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どーゆー意味?

 聞きたかった。この四日間、なにがあったのか。なんで出ていくのか。それを俺に、伝えにきたのか。

 疑問はただのひとつも、言葉にはならなかった。

「――いつ、行くんだ?」

「今日」

「なんじだ?」

「いま」

「急だな」

 たったそれだけしか思えなくて。言えなくて。

「急だね」

「行くのか?」

「いくね」

「じゃあお別れだな」

「お別れだね」

「これっきりか」

「もうこないよ」

「なんでだ?」

「今史が、いるから」

 初めて言葉に、抑揚がついた気がした。

 俺はそこで、初めて宮藤の目を見た。

 真っ直ぐ、こちらを見つめていた。

「俺がいるから、もう来ないのか?」

「今史がいるから、もうこないよ」

 そこに感情は、なにも見て取れなかった。

 宮藤は俺のことを、今史と呼んでいた。

「宮藤……?」

「ごめん」

「な……なにが、ごめ――」

「もう、会わないから」

 視えた。

「……宮藤」

「ごめんね」

 ハッキリと。

 拒絶の、境界線が。

「…………」

 もう俺には、名前を呼ぶ権利すら残されていないことを知った。だからその名を呼ぼうとするたび、謝罪の言葉で塗りつぶされる。

「いいかな?」

 俺は黙って、その姿を見つめた。

 もうまったく、宮藤は完璧だった。その瞳の奥には、なんの色も浮かんではいない。その素振りには、なんの躊躇いもない。

 もう完璧に、虚飾の鎧でその身を包んでいた。

「じゃあ、いくね」

 翻る。もうこちらを振りかえることは、二度とないだろう。それは確実に言えた。短い期間だったが、やり取りしたのは表面上のものじゃない。そしてそのまま、一足飛びに去っていくのだろう。言葉を決して、たがえることなく。

 その直前。

 なぜか。


 俺はその手首を、掴んでいた。


「…………なに?」

 初めて聞いた。こんなにまで露骨に、不機嫌そうな宮藤の声を。

「…………いや、」

 咄嗟の行動をも上回る無心の行動だったが故、咄嗟にその問いかけに答えることはかなわなかった。というかむしろ俺のほうが知りたいぐらいだったし。

 2秒くらい、経っただろうか。

「いや、じゃわかんないんだけど?」

「ただ、」

 だからもう、頭ではなく心に任せようと思った。空手の時と、同様に。理屈では、どこか限界がくる。

「……ただ?」

「ただ、いかせたくなかっただけだ」

 うーわ我ながら考えなしの言葉はろくなことにならないなと身をもって体験してしまった。

 宮藤は背中を見せたまま、なんの気配もなく沈黙していた。

「……どーゆー意味?」

 困った。本格的に。俺自身、意味がわからなくて心に任せた行動だったのだ。その説明を求められても、どうしたものだか?

 仕方ない。不本意ではあるが、再び無心で対応する。

 どーゆー意味、か。

「行かせたら、マズい? というか……」

「なにがマズイの?」

「そりゃまあ吸血鬼だし……」

「ボクが無作為にひとを襲うって!?」

 怒声と共に、宮藤が振り返った。それは本当に、一部の余分もない純粋な怒りだった。憤りだった。ここまで真っ直ぐに感情を向けられると、それが負のものでも少し清々しくて、新鮮ですらあった。

 だから思わず、笑ってしまった。

 そこに爪が、殺到する。それを俺は、間一髪のところで横に回避した。耳の端が、切れた。あと一歩間違えれば、顔が無くなっていただろう。

 本気の殺意とは、かくも気持ちいいものか。

「いやハハ……お前ちょ危ねえよ、ははは」

「笑う、ナ――――――――っ!!」

 連続で、爪が突き出される。それを笑いながら俺は紙一重で躱していく。片手のラッシュなのが、せめてもの救いだった。左手は右手で抑えてる分、防御にも回せないのは痛かったが。

 その分のつもりなのか、罵詈雑言も浴びせかけてくる。

「なに笑ってんのさなにけてんのさバカにしてんのさなに……ひとのこと、バカにして――――――――っ!」

「別にバカになんかしてないぞ?」

「うそっ!」

 ひと際鋭い、反対側の頬に傷が出来る。参ったな、こりゃあクラスメイトへの言い訳が大変そうだ。猫を飼ったくらいの言い訳にしておこうか。ひっかき傷。ある意味間違ってないし。

「はは」

「だからなに笑ってんのって言ってんでしょが――――っ!」

 連打連打連打、これだけ続けば息のひとつもあがりそうだが、さすがは吸血鬼、しかも全力を出せる昼間。無限に続く高速ラッシュは、なるほど幸人が言うように弾幕を思わせる。打撃というか、もはや壁だった。反撃だとか戦いだとか、そういう発想すら失せさせる力を持つ。

 だからとりあえず、届くだろう言葉を投げた。


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