らしさ
割って入ったその声に、感情は含まれていない筈だった。
だけどなぜか。タイミングか、雰囲気か、はたまたその人物の今までの言動か。
まるで嘲笑しているように、響いた。
「ぜろにん」
それに宮藤が返したのが、行動としての嘲笑だった。
まるで蛇が、蛙を丸のみにする直前のような。それに麗が怖じ気づくのが、見て取れた。内心臆病の癖に、なんでこうも相手を挑発するような言動をするのか。
まぁ、同情の余地なしだが。
麗はなおも及び腰ながらキッ、と宮藤を睨む。
「……0トイウコトハ、ナイデショウ。吸血鬼ハ生キテイクタメニ、吸血行為ガ必要ナハズデス」
「吸ったよ?」
肩透かしのような問答が続く。麗は完全に、相手にされていない。事ここに至ってようやく、吸血鬼という在り方と、それに対する魔法組織の立ち位置を理解した。
完全に、上位関係だ。
「……デスカラ、吸ッタノナラ」
「吸ったらみんな死んじゃうの? うーわ怖ーい」
くすくす笑う。こんな雰囲気の宮藤は久しく見ていなかったが、しかしなぜかよくマッチしていた。なるほど、宮藤はこういうキャラもいけるのか。
しかし見ていた俺は、同時に疑問符も浮かべざるをえなかった。
結局どちらのキャラが、本当の宮藤なのか?
――いや、よくよく思い返せばそれ以外にも弱気な一面も見せていた。三面? いやしかし人間だって生きていれば三面どころじゃない側面は持ち合わせている。だがしかし、いずれにせよ傾向というものはある。
らしさというやつだ。
宮藤らしさ。それを、様々な面から掬い取る――べきなのか?
だいたいそこまでする義理が、俺にはあるのか? 意味があるのか? 借りでここまできて、気に入ったからと助けるだなんて申し出て。
だいたい掬い取るのだって、偽造していたらそう簡単にはいかない。相手は何年生きてきたからわからない、他種の生物だ。それこそ百戦錬磨の達人を相手取るように、幾重もの搦め手からいかにして活きる道を見つけ出すか。困難極めるその作業に手を出す、その理由は?
理由は?
――理屈だ。
それが、俺のらしさか?
なぜか。
「…………っ!」
怒りが、きた。
「……バカニ、シテマスカ? ワタシノコト?」
「してないよ? バカなひとにバカって言うのはバカにしてるんじゃなくてホントのことを言ってるんだと思うよ?」
麗と宮藤の言い争いは、続いている。なんだかんだで緊迫しているようでそうでもない空気だった。原因は宮藤にあるのだろう。つまり宮藤だけ弛緩して、周りは緊張してるのだ。そして宮藤はこちら側。空気が、伝播している。
だが俺は、そんなこととは無関係に、腹が立っていた。
「…………ッ」
俺は、なんなんだ?
なにかと理由理由と理屈づけて考えようとして? 合理化か? 確かに理にかなっているだろう。しかしその結果、どうなった? なにかとあれば行動の前に慎重にものを考え、その結果――
なにが悪い? 悪いことはないだろう。合理的で適切にして無駄のない行動は、武道家の理想とするところだ。
しかしその本質は、患っているように醜い。
そして――なぜこうも、"歯がゆいのか"?
「で、なにかボクに用?」
「サッキカラ言ッテ――」
「いえ」
そこで麗と宮藤の間に、今度は逆に生田が割って入った。埒が明かないと判断したのか、それは正しい考えのようだった。
ほんのわずかだけ、宮藤の気配が変化した。
「いえ、ってゆうと?」
目を、微かに細めた。
それに生田は拳銃の銃身をもう一方の掌にぺちぺち当てながら、
「ただ、我々としては住民の安全を確保したいだけです。いえもうホントそれだけです。ですから別にえりりんが襲ってるとか疑ってるわけではなく、警察風に言えばアリバイ確認だけしてるわけですね」
「なるほど。で? どうやって確認すんの?」
「アリバイ確認では、残念ながら本人の証言だけでは効力を持たないのですよ?」
「なら?」
「しばらく――身柄を、拘束させてもらうぞ?」
とたん。
宮藤の周りの床が、せり上がった。
「…………」
それを見て不思議と俺に驚愕は、なかった。
「おー」
宮藤も緊張感のない声をあげるだけだった。宮藤の周り床が円柱状に、盛り上がっている。それはちょうど半径一メートル程度、高さ5,6メートルくらいの土管がその場に出現したように連想させた。
つまり宮藤は一秒かからず、"閉じ込められた"。
と、思った。
「えい」
これまた緊張感のない掛け声と共に、土管の真ん中が"爆発"した。
それはそうとした表現できないような猛烈な勢いで、宮藤が内側から拳で土管に、大穴を開けたのだった。穴はヒビを周囲に発生させていき、放射線状に崩落が始まり、宮藤を閉じ込めた檻はこれまた一秒かからず、消滅した。
にこり、と宮藤が首を傾げる。
つづいて麗が、掌を突き出す。以前と同じ、不可視の力を発生させたのか宮藤の顔が一瞬仰け反り、
「おわり?」




