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下段廻し蹴り

 だがそう、長い間相手もしていられなかった。

 というより単純に、身体の方が保たなかった。

「あぁ……わりぃな、幸人。ちょいと公園に用事があるんでな……押し通らせて、もらうわ」

「ぐ……ふふふ、ふ」

 嗤い合う俺たちからは、悲壮感の欠片も見受けられなかった。元々真っ当な生き方をしていない自分たちは、結局こういう状況になっても、あまり普段と変わっているようには感じられなかった。

 と、本当に思っているのかは、疑わしかった。

 結局そう思い込んでいるだけなのかも、しれなかった。

「――シッ」

 真っ直ぐ、前に出る。まったく同時だった、幸人も前出てきた。疾い、いわゆる野獣の動きに近かった。次の瞬間には、目の前にいた。近い、肘打ちを敢行する、直撃、こみかみが割れて弾けた血が、視界を赤く染める。

 だが、幸人は肘を喰らいながら、左の――"拳"で俺のどてっ腹を、叩いていた。

 身体が"打撃"で三十センチは、浮いてしまった。

「ガッ!?」

 ほとんど致命的ともいえるダメージに、衝撃に、視界が激しく明滅する。聴覚に、雑音が混じる。触覚が、ほとんど消滅した。

 手先が痺れて、力が入らない。

 ローキックが、飛んで来た。なんの対抗手段をすら、取れない。

 直撃、

「ぐ、ァあああああああああああああッ!」

 太腿が、くの字にひしゃげたような感覚。俺は半回転して、地面に叩きつけられた。幸人の十八番が、ここに来て飛び出すとは。変貌してもなお、本能的にそういうものは残っているということか?

「あ"……ふみ、っきぃ」

 べちゃりと蛙のようにうつ伏せに倒れた俺に、幸人は手を伸ばしてきた。髪を掴まれ、顔を上げられる。くつじょくだ……これは決して、忘れないぞ。

「ぐ、ぅう……」

「ふみ、きぃ……」

 俺の名前だけをバカみたいに連呼して、そしてそのまま公園の中に引きずり込まれた。くそが、だったら最初から邪魔してんじゃねえよ。

 ザリザリザリ、と身体の前面が擦れて、痛ぇ。それになにより腹がマズイし、足に至っては死んでいた。やべぇな、これ。折れてたら、それで終わるぞ?

「……おら、連れてきたぞ?」

 ――待て?

 いまこいつ、普通に喋ってなかっ――

「っ……!」

 なんて考えてたら、前方に放られてた。まるで犬ころかなにかのような扱い、もしくは荷物か? まったく仮にも親友と自称する男の行いかよ?

「っ、く……お?」

 顔と頭を打ちながら転がり、その反動で増した腹と太腿の痛みに呻きながらもなんとかうつ伏せに顔を上げると、目の前にそれはいた。

 なにかが。

「……宮藤、なのか?」

「…………」

 その何かは、公園の隅の公衆トイレの傍で、蹲っていた。ちょうど膝を抱えるような格好で。

 だがしかし、そのなにかはただただ真っ黒だった。輪郭らしい輪郭が、判別しづらい。目も耳も口も鼻も、見受けられない。

 だがちょうど。

 生田に焼かれたあとの宮藤も、こんな感じじゃなかったか?

「っ……宮藤?」

 膝を立て、手を乗せ、歯を食いしばり、なんとか立ち上がろうとする。が、途端に足が引き千切られたんじゃないかと錯覚するほどの激痛で、無様に倒れ――込みそうになり、なんとか逆の手で身体を支えた。すると今度は腹の方がべこん、とへこんだような痛みに、体中震わせた。

 ダメージは、深い。

「っ、く……お、おぉ!」

 だがなんとかかんとか、這うようにして宮藤らしきものの傍に近寄った。幸人は、予想に反してただ傍観しているだけだった。結局何だったのか、まったくわからない。

 だがとりあえず、これで目的は達したことになる。

「おい、お前……宮藤、なんだろ?」

 なにか、言おうとしたようだった。

 だがそれは、口らしきものをボロリと開いただけだった。しかもそれに伴って、周りの組織が崩れる。

 とてつもないほどの、それは深手だった。

 俺は無言で右袖をまくり、差し出す。


 途端、空気が脈打ったように感じた。


 ドックン、ドックン、ドックン、と身体が打ち震えるほどの。もちろんそれは空気が震えているんじゃない。宮藤のプレッシャーが、その強さが、そういう錯覚を起こさせているに過ぎない。

 それは、かつてない圧力だった。

「…………」

 宮藤は微動だにしない。だがそのプレッシャーは、増す一方だった。ドックン、ドックン、とこちらの手先まで震えるほどに。こちらの心臓を、止めかねないほどに。

 自分で言うのもなんだが、並みの人間ならそれだけでショック死しそうなほどに。

「……宮藤、」

 ただもう一度、呼びかけた。

 ドックン、と宮藤の身体が、巨大化した。

「っ……?」


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