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どしゃ降り


 雨は途中から、どしゃ降りになった。

 どれくらい走ったかなんて、覚えていなかった。考える気も起きなかった。なんにも、なにもならなかった。出来なかった。

 またヤった、と思った。気をつけてたのに、ヤってしまったと。これだから、俺は。くそっ。なんなんだ。ちくしょう。どうしようもない。ダメだ。終わった。みんなの視線が痛い。今までの努力も、水の泡だ。

 ちくしょう。

「…………っ!」

 立ち止まる。ばしゃっ、と水たまりが跳ねる。辺りは、既に見たことがない区域に入っていた。四つの道路が交錯する、十字路。こんなところ、見たことがない。こんな田舎にも、こんな場所があったのか。

 辺りに人影は、ひとつもない。まるで台風でもきたような強風と豪雨の中、車も一切通っていない。家々の窓もカーテンも閉め切られている。耳を打つ激しい雨音が、きっとたぶんなにもかも掻き消してくれる。

 というか掻き消してくれ。

 俺の想いを、吸いとってくれ。

「あ――――――――――――――――っ!!」

 叫んだ。天に向かって。迸るままに。喉も裂けよとばかりに。一切の雑念を投げやり、ただただ思いの丈を、解放した。

「なんでっ! 俺はっ! こうなんだ――――っ!」

 だんっ、と地面に両拳の底を叩きつける。水が弾け、目に入る。もうあまりの雨に、頭の先からつま先までびっしょりだった。

 それに相反するように、身体は熱を持って暑くて熱くて、仕方なかった。

 呪う。

「くっそ……くっそくっそくっそくっそ……くそ――――っ! 俺は……俺は、普通でいいんだ! いや違うそうただ……武道家として、在りたいだけだ! 心揺らさず、平常心で、義のため力なき者のために武を振るう……そう、在りたいだけだ。

 なのに、なんでっ!」

 叩きつける。それは水溜りに阻まれ、地面にまで届かない。

 この想いも、なにものにも届きはしない。

「なんで俺は、こんな人間なんだァ……ッ!!」

 頭から、水溜りにつっこんだ。もうこのまま溺死したって構わない気分だった。そんなこと無理だってわかってるから、誰も何も言わなくったっていい。

 なんで吸血鬼に殺し合いを申し込まれて、ほんの微かにも心揺れずに応じられるか?

 なんでいきなり魔法なんて非現実的なものに晒され、冷静に話を聞けるのか?

 簡単過ぎた。理由なんて。単純だった。だから化けの皮を被っていた。だけど剥がれた。それもまた見事なくらいに、簡単だった。

 簡単過ぎる理由だった。

 俺もまた、怪物だったから。

「は……はは、は」

 なんか、疲れた。こんなひっくい水位とも言えない水量で溺れようなんてバカで無謀で無意味な行為はやめて、ごろんと仰向けになった。

 バカみたいだった。こんな月の綺麗な夜に、十字路の真ん中で仰向けになってるだなんて。

 俺には、お似合いか。

「…………」

 今度はだんまる。水が、無数の針になって落ちてきているようだった。こんな光景、そうそう見ることはないだろう。その向こう側には、大きな金色の月。悪くない、というより人生観変わりそうなくらい、美しいそれは光景だった。

 ああ。

 まるで、断罪される死刑囚にでもなった気分だった。

「――――」

 考えた。宮藤はどうしているだろうかと。下突きを顎に、鉤突きをこめかみに叩きこみ、膝蹴りでアバラ骨をへし折った。だいじょうぶだろうか。最初に屋上でヤった時も、目を潰して色んな骨をへし折ったが、普通に再生してた。だけどなぜか晩に同じようにヤると、ぜんぜん普通の女の子だった。どういうカラクリなのか? よく吸血鬼は陽射しを浴びると砂になると聞いたことはあるが、これじゃあまるで逆じゃないか。

 まったくもって、謎だらけの娘だった。

 しかも突然、襲ってくるし。

 まあ退屈しないし、そういうのは嫌いではないが。

「…………ハァ」

 ため息もの、というかため息だった。なにが普通でいいだ。ぜんっぜん嗜好は、そうじゃないじゃないか。

 でも思考傾向や嗜好というモノは、そも本人の意思でどうこう出来るのか?

「なあ月さん、答えてくれないか?」

「代わりにうちが、答えてあげるよ」

 月がなにかに、遮られる。すげえと感心した。なにがかは、自分のことなのに咄嗟には特定できなかった。まずこのどしゃ降りに外に出ていることだし、こんな場所をよく見つけたなという意味だし、それにやっぱりそのいかにも怪しい魔女っ子ルックとでもいうのかファッションセンスにも脱帽だった。

「おぉ、麗……」

「名前呼ぶなっ!」

 どうしろっていうんだ。お前もダメで名前もダメなら、もういっそ呼びかけるなって――そういうことか。

 わかりやすかったんだな、じつはお前。

「――で、答えって?」

 途端。

 麗の雰囲気が、変化した。

「貴様ハ……×××ベキダッテ、コトダ」

 なぜか。

 そのもっとも大事な部分は、聞きとれなかった。

「なあ……」

 訊き、返せなかった。

 その手に握られた一挺の拳銃から発射された弾丸に、俺の脳は、撃ち抜かれたからだった。



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