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クソガキが

 一瞬手で、自分を庇う。もちろん宮藤が巨大化したなんて事実はない。宮藤したのは、ただただ、その左手を、掲げた事。ただ、それだけ。

 ただそれだけで、一瞬恐怖が身体中を縛りつけた。

 まったく、最初の予想というか予感というか感想は、ほんの僅かにすら間違ってはいなかった。もしこれとことを構えようとするのなら、躊躇ないなんて持ってはいられない。

 人間扱いなんて、していられないわな。

「……ったく、」

 みっともなく自分を庇った手を下ろし、そして改めて腕を、差し出す。性懲りも無く。

 殺気――が、"後方"から。

「っ……!」

 右に転がり、その攻撃――後ろからの踵落としを、回避する。

 もちろん仕掛けてきたのは、幸人だった。

「っ……ンだよ? 嫉妬しての、邪魔かよ?」

「いやぁ……ていうかぁ、身体、言うこと気かねンだよなアァ……なんてぇかぁ、内側っつかぁ、血で操られてるみたいっつうかぁ?」

 のっそりした口調だったが、とりあえず意思疎通ができるくらいにはまともらしい。それがまともに、なってきたのかそれをいま選択してるのかは、判別しづらかったが。

「ったく……てめぇに一本取られたのって、初めてじゃね?」

「だなぁ……へへぇ、やった……ぜぇえええ!」

「っ!」

 はしゃいだのか、幸人は今度は高く――2メートルくらい跳び上がり、そこから一気に踵で踏みつけてきた。それを俺は無様に転がり、回避する。みっともない、俺は芋虫かなにかか?

 なんとか体勢を立て直し、苦笑いを浮かべる。

「ンだよ……はしゃぐなよ、このバカが」

「へへぇ……お前ロー、効いてんだろぉ?」

 っせこのバカ。わかりきってること、聞いてくんなってんだ。

「――それで? これはどういう茶番だ? 宮藤」

「…………」

 それでも宮藤は、だんまりを決め込んでいた。プレッシャーもさっきと比ぶればいくぶん大人しくはなっていた。

 イコールで導き出される答えは、拒絶だった。

 なぜだ。

 なぜなんだ、宮藤?

「――なぜなんだ、宮藤?」

 直接、問いただしてみた。無駄だとは知ってはいたが、やはり無駄だった。宮藤はだんまりを、決め込んだままだった。

 ならばあとの手段は、実力行使だった。

「飲ませるぞ、宮藤……」

「残念だがぁ、嫌がってるみたいだぞォ?」

 同時に幸人が、出てくる。やはり幸人が以前血液を吸われた際に送られたという魔力とかいうやつによって、完全に肉体の主導権を握られているらしい。

 しかもどういうカラクリかは知らないが、身体能力は人間のそれではない。

 そのうえこちらは深いダメージ付きの、ハンディキャップ戦。

 くそったれが、問題山積みだった。出来るか? と考えることさえバカバカしく思える。

 だったらとっとと、思考は放棄する。

 直感で、愉しくいくか。

「……行くぞォオ幸人ォオオ!」

「応ぅうううっ!」

 俺の気合いに、幸人が呼応する。なんとか片足だけを頼りに、立ち上がる。幸人は真っ直ぐに向かってくる。こちらは腹にも重いダメージ、どう戦うかなんて――

 感じて、選択する。

「らァ!」

 左の突きを放つが、あっさり躱される。そしてお返しのように左の爪が飛んでくる。首だけを振って躱すが、頬を切り裂かれる。血が噴き出し、視界を赤く染める。

 力だけでなく、スピード勝負でも相手にならないようだ。

 なら、経験と勘と――技術で勝負だ。

「――シッ!」

 もう一撃、右の拳を――と見せかけ今度は片足でケンケンするようなローキックで、膝の内側を蹴り、弾く。

「ぐぅ?」

 それによってバランスを崩して尻もちをついた頭上を、幸人の爪が通り抜けていった。髪が数本、切り落とされる。その代わり幸人もまた、バランスを崩していた。どんな筋力があろうが、関節は鍛えようがない。

 いい高さにきた顎に――横からフルスイングで"頭突き"を、かます。

 完全に、真芯で捉えた感触。

「げっ!」

 幸人の頭は半回転して、白目をむいた。ハッ、一度倒せたからってアドバンテージ握ったからって、調子に乗ったな?

 舐めんなよ、この――クソガキが!

「眠っとけやこの、色ボケ野郎がァアアアッ!!」

 渾、身、の力を込めて拳を振り上げ身体を捻じり腰を回しての遠心力を利用したそれを眉間めがけて叩き――こむ。

「がっ!」

「らああアアアアッ!!」

 そのまま頼りにならない足で地面を蹴って、全体重を乗せて地面の上に叩き、つける。

 一瞬地面が振動したように錯覚するほどの、衝撃。

 拳は、向こうの地面の感触まで捉えていた。

「――――」

 対象は完全に、沈黙した。拳を引くと、赤い鼻血が糸を引いた。というか心配になるくらいに、顔ぺしゃんこだった。

 息が、詰まった。

「……ハッ、く、っう!」

 心臓が、止まるような心地だった。文字通りで、生きるか死ぬかだった。これをしくじれば、さっきも貰ったような地獄の攻撃――一撃でも貰えば、即、戦闘不能に陥るような。

 それこそ、全身全霊を込めて闘った。

 筋肉が硬直して、しばらくまともに動けそうにも無かった。

「づ、ぐ、ぅ……!」

 そんな余裕もつもりも、なかった。なんとか再び、ほふく前進を再開する。なんでもいいから俺の血を飲めって言ってんだこの、バカ吸血鬼が――


 くるな。

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