公園の番人
まるで、公園の番人のような立ち位置だった。仁王立ちして、辺りを見回している。横目で生垣の向こうを見ると、公園内には誰もいなかった。その人物が邪魔か何かをしているせいなのだろうか? だが、間抜けな番人だった。生垣を越えていけばなんの支障も無い。まったく、どういうつもり――
その直前、その人物が何者かに気づいた。
それに思わず、生垣に半分入れた足を戻し、入口に向かってしまう。
どこでどうしているのか、思いがけず、知ることになった。
「お前……こんなところでなにやってんだ、幸人?」
銀色のツンツン髪のその男が、そこにはいた。いつもの制服に、ポケットに手を突っ込んで、気だるげに。だが場所が意外すぎた。公園の入り口でなんて、女と待ち合わせでもしているのだろうか?
と気楽に考えていた。
こちらに気づいたその眼が――ヒクぐらい真っ赤に、充血していた。
「…………あ?」
「ふぅうみぃいっきぃいいぃ……?」
「……冗談だろ?」
尋常じゃなく緩慢かつ気持ちの悪い発音でこちらにのっそりと身体を向けてから、俺の名を呼ぶ。その様子は、まるでゾンビ。
というか全身に、吐き気がするぐらいの青紫色の血管が浮いていた。
口からは、だらしなく涎が垂れ流されていた。
その血管が、どっくん、どっくん、と脈打っていた。
「幸人……おまえ、」
「お、おれぇ、え……おれ、おま、え、止めな、きゃ、あ、あ、あ"、あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!!」
悪夢だと、思った。
悪夢だと思いたかったのかは、判別つかなかった。
「っ、な……くそっ!」
獣よろしくとびかかってくる幸人を迎撃すべきなのか受け止めてやるべきなのか他に選択肢があるのか咄嗟に判断できず、結局俺は横っ跳びに回避する。だがギリギリまで迷っていたため、指先が脇腹をかすめる。
嘘だと思いたかった。
ただのそれだけで、俺の身体は宙に放り飛ばされた。
「な……っ、ぐぅう!」
三メートルは飛ばされ、生垣に背中から落ちる。生垣の上というのが幸いした。地面の上だったら、相当なダメージは免れなかったかもしれない。
悪夢だと、思いたかった。
「幸人……お前、」
「ふみっ、ふみっ、ふみっ、ふみっ……ぎぃぃいいいいいいいイイ!!」
突進してくる、ガラ空きの顔面をさらけ出して、両手は無様に五指を開け放って。
隙だらけだ。どこだろうが、好きなように打ち込める。
打ち込めれば、の話だが。
「あぁ……」
俺は一瞬だけ、目を閉じ息を吸い込んで。
そして――幸人の左頬に、渾身の右鉤突き(フック)を、打ち込んだ。
奥歯の一本も、へし折れた感触だった。
だがそれでなお、軌道を逸らされながらも幸人は俺の左肩に――かじりついてきた。
激痛が走る。全身が、痺れるほどの。一瞬なにもかも、忘れてしまいそうになるほどの。
「あー」
俺は――知らず、嗤っていた。
「俺好みになったな、お前ぇ」
その顎を真下から、肘で、かちあげる。咥えていた肩がガチンと閉じられ、数ミリほど肉が食いちぎられる。噴き出す、血液。真っ赤な、血。迸るほどの、暴れ狂う激痛。
今まであったどんなものよりも刺激的な、興奮。
「ぐぁうっ!」
幸人は、怯まなかった。まるで獣のように吠えて、唾と折られた歯とどちらのものともつかない血液を撒き散らしながら、こちらに再び牙をむく。
「あ、アハハハハハハっ!」
それを俺は、迎え撃つ。脛を使った、左中段廻し蹴り。幸人の肝臓に直撃し、アバラを3,4本へし折ってやった。
それを受けながらも幸人は左の爪で、こちらの頭を狙ってくる。右腕で掌の部分を受け止めるが――受け切れず、右のテンプルに貰い、脳がぐらんぐらん揺れた。
ついでバッ、と頭が切られて血が散った。
膝をつく。
面倒だから、そのまま幸人の足首を掴み、引きずり倒す。
「ぐぁうっ!?」
「っせ」
上から顔面を殴り、潰す。
「ぎゃっ!」
「っせーよ、ばーかが」
二撃、三撃、四撃、五撃目は躱され、単純なブリッジでマウントポジションを跳ね返される。後ろに刎ね飛ばされて頭を打ちながら、素早く体勢を立て直す。くそ、馬力じゃまったく敵わないなんて屈辱以外のなにものでもねーな。
「はは、は……愉しいなァ、幸人」
「あが、が、ヴぁ……へへ」
お互い血まみれ血だらけになって、嗤い合った。片方は化け物と化していて凄惨で悲劇的な場面だというのに、なんだか解放感で満たされていた。




