見え透いた謝罪
気づけば朝。
古風な洋館で、俺は目を覚ました。
「……………………は?」
さすがに自分の脳味噌の正常な動作を疑う。洋館だって? そんなところ、来たことないどころか見たこともない。そんな空間に自分がいるという現実を、受け入れろという方が無理な話だった。
さんざん吸血鬼だとか魔法使いだとか見ておいて、今さらな話だったが。
「…………ふむ」
とりあえず、上半身を起こす。辺りを見回す。そこにはテレビでしか見たことがないようなヴィンテージの家具が置かれていた。化粧台に、箪笥に、ウォークインクローゼットに、そして今自分が寝ている天蓋付きのベッド。床には髭付きの絨毯が覆っている。そこに足を踏み出すのは、少し勇気がいるくらいだった。
「…………」
ふわん、としていた。ふわん、と。なんか例えるなら雲の上に乗っかったような心地、なるほどカーペットとは全然違うわな。金持ちがこういうペルシャなんとかに凝るキモチもわからなくもないってもんだった。
「さ、て。どこだろうな、ここは」
よく見るとベッドの向こう側に、窓が見て取れた。一歩も動かず、そちらの様子を窺う。よく手入れされた夢の楽園みたいな庭が広がっていた。美しい花々に、高い木々。
なんかここまでくると、ここが天国のような気がしてきた。
というか実際、俺、頭撃ち抜かれたんだっけ?
「――スゥ、ハァ」
なんだか混乱してきたから、深呼吸。人間の心の大半を支配するものは、実は正しい呼吸法だったりする。呼吸大事、空手サイコー。なんのこっちゃ。
「……とりあえず、外に出てみるか」
ここで二択だった。ドアから出るか、あえて窓から出てみるか。窓から出るのは危険は少ないが、逆に誰にも会わずに現状が掴めないというリスクがあった。どちらがいいか、実に迷う。それにプラスしてここ、どう見ても二階か三階かだったし。
なんて考えているうちに、手はドアノブを掴んでいたが。
一瞬の躊躇もなく、回す。危険がある方ない方だったら、即ある方を選ぶこの性格もどうにかしたいと思う。
鍵は、かけられていなかった。というか外から鍵がかけられる外国様式のドアはどうかと思う。
廊下に出る。
「やぁ、起きたかい?」
廊下はなぜか、別の部屋だった。
「…………オーケー、いいだろう。これぐらいじゃ、俺はもう驚かないぜ?」
本当に驚いてない人はそんなこと言わないという事実を俺はその時まだ知らなかった。
その部屋は、俺が元々寝ていた部屋を寝室とするなら応接室といった作りだった。手前に透明なテーブルを挟んでふたつのソファーが向かい合わせに並べられ、その向こうにマホガニーの机。そして部屋全体を囲むように無数の本棚が並べられ、一部の本はガラス戸に入れられていた、高そうだ。もちろん床には髭付き絨毯。
そのマホガニーの机の椅子に、生田は座っていた。今日はさすがに室内だから帽子はかぶっていなかった。その地毛は茶がかっていて、先がカールしてて、くせっ毛というやつだろうか。
その傍に控えるように。
手前に四人は座れる大きなソファーが二つもあるにも関わらず。
麗は立って、こちらを――睥睨していた。
「おう、小海、だったか? 元気か?」
「……呼ぶな」
疲れた様な返答がかえってきた。こっちも色々試してみての上だから、不本意だった。嘘だが。なぜかこいつで遊ぶのは、なかなかに楽しい。最初が最初だったからだろう。
生田は机のうえで行っていた作業にひと段落つけたのか持っていた万年筆を置いて、立ち上がった。そしてこちらへゆっくりと、歩いてくる。それに従う麗。まるで従者だった。それに俺は、指一本動かさなかった。
軸を中心に、重心を落として。
「私の仕事部屋へ、ようこそ。歓迎するよ、座ってくれるかい?」
「ああ」
すすめられるまま、ソファーの右側に座る。その向こうに生田が座り、麗はその傍に控えた。従者というより、小間使いか。その隣に、高い足の上に乗せられた巨大な地球儀が見て取れた。なかなか趣向に凝っている。
「それで、だね」
「なんだ?」
「まずひとつ、謝ろうと思う」
「なんだかお前、謝ってばかりじゃないか?」
「それも含めて、きみには頭が上がらないな。くくく」
謝る人間がくくくもなにもないと思ったが、しかしその辺りあまり嫌いになれないのは、やはりこの生田という男に自分と近いものを感じているからだろうか?




