水掛け論の答え
遮るつもりというわけでも直接的に思ったわけではなかったんだが、結果的にその呼びかけは麗の言葉を止めてしまった。
そして推定2秒ののち、麗は言葉を再開する。
「……なんで? どうして?」
「なに、も……言って、ないぞ?」
「――追いかけるんでしょ?」
「頭……いっぱつ、はたいてやる」
「無理に決まってんじゃん」
久方ぶりに見る、冷めた心底こっちをコケにしたような視線だった。
あえて俺は、反論しなかった。
理屈でいくら考えようが、それは正論だろうから。
「少年」
「……なんだ、生田?」
「私はきみのこと、嫌いではないよ」
「だから、そっち側に、引き込むために……あんな真似、したっていうのか?」
俺の言葉に、生田はなにも答えはしなかった。答えないということは、肯定しているも同義だった。だからといって別段責めようという気はしないが。
いずれにせよ、越えなければならない問題だ。逆に言えば、手間が省けたともいえる。人災が無ければ、なんの問題も無い。
立ち上がろうとするが、まだそこまでの回復には至っていないようだった。だがゆっくりやっている暇なんて、まったくない。余裕なんてないから――こっちも、無理をしなくては、ならなかった。
「く、ぐ……ぅ、ぐっ!」
なんとか動くようになった指先に力を込めて、握り、締めて、それで自分の膝を、叩いた。
びくん、と下半身が反応した。それにより、筋肉の動かし方を思い出す。大腿筋に、力が込められる。それでなんとか膝を、立てた。そのまま立ち、上がろうとした。
「……無理よ」
麗だった。
「っ……なに、が」
「自分でだって、わかってんでしょ?」
言われるまでもない。
「……言いたいん、だ?」
「少年――」
「生田は、黙っててくれ」
年寄りの出番は、無用だった。あんたの気持ちは、行動でもうわかってる。今はこっちは、麗と話してる。
なんで今までおちょくってただけの麗の話をこんなに真剣に聞こうと思ったのかは、わからなかったが。
「……死にたいわけじゃ、ないでしょ?」
「当たり前、だな」
立ち、上がれた。拳を開け閉めしてみる。回復は、4割といったところか。とりあえず動くだけなら、問題はないだろう。
さて、最初はどこに――
麗が目の前に、回り込んでいた。
「――死ぬわよ」
「かもな」
「かもじゃなく、絶対よ」
「世の中に絶対なんてないな」
「あるのよ、絶対は」
「水掛け論だ、悪いが時間が無い。もう俺はいくぞ」
背を向ける。
「あんたは……」
ふと、足を止めた。
そして振り返る。
「あんたは……生きる、べきなのよ」
唐突にあの雨の答えを、聞くことになった。




