21話 王女を妻に?
王城の一室に僕達は案内された。部屋は華美と言うほどではないが、落ち着いた雰囲気を感じる趣味の良い部屋だ。部屋の奥、中央にはベッドが据えられ、そのベッドに腰かける一人の女性がいた。女性は、30歳くらいに見える金髪で、どことなくルウナ王女に似ている。おそらく彼女がエストワール王の奥さん、つまり王妃様だろう。エストワール王が、
「彼女が俺の妻、カレンだ。原因の分からない病で床にふせっている。カレン、体の調子はどうだ。」
とカレン王妃に問いかける。
「あなた、今日は何だか調子が良くて起き上がることができたのよ。それよりも、お客様かしら?」
と答えるが、その瞳を閉じたままでこちらを伺う。目が見えないのだろうか、素人目にも衰弱しているように思う。
「今日は、回復術師をつれてきた。ヤマト、カレンは原因不明の病で身体が弱まり、現在では目が見えず歩くことも困難だ。何とかならないか?」
と頼んできた。その様子に、エストワール王が本当にカレンさんを案じていることが分かる。さて、ただ高レベルの回復魔法を使えば良いか分からないな。【鑑定】してみるか?本当は王妃を【鑑定】とかしたら不敬なんだろうけど調べないと分からないしね。エストワール王から了解を得て【鑑定】してみると、
【Name】カレン・オブ・エストワール
【スキル】礼儀作法Lv6、生活魔法、魔力量増加Lv2、魔眼(魔力視)
【状態】魔力欠乏状態
【称号】エストワール王妃
スキルが多いけど注目すべきは、魔眼(魔力視)と魔力欠乏状態だな。この2つをさらに詳しく調べてみる。
【魔眼】(魔力視)
魔力を視認することができる。習熟することで任意に発動。魔力を介して生物の感情を読み取ることができる。
【魔力欠乏状態】
魔力が減じ、欠乏に至った状態。長期欠乏状態の継続により身体は徐々に衰弱する。
どうやら、この魔眼を使いこなせてなくて魔力が欠乏し、身体が衰弱してきたみたいだな。魔眼に習熟すればオン・オフできるみたいだし、慣れれば相手の感情、好き嫌いとか嘘をついているとか?が分かるんじゃないかな。魔眼の習熟には努力してもらうとして、問題は魔力欠乏状態をどうするか。僕の魔力を譲渡出来れば良いんだけど、回復魔法のレベルを上げてみるか。
僕はスキルポイントを使い、【回復魔法】をLv10まで上げてみる。よし、いけそうだな。
「王妃様、【回復魔法】をかけさせてもらいます。よろしいですか?」
と確認すると、王妃様は若干顔を曇らせ、
「ええ、構いません。ただ、今まで幾度も【回復魔法】をかけていただきましたが、この病が治ることはありませんでした。」
と答えた。まあ当然、治療するのに【回復魔法】は試してるよな。僕は「とにかく試させていただきます。」と言って、
【トランスファー】!
