテレビに目をやり、画面右上のテロップを見ると続いた。
「今度また新しいのが建つのね。私も本当は住みたかったなぁ。」
「愛菜さん住めばよかったじゃないすか。」
口にかきこんでいたのを一時中断して一花が聞いてきた。
「それがね、審査が通ったと思ったらなくなっちゃったの。
後になって紙が送られてきて理由を見てみたら、小学校の時に一緒だった子が犯罪で
捕まっちゃったからだって。もう10年以上も会ってないのに・・・。」
一花の口元を拭きながら答える愛菜は少し残念そうに溜め息を漏らした。
永も入居する際隅々まで調べられた。先程のように過去の友人のこと、卒業した学校、
また両親の職歴や関わりの深い人物まで事細かく調べられる。
その中で少しでも怪しいことが見つかればすぐにはじかれてしまう。
「私も住みたかったなぁ。高校さえ中退していなければ!
真緒さんは住みたくないんすか?」
今度は真緒に話題を振ると、脇のポテトを口に含んだ。
「無理無理!だって音すごいんでしょ。外にまで聞こえているもん。
それに入った頃の永ちゃんの顔すごいゲッソリしてて今でも覚えているよ。」
「あはは・・・。でも、今はもう慣れましたよ?」
再びテレビに目をやると、場面が変わり一人の男性が記者と思われる人達に囲まれている光景が映し出される。
そして、その中の一人が男性に質問を投げかける。
「今回新たに建てる分離式のマンションについてですが、やはり武保町での
経験を元に案を押されたのでしょうか?」
少し間を開けると男性は話し出した。
「はい、事実この分離式の建物が建ったことで武保町への観光客は増えました。
大都市程ではありませんが、賑わいを見せているのは間違いありません。
前回は初めてということで試験的な導入ではありましたが、
今回から県知事として全面的にバックアップしていこうと思っています。」
「田辺さん頑張ってるなぁ。でも、他の所にも力入れてよねー。」
コメントを聞き終えると、背もたれに体重をかけながら真緒は呟いた。
「本当に賑わってるんすかね?前と変わったのか分かんないですけど。」
「そうねぇ。あっ、真緒さんそろそろ行きましょうか。」
愛菜は部屋に飾られた時計を見て真緒に呼びかけた。
「あー、もう時間か。んじゃ、一花、永ちゃん先に行くね。」
「いってらっしゃい」
「お疲れ様です!」
真緒は二人に一言ずつ送るとお盆を持ち、愛菜も真緒に続いて部屋を後にした。
その後、永達はしばらくお喋りをし時間を過ごした。
休憩が終わり厨房へと戻る通路の途中。永は一花の少し前に出て振り返った。
「一花さん、私トイレ行ってから戻ります。先行きますね。」
「あーい。また後で。」
一花と別れ厨房へと小走りで戻る。
着くと返却台にお盆を返しそのまま店の外へと向かった。
この店にはトイレが備わっていない。
同じ階にトイレがあり、従業員はもちろん客人もそれを利用している。
店を出て左に進み突き当たりを右へ行くと到着するのだが、その通路の一面は全て窓になっており、
宇宙船が出入りする様子を真上から見ることが出来る。
しかし、目の前に永の自宅が構えているためこの通路を行く際複雑な心境になるようだ。
通路を曲がり女性トイレに入る最中、通路の向こうにある二つの人の姿が目に入った。
一人は永に背を向ける形で立っており、もう一人は向かう形で立っていた。
そこに人がいるということ自体珍しいことなのだが奥に立つ男性の顔を見てさらに引き付けられた。
先ほどテレビで記者達に囲まれていた「田辺 廉一」県知事その人が立っていた。
口元が動いている様子から、会話をしているのが読み取れる。しかし、何を話しているかまでは聞き取れない。
(こんな所で誰と話してるんだろう?)
自然と足が止まり、好奇心から意識を向けてしまう。
その時、窓に水滴が一粒・二粒とまるで図ったかのように付き始め、朝から曇り空だった空は
ついにパラパラと雨が降り出した。
それらの雰囲気に動物的直感、あるいは第六感に近いものだったが永は不安を覚えた。
まるで、これから起こることを表すように通路は薄暗く、静かに雨は降り続いた。