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宮藤愛里菜

「あー……オレ、ナンデ、カワセタカ、デスカ?」

「発音、へん」

「おう、そーりー。ワタシニホンゴ、トクイじゃな――」

「なんで?」

 おぉ、すげぇ。幸人並みに話聞かない奴初めて見た。俺はむしろ感心して、ますます傍観者モードを強くした。

 幸人は口をぱくぱくして金魚のように言葉もない様子を見せたあと、

「おー……あー、空手やってっからねぇ、なぁ今史」

「だな、まぁそう人に言うことでもないがな」

「へー」

 空手やってるってことでこんな風に瞳を輝かせるものなのか吸血鬼ってやつは、と思った。

「んで? むしろちみはなにもんなの? いきなり襲いかかったりして、こえーよ。でも可愛ーからオレ的には全然オッケーだけど?」

 警戒してんだが責めてんだか口説いてんだかよくわからなん物言いだった。ある意味さすがだった。

 そして女生徒も、まったく表情を崩さなかった。

「え、ボク? 吸血鬼だよん」

「マジ? 吸血鬼? ていうか名前は?」「お前そこ流すとこかよ」

 すかさずツッコミは入れておいたが、二人のマイペースは崩せなかった。

「名前? そんなこと気になるの?」

「なるっ、なるさー、こんな可愛い女の子の名前が気にならない男なんていないさー」

「……へー」

 なんだか嫌な視線がこちらに向けられている気がするが、流しておくことにする。こういうことには関わらないことが一番だと自負している。

 女生徒は愉しげに身をひるがえし、

「なるほどなるほどなるほどー、ふつーは気になるねー、へー。それはつまり、きみがボクのことを気になってるってことなのかな?」

「気になる気になるっていうか男で君みたいに可愛い子を気にならない奴なんていないってーていうかボクっていう一人称もちょっぴり気にはなるけどねー」

「……へー?」

「――――」

 無視、無視、徹底して無視。関わらない、だいたい吸血鬼だなんてのたまって襲いかかってくる奴なんか、金輪際縁を作らないに限る、うん。

「なるほどなるほどなるほどー、男はみんな気になるんだー、そっかー、で、そこのメガネくんはボクのこと気にならないのかな――」

「ならん」

 一言に、断ずる。

 そして今まで黙ってた分、まくしたてる。

「で、お前なんて名前なんだよ? 名前ないのか? あー、吸血鬼だから蚊トンボとかと同じ扱いなのか? そりゃまた御愁傷様ー、大変だなー吸血鬼ってのも」

 それに幸人はあちゃーと顔を手で覆いしかしその陰から笑っているのが見え隠れしていた。どうでもいい。面倒だ。何度も思ったが、こんな得体の知れない女に構っている暇なんてない。とっととこんな会話、断ち切るに限――

「ボクは、宮藤愛里菜くどう えりなって名前」

 予想に反し、女生徒は激昂していなかった。それどころか表情ひとつ、変えてはいなかった。

 ただただ愉しげな、その微笑み。

「宮藤……?」

「そ、愛里菜。愛するに里に野菜のさいね。宮藤でも愛里菜でもえりちゃんでもご自由に。で、ふみっきーは?」

「…………っ!」

 くすくすくす、と笑われる。イラっとして幸人を睨むが、漫画ばりにあさっての方を向いてぴゅーぴゅー口笛なんて吹いてやがった。こいつはつくづく色んなメディアに毒され過ぎだと思う、主にあっち系の。

 俺はがしがしと頭をかき、

「……いまふみ」

『え?』

 なんでそこでお前まで一緒になって耳に手をつけて聞き返してやがんだ幸人!

「今史だ……白柳今史しろやなぎ いまふみ。これで満足か、宮藤?」

 お返しとばかりに一番疎遠なやり方で呼びかけたが、

「うん、よくわかったよふみっきーっ」

 相手の方が一枚上手のようだった。つくづく頭の痛い事態だったが、まあいい。とりあえず相手の要望には応えただろう。

 いつの間にかいからせていた肩の力を抜き、

「で、なんか用か?」

「うん、ボクと付き合ってっ」

「よろこんでっ!!」

 一方方向な会話が、なぜかきちんと文章として成立していた。不思議だった。なんだったらこのまま俺がいなくなってもいいんじゃないかと思えるくらいに。

 唐突に握られた手を宮藤はぼんやりと見つめ、

「……付き合うの?」

「いえすっ」

「ボクと、幸人が?」

「いえすいえすっ!」

「本気で?」

「いえすいえすいえぇえすッ!!」

 こうなった幸人はもう、誰にも止められない。清高せいこうの暴走特急のあだ名はだてじゃない。

 宮藤はその返答に目をぱちぱちさせたあと、

「じゃあ――キスしてっ」

「イエぇェエエエスッ……って、へ?」

「ばっ!」

 思わず、そう叫んでいた。そう叫ぶくらい、宮藤は呆気なくついさっき初めて会った男の胸に飛び込み――その唇を、預けていた。

 男と女が口づけしてるところだなんて、初めて見た。

 それは予想していたよりも、淫靡なものに見えなかった。というよりもむしろ、なぜか神聖なもののように映った。ひととひととが交わる、という行為はそう悪いというよりも、自然の摂理で言えば正しいものなのかもしれなかった。

 ただ直感的に。

 だがなぜかしかしハッキリとどうしようもなく、マズい状況だとわかった。

「――ばっかお前幸人!」

「お、おおぅ……」


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