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「それで? 他に言いたいことでもあるか?」

「……な、ないわよっ」

「そうか。じゃあ次に進ませてもらおう。生田」

「なんだい?」

「くど――クディアに血を吸われた者は、どうなるんだ?」

 ぷか、と煙で輪っかを作って、

「一概には言えな――言えんなあ。まず世間的に言われている、吸血鬼化」

「それはないわ」

 いちいち入ってくるこのチビは、実は寂しがり屋なんじゃないかと思う。

「なんでないんだ? 一応、聞いといてやるよ」

「あんたなんかに説明してやる義理なんてないわ」

 確定。俺、こいつ嫌い。

 ああ、よかった。お互い嫌い合えば、なんの不都合もない。安心して、生田との会話に集中できる。

「なんでなんだ、生田?」

「あの子は、普通の吸血鬼じゃないからな」

 だろうと思った。むしろそれで安心したくらいだった。

「じゃああの子は、どんな吸血鬼なんだ?」

「あの子は、突然変異の吸血鬼だ。発生する確率としては、おそらく1000体に一人もいるかどうか……あいや、それを普通の人間に置き換えるなよ? 吸血鬼の現存数は――」

「いやいい、置き換えてないから続けろ」

「可愛げがないねぇ」

 すぱすぱ、とキセルをふかす。麗は直立不動で両手を後ろに回して、一ミリも動いていなかった。というかよく見たら目まで閉じてやがった。野郎、もう俺の顔も見たくないってことか……その胸だけ実った身体を思うままに蹂躙してやりたくなった。

「それであの子は、いわゆる通常の吸血鬼にある弱点が存在しない吸血鬼になっている。陽射しに対する耐性があり、十字架などに代表される神聖なものに対しても影響を受けにくい。再生速度も異常に速く、痛みで怯むこともほとんどない……って聞いているかい、少年?」

「ああ。それで、そこまで聞くと無敵に聞こえるが?」

「そう思っていたさ、我々も。だからこそあの子の危険度は、特Aクラス――最上級のバイオハザード並みに指定されていたんだからな」

「バイオハザード……たったひとりの女の子が、生物"災害"ねぇ」

 いやはやここまで聞くと本当とんでもない話に巻き込まれたように聞こえた。本音から言えば検証から始めたいところだったが、実際時間も余裕もない。現に宮藤は、吸血を行使しかけていた。

「それで? なんであの子が血を吸っても吸血鬼化しないんだ?」

「単純な話さ。吸血鬼が血を吸った相手も吸血鬼化――というか実際はしもべとすることなんだが、その理由は単純に自身が昼間に外を出歩けないせいというのが大部分を占める。しかしあの子は逆に昼強い。よってしもべを作る必要がない。だから一滴残らず、相手の血を吸ってきて――」

「おい」

 言葉を、止める。結論を急ぎ過ぎだ、このオッサン。だから年取るとロクなことじゃない。そんなに先を急いでも、ろくなことはないってのに。

 今の、俺みたいに。

「私の言葉を遮ろうが、結論は変わらんよ。それぐらい君ならわかるだろう? 基本あの子に吸われた者は――」

「基本はもういい。基本があるということは、例外もあるんだろう?」

 わかりきったことは聞きたくない。つまらない校長の話は早々に切り上げていただきたいのと一緒だ。俺が聞きたい情報だけを喋ってくれれば、それでいい。

 生田はこちらを値踏みするような視線でキセルを一服して、

「……ふぅむ、なら例外を話そう。あの子はいま、契約者を探している」

「なるほど」

「その情報もあるか? ではもうひとつ、あの子は昼無敵な代わりに、夜はある程度普通の女の子に近くなる」

「……それって、吸血鬼としての沽券にかかわるんじゃないのか?」

 しかし今まで抱えていた疑問は、事ここに至ってほぼ氷解したも同然だった。あの子を今までに得てきた吸血鬼の知識で見ては、まるで理解できないワケだ。

 となると、先の二つの情報を掛け合わせると――

「つまり……その弱点を補うために、契約者を探してるってことか?」

「我々の見解は、そんなところだな。まぁ真意はわからんよ。本人に聞いてみないことにはな」

「なるほどな」

 すり合わせ、そして考える。自分の立ち位置と、彼女の立ち位置と、そして現代における吸血鬼の、在り方を、

 結論は、案外容易く出た。

 あとは、行動に移すだけだ。

 ソファーから立ち上がり、入ってきた扉に向かう。それに後ろから、生田が声をかけてくる。

「どこに行くんだい?」

「宮藤のとこだ」

 背中越しに、麗の気配が変化した。動揺、絶句、といってもいいかもしれない。それに思わず、声には出さなかったが肩で笑ってしまう。

 条件反射のように、声が矢のように飛んでくる。

「…………あんた、本当のバカなの?」

「本当に失礼だなお前は、本当いい加減にしておけよ?」


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