一瞬の白昼夢
一瞬脳裏に、そのイメージが浮かんだ。見えている景色の中心が、ガラスが割れるようにバラバラになっていく。振り返るたびいた人間がいなくなっていたり別の場所にいたりというのは味わったが、こんなトンデモなモノは規格が違っていた。さすがは突然変異、次の瞬間どうなっているかこれっぽちも予測がつかなかった。
だから今の自分に出来るのは、ただただ走り続けることだけだった。
「っ……く、っ?」
砕けた現実が、そこに向けて収束していく。なにもかもがねじ曲がり、吸いこまれていく。それに俺も含まれているのか、気になって仕方なかった。実際給湯機に向かって走っているって言うのに、これぽっちも近付けてる気がしないし。
どうなってんだ?
なぁ――宮藤?
「……宮藤?」
トっ、とどこかに俺は降り立つ。一瞬今までのことが、頭からトンでいた。砕かれたのはやはり、現実だったようだ。一瞬前まで俺は確かに学校の屋上にいた筈なのに、いま俺はどことも知れない場所にいた。
そこは、真っ白な空間だった。なにもない。壁も空も、そして多分床という概念すらない。あえていえばここであってここではない、どこにもない場所。なぜわかるかって? それはもちろん理屈を越えた、直感でだった。
そこで俺は、真っ白な長い髪を持つ少女と出会った。足首まである長い同色のワンピースを身にまとい、そして膝を抱えて顔を伏して、座り込んでいた。ほんの一瞬だが、宮藤のイメージと重なった。よく見ると少しも似てはいなかったが。
近寄る。
「おまえは……」
顔が、上げられる。
その無垢な――狂気を秘めた純粋な金色の瞳と、目が合った。
「――――」
その少女はただ、嗤った。
「少年っ!」
邂逅は、一瞬の白昼夢だったのか。
次の瞬間俺は、現実に立ち戻っていた。目の前に広がる、真っ黒な空。おかしいな、一瞬前まであんなに晴れていたのに。そして俺は、立ち上がる。
立ち上がろうとした。
指一本をすら、動かなかった。
頭を抱えたくなったが、それすら出来なかった。
「くっ……っ、なにが、あ――」
「少年、無事かね、少年っ!」
視界の隅から、英国紳士が現れた。当然生田だった。ぼんやりとした頭でそれを見ていると反対側からもう一人、
「あ、あんた……し、死んじゃいないで、しょうね……?」
「お、おぉ……う、麗……」
「い、生きてる、わね……?」
ホッとしたような声、初めて名前を呼んでも怒られなかった。なんだか喜の感情よりもガッカリしたのはなぜだろうか? そっちのケは無いと自負しているつもりのだが。
そんなことより、現状だった。
なんとか自由になる口を動かして、
「そ……そんなこと、より……ど、どうなったんだ? 俺は……く、宮藤は……?」
「周りを見てみれば、一見に如かずだろうよ」
そして添えられた手によって首が回され、俺は強制的に周囲の状況を確認させられることになる。
なぜか、瓦礫の中だった。
「…………あー、どれ、くらい……いま、何時、だ?」
「あれから、だいたい5分というところだ」
「じゃあ、あれだけ……で?」
「そう、あれだけで、だ」
正直冷静に見せかけているが、脳のCPUはオーバーヒート寸前だったりしていた。瓦礫、ということはなにかの建造物が崩壊したことを示している。まさかと思うが、校舎丸ごと破壊されたわけではないだろうな? だとしたら、生徒は? 脱出できたのか? けが人は? まさか、死者は? そのあと、宮藤は――
噴き出す疑問に答えるように、生田が状況説明を始めた。
「心配するな、ここは屋上の真下に当たる、学生用の食堂のようだ。時間帯のせいか、その時ひとは一人もいなかったよ」
学食とは。予想もしていなかった。辺りを見ると、確かにそれの残骸ともいえる長テーブルや食材が並んだカウンターや皿のやらが見て取れた、見るも無残な姿になっていたはいたが。どこかの水道管が破れたのか、水も噴き出していた。
なにはともあれ、胸を撫で下ろす。
そして改めて、もうひとつの疑問を投げかける。
「……宮藤、は?」
「……いったわよ」
答えたのは、ぶすっとした様子の麗だった。それに俺は、
「行った、って……ど、どこに……?」
「どこでもいいでしょ」
前言撤回。なぜか、怒ってた。
麗はこちらを振り返り、そしてキッと睨んでずんずんと迫ってきて、
「う、麗……?」
「なんで? どうして気になんの? あの化けもんが、どこにいったかなんて? どこでもいいでしょ? あんな化けもんがどこに行こうが。それともなに? まさかとは思うけど、冗談でも答えて欲しくないんだけど、まさか追いかけるだとか言わない――」
「麗」




