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吸血鬼

 飛び出しその身体に張り付くが、幸人は恍惚とした表情を浮かべていた。パッと見ただただ気持ちよそうに見えるが、しかし背筋に感じた悪寒に任せてその身体を引き、剥がした。

 ぺろり、と宮藤が舌なめずりする。

 その――長く伸びた八重歯から、血が糸を、引いていた。

 悪寒が冷たいつづらとなって、背骨を滑り落ちた。

「ッ……! おい、幸人! 平気か? まともか!?」

「あー……まともだ、っつーの」

「目がとろんとしてんじゃねーか! おい、大丈夫か? 血が飲みたくなったりしてんじゃねーだろうなっ!?」

 くすくすくす、という耳に障る笑い声が聞こえた。

 それに思わず、振り返った。

「……おい、宮藤。お前幸人に、なにしやがった?」

「なーんにも? っていうかなに超怒ってんの? こわーい、キャハハハハハっ」

 ケラケラ笑うその姿が、とても今まで人語を解していた存在だとは思えなかった。最初に感じた、強烈な悪寒。それが身の裡に、蘇っていた。

 吸血鬼。

「……お前吸ったのか? 幸人の、血を?」

「おーいしかったよ?」

「ッ……てめ――」

 飛びかかろうとした腕がガシッ、と誰かに掴まれた。その感覚に、ゾッとする。

 ゆっくりと、首を回す。

「……お前、幸人」

「どうしたよ、ふみっきー?」

 目の色が、違っていた。瞳孔が開き、そして禍々しく血走っている。こんな状態の幸人、久しぶりに見る。

「……お前こそどうしたんだよ。手、離せよ」

「てゆうかお前の方こそなにしよーとしてんだよ。女の子に手上げちゃいけませんって小学生の時習わなかったか?」

 わけのわからないことをしかし納得できる理屈で語るチャラ男。

 どうしたものかと少し迷う。

 逡巡ののち、宮藤に向き直る。

「命拾いしたな、吸血鬼」

「なんの話?」

「こんなんでも顔見知りだからな、こんなん縋りつかれたらまぁ、一応頼みを聞いてやらんでもないからな」

「ん?」

 またもくりっ、と頭を傾げる吸血鬼。無邪気で可愛らしいその仕草が、既に憎たらしい。

 もう用事はないと背を向ける。

 そこに宮藤が、

「なにが言いたかったかわからないけど……じゃあ、いっちょうやってみて幸人くんっ」

 その可愛らしくも怖気が走る指令に幸人は――

「へ? なにを?」

 いつものぼんやりとした返事を、かえした。

「さー、空手家の二人でどっちがつっよいっかな……って、え?」

 それに宮藤もまた、呆けたような返事をかえす。お互い近距離で、顔を見合わす。もう一回キスしちゃえよ、となんとなく心の中で思った。

「え? え? あれ? え、っと……幸人くん、いって?」

「どどどどどこにっすかっ!?」

 なんとなく甘えたような口調に幸人のテンションは大暴発。まあでもそれもわからない話でもなかった、男なら。ああいうものを魔力というのだろうか?

 完全に発情期に入った幸人に若干宮藤は引きつつ、

「あ、えぇと……ま、まとも?」

「まともじゃないっす!!」

「うん、まともだな」

 思わず会話に割り込んでツッコんでしまう。それに宮藤はこちらにすがるような視線を向け、

「え、あ……ど、どゆこと?」

「ああ、こいつ、狼男だから」

「――――」

 おぉ、吸血鬼も絶句するのか。なかなかに面白いし、こうしてまっとうに感情を出してる分には可愛げもあるってもんだった。

「ま、そーゆーわけだから、諦めてくれや。じゃな、二度と会いたくないけど。いくぞ、幸人」

「えー、そんなつれないこと言うなよふみっきー。またね、可愛らしい吸血鬼ちゃんー」

 いまだ未練たらたらの幸人を引っ張り、俺は吸血鬼がいる放課後の学校を、あとにした。


 実際は、しようとした。階段を下りて、昇降口で靴に履き替え、校門を出てしばらく歩いて後方にも他の方角にも人の気配がないことを確認してから、振り返る。

 おそるおそる、顔色を確認する。

「……お前、平気か?」

「へ、なにが?」

 能天気男はやっぱりこういう事態にも能天気だった。俺は少し頭を抱えてから、

「……ハァ、お前はホントに能天気でいいな。だいたい、どれくらい今の状況を把握してるんだ?」

「ん? さっきめっちゃ可愛いこと知りあえた」

「……よかったなぁ。で? 他には?」

「ん? 熱烈なチューした、チュー。あと、なんか、いって……とか言われたぜ! おいおい、イってって、どういうこっちゃねん!? オレもうわけわかんなくなっちゃうぜ!!」

「……わかった。よくわかったけど――」

「っかし、噛みつかれるとは思わなかったなー」

 まぁ、わかってるとは思ってたが。

「実際血、吸われたのか?」

「よくわかんね。てか覚えてないっつのがホントかね。なんか恍惚としちまって、なんか気持ちよかった……」

 というか恍惚とした表情再び、だった。まったく何度このバカは頭を抱えさせてくれるんだか。

「――で? 実際、身体はどんな感じよ?」

「んー? なんていうか、透明な手にふにふに体中を触られてるってゆうか包まれてるっていうか、そんな感じ?」

「ヤバいか?」

「まー、なんとかなんじゃね? 普段の修行に比べりゃ、まーちょっとした金縛り?」

「それやべぇって」



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