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全力の謝罪

「あ、あのさ……その、も、もうひとつだけ確認させて、もらいたいんですが……」

「けほっ……なんか、喋り方、おかしくない?」

「いっ、いやホントもう全面的にこちらが悪いっていうかそうなんだけど……その一応その前にひとつだけ確認しておきたいんだが……なんで身体、回復しないんだ?」

「……なんだか今史って、ボクのことなんでもありの化け物くらいに思ってない?」

「え、えーと、その……違うのか?」

「ひ、ひどーい……っ!!」

 ガチで泣き出された。これにはさすがにビビった、というかまともな判断が出来なくなり、もう――

「あ、あの……わりぃ……っていうかすまん、いや申し訳ない! あーもうゴメンゴメンゴメンゴメン俺が本当に悪かった……っ!」

 謝り倒しだった、何度も何度も頭を下げる。もうなんていうか、もうどうしようもなかった。

 完全に悪いのは、こっちだった。

「というかあの、その……ほ、本当にゴメンッ!!」

 ゴン、と頭を地面に叩きつける。土下座で頭を擦りつけるのの、全力バージョンだった。

 それに吸血――宮藤は、両手を目に当ててわんわん泣いてたのを、止めた。キョトンとした瞳をして、ぽかんとこっちを見つめている。

 それに顔を上げると、視界に赤いものが混じってきた。どうやら勢いよく頭突きしたおりに、地面の砂利で額を切ったらしい。まったくもってみっともない。自分らしくもない。だけどそれでも、誠意を見せたかった。

 自分の先入観のせいでしてしまった、彼女への謝罪として。

「その……勝手に人殺し扱いしちまったことも、化け物扱いしてたことも……ああそういえばいきなり目突きして蹴っ飛ばしたことも……! もうあれもこれも本当に、ゴメンッ!!」

 そこでもう一度、地面に頭を叩きつける。白柳今史、一生モノもいえる不覚だった。

 できることなら、なんでもしたい。

「その、俺に出来ることだったらなんでもするから、だから、その、許し――」

「なんでもしてくれるの?」

 まるで子供が親の贅沢発言に驚いたような声色。

 俺は思わず、顔を上げていた。

 印象通りの真っ直ぐな視線が、胸に痛かった。

「あ……ああ、する、けど」

「じゃあボクのこと、助けてくれる?」

 まるで時が逆戻りしたような感覚を覚えた。付き合うとか色っぽい言葉じゃないのが、むしろリアルだった。そっちの方がいい。付き合うだと、むしろ御褒美みたいだ。今の俺は、苦行のほうがいい。

 吸血鬼を狙う者と、相対するという。

「ああ、助けるさ。だから、今までのは――」

「ありがとうっ」

 抱き、つかれた。

「――――」

 と脳が理解するまで、おそらくは数秒の時間を要したと思う。最初感じたのは、なんか温かい。心安らぐなとか、そういう益体ないもの。次に浮かんだのは、なんかやーらかいなとか、俗っぽいもん。そして鼻で、いー香りだななんて。

 そして、

「うぇ!? い、あ、え、その……?」

 噛むの? と次に思った。幸人の二の舞は、いくら負い目があるからってちょっと――

 と思っていたが、

「ぐすっ……うぇ、えー……」

 泣き出してた。もうわけがわからない。こっちが酷い扱いしたから泣き出したから謝って向こうの意向も呑むっていったのにこの状況は、如何に? もうなにやっても俺は許されない罪人犬畜生へとなり果ててしまったのだろうか?

「さ、さびしかったよー……」

 聞き逃してはいけない単語を、聞いた気がした。

「く、宮藤……?」

「さびしかったよー……誰も、誰も話も聞いてくれないし、相手にしてくれないし、超弱いし……」

 そりゃまあ仕方ない。いきなり殺し合いとか言われても寝耳に水以上だろうし、それをクリアできたとしても視認できないスピードで貫手繰り出されりゃ大概の人間はそもそも反応すらできないだろうし。俺や幸人みたいなのはレアキャラもいいところだろうからな。

「良かったあ……これで、一安心――」

「って、へ?」

 いきなり重くなった感触に、嫌な予感が背中を這ってくる。少し隙間を作り宮藤の顔を確認すると、案の定というか――

「……寝てるし」

「むにゃあ……いまふみー」

 とりあえず、死ぬほど面倒なことになったことだけは間違いないようだった。だけどそれを差し引いてもどこか妙な感情が渦巻いていることに、気づいてはいた。気づかないようには抵抗していたが。

「ていうか、どうすんだよコレ……」

 頭が痛かった。しかし助けてやると言った以上、その辺にほっぽっとくわけにもいかない。というか化け物じゃないとわかった以上、そういう扱いはありえないし。

 他に選択肢も、なかった。

「ただいま……」

 ゆっくりと音を立てないようにドアノブを回して玄関に身体を滑り込ませ、出来るだけ小声で言った。自分でも聞きとれるか否かの声量だった。だからまぁ、聞こえないだろうというか聞こえないでくれと願っていた。

 だのに――

「およ? 兄じゃ、おかえりなのじゃ!」

 とてとてとて、と助走をつけたあとの、大ジャンプ。しかしそれは結局届かず、こちらの一メートル手前で失速する。結果俺も前にダイヴして、その小さな身体を受け止めなければならなくなる。

 ザシュー、という音を立てて身体の前面が擦れる。

「はっ、く……!」

 なんとか伸ばした両手で、我が妹をキャッチする。

「およおよおよ? 兄じゃ、どうかしたなりか?」

「ゼェ、ゼェ……その変な言葉遣いも、呼び方もやめなさいっていっただろ? ったく……」

「おう、今史帰ったか?」「あら、おかえりなさい今史」

 さらに親父とお袋まで登場してしまう。結局元の木阿弥だった。わざわざ手間暇かけてこそこそ入ってきたかいが無い。これじゃあ――

「っ!」

「ん? あ……うわ」

 変なうめき声に視線を向けると、そこには今まで脇に抱えてここまで運んでいた宮藤が無情にも自分に手を離されたため落ちてよりにもよって土間の段差に頭をぶつけて、声も出せずに転がりまわっていた。

 あれは、痛い。しかも眠っていて意識もなく不意打ちでさらに力がはいってないところなら、なおさらだった。我ながら、悪いことしたと思う。

 手を差し出し、

「その、大丈夫か?」

「ったい……痛い痛い痛い……」

 返事がないっていうか返事じゃない。こう見るとますます普通の女の子――

「うぉ!? ど、どうしたんだ今史お前その子は!?」「あらまあ本当に可愛らしいお嬢さんねぇ」「兄じゃ? 彼女か? 彼女でありまするか?」

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