22話 新生活
昨日は城にそのまま泊めてもらい、エストワール王や王妃様、ルウナに加えて皇太子殿下と食事を一緒にした。この時に初めて知ったが、ルウナの兄、皇太子はアベル・オブ・エストワールと言い、線の細いハンサムな人だった。年齢は僕と同い年くらいか?人柄も穏やかだが優しいというのは、王になったら苦労しそうだなと思ったのは内緒だ。アベル皇太子からも「ルウナをよろしくね。」と言われた。王族の皆が、セシリアやソフィアが食事に同席していても嫌な顔を一つしないし、本当に良い家族だ。
アベル皇太子は好奇心旺盛な様で、僕のことやスキルのこと等を聞かれた。気さくな性格で仲良くできたら良いな。そういえばルウナについては、今後、僕と一緒に住むが(ルウナが決めた。)結婚はまだ秘密にするらしい。エストワール王曰く、ルウナは見目良く性格も良いから他の貴族にもてるらしく、ぽっと出の僕と結婚するとなると一悶着あるかららしい。まあ、王女の結婚と言ったら一大イベントだからな。発表できるくらい活躍して、相応しい身分になれ、ということかな?今の僕に領民は誰もいないけどね。
翌日、僕はエストワール王がいろいろくれた礼について説明してもらうことになった。
「私は、エストワール王国宰相のグランド・ビスケットという。ヤマト子爵に王から下賜される屋敷等について説明しよう。」
グランド・ビスケット・・・大きなビスケット?名前とは裏腹にナイスミドルな壮年の男性と向かい合っている。
「まず屋敷だが、この王城からそれほど離れていない場所を用意したつもりだ。変更はきかないが、後で自分でも確認してほしい。それと、開拓の資金だが黒耀貨100枚となる。開拓の資金としては少ないが、これをどうするかは子爵に任せる。好きに使って良い。あと、最後にヤマト子爵も貴族となったのだから、家名を決めて欲しい。出来れば早めに頼む。」
家名か。貴族なら必要だよね。ルウナやセシリア、ソフィアとも相談して決めよう。とりあえず屋敷を見に行くか。僕達は一晩お世話になった礼を言っ後、屋敷を見に行くことにした。
案内された屋敷を見ると、あまりの敷地の広さに「でかすぎだろ。」と呟いてしまった。セシリアも「掃除やその他の管理が大変ですね。」と心配していた。今いるのは僕、セシリア、ソフィア、ルウナの4人だ。因みに、ここまでは城から馬車を用意してもらった。屋敷は三階建てで、中央が奥まっている所謂「コの字」の型をしている。門扉を通ると正面に屋敷が見えたが、その間に広い庭がある。門扉から屋敷までが遠い。これ、庭の手入れだけでも大変じゃないか?僕達が屋敷に入ろうとすると出入口が開き、一人の初老の男性と若い女性が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、ヤマト様。私はエドワードと申します。王から、こちらで執事の役をするよう仰せつかりました。よろしくお願い致します。」
初老の男性は、執事が着るような燕尾服を着こなし、「これぞ執事!」という様にお辞儀する。何でもエドワードさんは、ルウナの教育係だったようで、もう一人の若い女性と共にエストワール王から遣わされたようだ。
「初めまして、私はアンナと申します。」
メイド服を着た女性、アンナはルウナ付きの侍女だったようで肩くらいの長さの茶髪だ。ルウナと同じような年みたいだし、ルウナも気の知れた者がいると何かと助かるだろう。二人を見てルウナが、
「ヤマト様、二人とも優秀なんですよ。」
「エドとアンがいてくれるなら心強いですね。」
と言う。セシリアやソフィアもエドワードさん達に挨拶をしている。セシリア達が奴隷だからといって、エドワードさんが態度を変えないことに内心、僕は安堵していた。僕がそれとなくその辺りを聞いてみると、
「ヤマト様が、彼女らを大事になさっていることは、彼女らの服装や雰囲気からも承知しております。」
と答えてくれた。何も言わなくても僕の意を汲んでくれたらしい。ルウナが言うように、エドワードさん達は本当に優秀なんだろう。その後、エドワードさんの案内で屋敷を見て回った。屋敷は、外から見ただけでも大きいと思っていたけど、何部屋あるのかすぐには分からなかった。その他に、結婚披露宴やパーティーが出来そうな食堂(会場?)や、風呂まであった。部屋は一人一部屋に決めた。皆から、特にセシリアからは「奴隷に個室を与えるなど」とか遠慮したが、部屋は有り余っているし押し通した。因みに僕の部屋は三階中央で、一番日当たりが良くて広い部屋になっていた。いつの間にかね。僕の部屋の正面がルウナの部屋で、両隣がそれぞれセシリアとソフィアだ。エドワードさんとアンナは一階の部屋を希望した。
昼食を例の広い食堂で、皆でとることにした。普通の貴族は皆と食事をしないんだろうが、ここは王都の拠点であって任された領地でもないから、僕は貴族にこだわるつもりもない。皆で食べた方が楽しいし美味しいだろう。食事をしながら今後のことを話し合う。
まず、仕えてくれるエドワードさんやアンナの給料を決め、生活費等はエドワードさんにある程度預けて管理してもらう。それ以外に、
・人手を増やす
・領地の開拓
・冒険者の活動を行う
と、ざっくり言うとこうなった。人手を増やすのは、屋敷や庭等の管理に人員が足りないからな。エドワードさんが言うには門番や警備に2人ずつの3交代制で6人、庭の管理と料理人がそれぞれ2人ずつ、メイド3人くらいの合計13人の増員が欲しいらしい。結構な増員だが、この屋敷の管理にはまたま足りないかもしれない。あくまで最低限だ。皆と話し合い、増員は奴隷を購入することにした。理由は手っ取り早いというのもあるが、秘密の保持もある。僕のスキルは異常だからな。奴隷ならば秘密を言いふらすようなことはできない。
それと、僕が以前から考えていたことも試したい。奴隷ならばすぐに【眷族化】ができると思うが、眷族にした奴隷に適したスキル、例えば警備の者に【索敵】とか【剣術】を覚えてもらうとか、メイドに【礼儀作法】や【料理】、【掃除】等を覚えてもらう。そうすると、あっという間に優秀な人材が揃いそうな気がする。あとは奴隷の性格くらいしか気にしなくても良いんじゃないか?極端な話、才能が無くても性格で選べば良い。ま、多少は容姿とかその者の境遇を加味して決めるか。
次に、領地の開拓についてだが、これはすぐにはできないだろう。これも増員と同じ理由で【建築】のスキル等、適したスキルを所持してもらうつもりだ。
最後に冒険者の活動について、パーティー【撼天動地】を結成してから、ろくに活動してないからな。せっかくSランクになるなら、頑張ってみよう。【眷族化】した奴隷のスキルポイントや、奴隷を購入するお金も稼がないといけないし。それと、本人の希望でルウナも冒険者登録をすることになった。ルウナは、魔法を使っての後衛を希望しており、特に【回復魔法】を覚えたいそうだ。何でも、王妃様のように困っている人を助けたいのだとか。そういえばルウナのステータスを知らないな。今度確認させてもらおう。
あと試したいのが、【眷族化】した者にパーティーを組んでもらい、僕がいないところで魔物を倒したらどうなるか、だな。
とりあえず今のところは、以上の三点を目標に活動していくことにしよう。できることから少しずつだな。




