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この世の終わり

 いい加減、俺は割り込んだ。付き合っていられない。こんなちくちくちくちく木をつつくキツツキみたいに突かれたんじゃ、反撃もしたくなるってもんだ。いくら武道家うんぬん言ってたって、限界ってもんはある。

「…………あの、今史?」

 とぼけないだけ、まだマシと見るか。

「もう、わかった。お前の気持ちは嫌ってほどわかったから、もう腹をわって話そう。時間の無駄だ。俺はそういうの、好きじゃない」

 繰り返される、沈黙。今度はそれに、緊張感もプラスされていた。

 作り出したのは、今度は俺の方だが。

 原因はそちらだから、お互い様か。

「……今史、怒ってる?」

 単刀直入過ぎて、正直心の中で俺は仰け反った。確かに正直に話そうとは言ったが、これを最初にもってくるか?

 隔たりを、感じざるを得なかった。

「怒って……………………お前だよな、あれは?」

 答えかけて、そして色々色々と考えて、こっちも問いかけることにした。これを解決しないことには、先に進めない。

 宮藤は、息をひそめていた。そこで考えているのか、策を巡らせているのか、もしくは困惑しているのか――は、判断はできなかった。

 表情にも雰囲気にも、変化は見られなかったから。

「――そう、だね」

 息を呑んだように、思えた。

 ここまでは、予想通りというか想定外ではなかった。

 だから、問いかけた。

「なら、なぜ、やった?」

 今度の反応は、早かった。

「吸血鬼だから」

 それは、幾度も言い慣れたような滑らかな口調だった。

 俺は黙って、その言い分を聞くことにした。

「…………」

「ボクは、吸血鬼だから。血を吸わないと、生きていけないから」

「そのためなら、見境ないのか?」

「今史は、」

 それはこちらの言葉を遮るような、口調だった。

「今史は……今史は、お腹空いて死にそうなとき、目の前で血が滴る激厚レアステーキを、我慢できるの?」

 とんでもない例えだと思った。宮藤らしいといえばそこまでだが、しかしまあ吸血鬼としても悪くはない、か。

 考えてやる。

「……わからんな。なにしろ生まれてこの方、飯を我慢するっていう経験がないからな」

 容赦のない言葉にも、宮藤の瞳に変化は見受けられなかった。

 身体は空手の資本だった。強く、太く、逞しい肉体を作るにはいじめ抜いた後、食えるだけ食う必要があった。

 だが、

「まあ、ボクシングの減量なんか見る限り、この世の終わりなくらいに辛そうだとは、思うがな」

 見つけた。微かにだが、宮藤の瞳の奥に感情の灯がともったのを。

 別に同情で言ったわけじゃない。実際幸人に借りた漫画なんかで読んだり、ボクサーのドキュメントなんかを観る限り、それは実に苦しい体験のようだった。不断の想いがあってなお、ギリギリの精神状態に追い込まれるという。悪夢や、幻覚すら見るケースもすらよくあるらしい。

 それが期間限定、試合前の二、三週間だけでさえ、そうなのだ。

 それが生きている間ずっと続くとしたら――

「お前の気持ちは、察してあまりあるよ」

「……………………でも、」

 瞳が、揺れていた。さっきまでロボットのように動きがなかった女が、だ。まあもちろんそれが擬態だろうことは、予想はしていた。だが確証はなかった。なにしろ吸血鬼だ。その違いは、昨夜まざまざと見せつけられた。自身が何歳かすら構っていないのだ。

 ならばもし、その生きてきた年月が人にとっては悠久ともいえるほど永いモノならば。

 その先で辿りつく境地というものが、実際自分如きに理解できるものなのかは、疑問ではあった。

「でも、なんだ?」

「……今史の、お父さんとお母さんは」

「そうだな」

 話はそこに、帰着するだろう。

「無事だった。死んではいない。しばらく入院することにはなるだろうが、問題はないそうだ」

「そっか……」

 ため息、ホッとしたような。それにこちらも、心が安らいだ。その気持だけは、共通していたという事実に。

 そして何度目かになるかもわからないほどの、沈黙。どうすべきか、お互い間合いを計っているような状態だろうか? 俺としても、結論のようなものは出ていない。

 気づけば雨足は、強くなっていた。

「――――今史は、」

 気づけば雨を、俺は見上げていた。背中で眠る水戸が気にかかる。ざーざーと音を立てて降りしきる無数の雨粒は、家に、塀に、地面に、そして俺の服に、身体に、それは染み込んでいった。

 浸食されている身体に、心が奪われていた。

 そうなってしまうくらい、俺自身余裕がなかった。

「なんだ?」

「ボクの、敵?」

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