と唱える。淡い光が僕から王妃様に向かい、光が王妃様を包む。最初だからゆっくり、丁寧にすることを意識する。しばらくすると王妃様の顔色が良くなり、生気が戻ってきた気がする。
「王妃様、身体の調子はどうですか?」
と聞いてみる。すると王妃様は目を見開き、視線を落ち着きなく動かすと、エストワール王をまっすぐ見つめ、
「あぁ・・・見えます。はっきりと・・・あなたの顔がよく見えます。あなたっ」
と言って目に涙を浮かべ、エストワール王に手を伸ばす。
「本当か!?カレン!」「お母様!」
エストワール王とルウナ王女が王妃様に駆け寄る。三人は抱き合い「本当に良かった。」と何度も言っていた。
僕は、推測が正しかったことにほっとしつつも、抱き合う3人を見ながら嬉しかった。改めて、女神様から貰った僕のスキルは、人助けや良いことに使おうと思った。間違っても力に溺れることが無いようにしたい。
僕がそんなことを考えていると、「良かったですね。ヤマト様。」と言って、セシリアが微笑んでくれた。ソフィアも「さすがヤマト様です!」と興奮していた。
「うん、本当に良かった。僕達のスキルは、こういうことに使いたいね。」
そう言ってセシリア達二人に答える。まずは、身近なこの二人くらいは守れるくらいに強くなりたいな。
抱きあっていた三人が落ち着いてきたころ、エストワール王は
「いや、取り乱してすまなかったな。それとヤマト、妻を治療してくれてありがとう。しかし何故治療できたのだ?」
と聞いてくる。僕は【鑑定】から知り得た情報や推測、もちろん今後の魔眼への対応も伝えておいた。それと、必要があれば魔力の譲渡も約束した。
「そうか。とにかく助かった。しかし、噂通りヤマトは何でもできるな。俺が聞いているだけでも【風魔法】や【空間魔法】、そして今回の【鑑定】に【回復魔法】、他にもできそうだな。何故だ?もちろん聞いたからといって、妻の恩人の秘密を言いふらすようなことはしない。」
と、まっすぐ僕を見つめてきた。エストワール王には話しても良いか。信用できそうだし味方になってくれるなら、これほど心強い人はいない。そう思って僕は全てを話した。そうすると、やはりセシリア達のように「ヤマトは勇者か?」と尋ねてきた。もちろん否定しておいたが。
話が一段落すると、今度はエストワール王がルウナ王女に「どうだ?」と尋ねた。何の話だろう?ルウナ王女も「私は構いません。是非に。」と頬を赤く染める。エストワール王は頷き、
「ヤマト、妻を治療してくれた礼だが、可能な範囲でと俺は言ったな?だからまず、お前の冒険者ランクをSに推薦しておく。あとは、王都に屋敷をやるし、ルウナを妻に迎えてやってくれ。」
は!?一度に言われて、最後聞き逃しそうになったけどルウナ王女を妻にって言った?
「ちょっと待って下さい!冒険者ランクは、まあ置いておくとしてルウナ王女を妻にって?あと領地を頂けるとおっしゃっていましたが、何故王都に屋敷なんです?領地に行くんじゃないんですか?」
僕の質問にエストワール王は、何でもないことのように、
「もともとヤマトに会い、その性格に問題がなく且つルウナが気に入れば、ルウナを嫁がせても良いと思っていたからな。領地は王都から南西にある魔物の森だ。何にもない。他の貴族から文句も出ないと言ったのは、これが理由だ。好きに開拓して良いぞ?何もないから、ルウナを嫁がせても拠点となる屋敷くらいはないと困るからな。開拓資金として若干の資金は出す。」
と説明してくれた。王都から南西の森って、僕が最初にいた森じゃん!確かに魔物と自然しかないな。でも結構、いやかなり広いと思うけど。ルウナについては、すごく可愛いから僕に文句は全く無いんだけど、
「ルウナ王女、貴女は本当に良いんですか?」
と聞いてみると、
「私のことはルウナとお呼び下さい。ヤマト様。」
と微笑んだ。可愛い・・・じゃなくて!はぁ、まあでも僕にとって良い話なのは間違いないしな。
「分かりました。これからよろしくお願いします。ルウナ。」と言ったら「敬語も禁止ですよ?」と言われた。ルウナは敬語なのに。頃合いを見計らっていたのか、エストワール王が、
「話はついたな。ヤマト、ルウナを幸せにしてやってくれ。屋敷については、準備しておくから明日には案内させる。今日はここの客室に泊まっていけ。」
と言われ、僕達は城に泊まることになった。
※現時点のヤマトのステータス
【Name】ヤマト
【スキル】鑑定Lv10、全言語理解、スキルメニュー、風魔法Lv10、索敵Lv10、生活魔法、空間魔法Lv10、二刀流Lv10、隠蔽Lv10、回復魔法Lv10、眷族化Lv10、危険察知Lv10
【SP】7
【称号】女神の加護
【眷族】セシリア、ソフィア




