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本音

「それでこのたびは、麗くんが失礼したね」

「ああ、今回ばかりは本気で死ぬかと思ったね」

 昨晩のことを思い出す。雨の日に、ひとり乱心し逃げ出し、道路の真ん中に横たわったその時、麗が現れ、銃口を向けられ、躊躇容赦なく、頭部めがけて引き金をひかれたのだ。

 死んだと思った。弾丸なんて、発射されればそれまでだ。音速ともいわれるそれを、躱す術などない。だからきちんと照準されれば、終わりだ。それが現実だ。

 つまり。

 引き金がひかれ、それが俺の頭がい骨に達するまでにその弾が"逸れる"ということは、現実を飛び越えたなにかの現象が起こったとしか考えられなかった。

「それで? あの時のあれが、お前が使うなにかなのか?」

「それを話すかどうかは迷ったところだがね」

 今さらだった。

「ここまで巻き込んでしまって、そうも言ってられないからね。ここはひとつ、腹を割ろうかと――」

「もったいぶるな?」

 腹を割ると言ったから、こちらも本音を晒け出すことにした。

「――まぁ、そう言うなよ少年」

 そしたら生田も、ようやく本性を見せる気になったようだった。礼儀正しい仮面の下から、ニヤリとした笑顔を覗かせる。

 俺としては全然そっちの方が好みだった。

「オレもオレで、立場ってものがあるんだ。ほら、オレの発言ひとつで魔法ってもんとか魔導連盟って組織の印象が悪くなるだろ? だからお行儀よくしてんだから、そんな風にあんま挑発してくんなよ?」

「俺相手にそんな気遣い、いると思うか?」

「……いらねぇなあ」

 頭をくしゃくしゃと掻く。撫でつけられたくせ毛が、さらにドイツ人並みにカールを描く。そうそう、抑えつけたってろくなことにならないぞ?

「じゃあ、本当に本音でいくか。まずお前、」

「なんだ?」

「お前、本気――」

「あんたまだ本気で、あの化けもんの肩持とうっていうの?」

 本音で話そうとした矢先、いきなり横の女が割り込んできた。というかチビ? いや身体的特徴をあげつらうのはよくないな、武道家としても紳士としても。

「……なんだ、チビ女?」

「ッ!?」

 息を呑むほどの怒りのせいでまともに罵詈雑言すら発せられない様を見るのは楽しくて仕方ないが武道家としては少し、反省。

 というか飛びかからんばかりだったのを、生田が手で制していた。少し、面倒そうに。なんだか胸元をゴソゴソやってるから、煙草でも出しそうな雰囲気だった。

「ああ……落ち着け、麗」

「…………はい、先生がそうおっしゃるなら」

 かなり不承不承落ち着く麗。どうやら俺はこの娘に完璧に嫌われてるらしい。いま、確信を持った。なにがきっかけかは――まぁ、思い返せばわからないこともなかったが。

 最初の出会いはローキックで一回転だし。次に会えば悪態だから、自然こっちも応戦したし。

 いた仕方なし。

「それで、なんの話だったかな?」

「この男の、真っ当な神経を疑っていたところです」

 師の言葉を、弟子が引き継いだ。というかそもそもこの女――麗が割ってきたからややこしいことになっていたのだが、まあそれはこの際いいとしよう。

 それで?

「俺の神経を、疑うって?」

「そうよ」

 麗は心底こちらを見下すような、冷めきった冷笑をよこしてきた。

「あんた、まだ本気であの吸血鬼の人権がどうとか言うつもり?」

「なんでだ?」

「あんたも見たでしょ? あの化け物の、化け物っぷりを……尋常じゃないわ。涎垂らして、眼なんか血走って、爪も伸びて――ぜんぜん言葉なんて、通じる感じじゃない。ただただ人の血を求めて人を襲う、化け物よ……」

「…………」

「それに、あんたも聞いたでしょ? 四日よ? たったの四日血を飲まないだけで、ああなんのよ? 信じらんない……だとしたらあの化け物は、今まで何百人もの人間を犠牲にしてきて……」

「生田」

 そこまで聞いて、俺は生田に呼びかけた。生田は胸元から、なんとも時代錯誤なキセルを取り出しプカプカふかしていて、

「なんだい?」

「宮藤が今まで血を吸った人数は、確かに三千人で間違いないのか?」

「……血を吸ったというよりその数は正確には殺した人数だが、しかし」

「誰よ? その宮藤、って」

 驚きは、不思議となかった。なにしろあの不思議な髪の色に、やたらと白い繊細な肌に、瞳の色だ。しかも吸血鬼という身の上から、偽名を使っていてもなにも不思議はない。

「――本名は、クディア=エミリターゼか?」

「本名も何も……そう、偽名、偽名ね。残念ね、男の子。あんた完全には、あの化け物に信頼もされてないみたいね」

「そうだな」

 随分愉しげに言うもんだから、こっちもその気になって楽しげに返事してやった、一秒も開けずに。するとなぜか麗は怯んでいたようだが。

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