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みたびの邂逅

 ニヤリ、と笑い合い、無事を確認して再び帰路につく。あとに幸人が「それにしても可愛かったよなーあの吸血鬼ちゃん。愛里菜ちゃんっつった? あーあんな子にならまた噛みつかれて血ぃ吸われてもいー」なんて言ってた。バカかっつーの。

 俺なら死んでもいやだね。女に主導権握られるなんて。


 稽古中、三つも重大なことに気づいた。ひとつめが、今日初めて目突きを実戦で使ったということ。普段からペットのリーマ相手に練習はしておいたおかげか、間合いもタイミングもバッチリだった。なんでも想定しておくものだ。二つ目が、あの女の服装だった。うちの高校の制服を着ていたが、実際リボンの色を見るにつけ自分と同学年だということは間違いなかった。ということはこれから先、顔を合わせる確率が非常に高いということだった。もし本当にうちの学生だったら、の話だが。

 そして、三つ目。

「よう、宮藤」

「やっ、ふみっきー」

 これがなにより、もっとも重要だった。

 吸血鬼は道場から家への帰り道にみたび、現れた。夜の街。まるでそれ自体が死んだような静寂の中、ぶんぶん飛ぶ虻や蚊だけが生を主張していた。まとわりつくような湿気を含んだ重い空気。これが幸人が言っていた感覚なのかと思った。そういえば犬に噛まれれば狂犬病やその他の感染症を疑わなければならない。幸人はきちんと明日病院に行くのか心配になった。無理にでも今日行かせるべきだったなと後悔が頭をもたげた。

 丸い月が、まるで歪んだまんじゅうを連想させる夜だった。

 目の前の美しい女が、物の怪の類に映る夜だった。

「なんの用だ?」

 あえて聞いた。

「すっごい気に入っちゃったよ、きみのこと」

 にこにこして言われる。だけどそこに、最初の頃会ったような遊びは感じられない。

 頭をかく。

「まいったな。思ったよりしつこいんだな、あんた」

「欲しいものは絶対に手に入れる主義なんだよねー」

 一歩、また一歩と近付いてくる。誰もいない左右を塀に挟まれた路地で、光るものは等間隔に配置された外灯だけだった。それが女の姿を照らし出しては、消していく。

「ひとつだけ、聞きたいんだが?」

「なに?」

 間合いは、三歩。あと一歩で、こちらの間合いになる。だがその前に、

「――今まで俺以外の奴にも、あんな風にしてきたのか?」

「え? どゆこと?」

 歩みは止まらず、さらに一歩。こちらの間合いになる。だが俺は動けない。さらに質問を、投げかける。

「今までもこうやって、試してきたのか? 罪もない人々を」

「え? うん、試したよ。弱いひとはお呼びじゃないからね」

「お呼びじゃないのはてめぇだ、外道が」

 え、とその口が音を発する前に、俺は先手をしかけていた。

 地を這い、獲物の胴体を串刺しにするような――前蹴り。

「きゃ……あ、ァ……!」

「息ができないだろう、化け物が」

 吸血鬼はつま先が深々と突き刺さった鳩尾を抱えて、蹲る。それを俺は、無表情に見下ろす。もはやこんな生き物にかけてやる情など、一ミリもない。よくよく考えれば最初からこいつは、躊躇いが無かった。

 考えてみるべきだった。

 俺たちだから、大事にならずに済んだ。

 じゃあ俺たちじゃ、なかったら?

「お前も、あれか? 漫画とか映画で見るような、人間を虫けらとでも思ってる口か? あ? 答えろよオラ? いったいこれまでに、何人手にかけてきたんだよ!?」

 蹲る吸血鬼の顔を、蹴りつける。サッカーボールみたいに派手に、吹っ飛ぶ。そして制服のスカートがめくれ、下着が見える。やや罪悪感が頭をもたげるが、関係ない。どうせすぐに再生するし、だいたいこいつは既に何人もの人間の命を弄んでいる。

 許されることじゃない。

 許さん。

「おい、答えろよ吸血鬼。何人殺した? その剣みたいに鋭い爪で、いったい何人無残に串刺しに――」

「――ってない」

 髪を掴んで顔を上げさせると、ぼそりとなにか呟いた。それに俺は眉をひそめ、

「あ? なんだって? よく聞こえねぇよ、いまなんて――」

「ひとり、も……やってなんかない。ひとを殺してなんて、ボク……ない」

「――――」

 沈黙が訪れる。それは当然だった。いまこの場には俺と、この吸血鬼しかいない。吸血鬼が喋らなければ、俺が黙ることで沈黙の完成だ。それはいい。

「……どゆこと?」

「てゆー、か……むしろボクが、どーゆーこと?」

 再び沈黙。とりあえず掴んでいる髪は離しておくことにした。気分、なんか悪いし。ていうかキャラ的に、こういういことするタイプでもないし。というかしたくないし。

 髪を離すと、女は再び腹を押さえた。痛みに堪えるように、冷や汗が頬を伝う。これもまたおかしい。昼間と全然違うじゃないか。

 気持ちが、ぐらぐら揺れる。平常心を保てない。修行が足りないことを実感する。それがまさか精神にも及ぶだらんて。いかん、心中の呂律すら怪しくなってきた。

 とりあえず、色々と確認しておく。

「か、確認っ? してお、こう」

「けほっ……声、ひっくり返ってるよ?」

「き、気のせいっ? だ……とりあえず初めに、確認しておきたい。……ホントに誰も、殺ってないのか?」

「やって、ないって……そんなこと、しないよー」

 涙目で女性に訴えられることほど男にとって堪えるものはないと初めて実感させられた。――うちにいるのは、ホント強いのばっかだったから。

 となると、

「……お前試してるって、言ったんじゃ?」

「試すよー……それで避けられなかったら、ちゃんと止めるよー」

 もっともな話だった。よく考えればそういう可能性はきちんと考慮しておいて然るべきだった。というかよくよく考えてみれば初対面の女子にいくら殺し合いしてなんて言われたからといっていきなり目突きする方がどうかしてるな、うん。

 反省。

 というか、猛省。

 でもその前に、もうひとつの疑問。


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