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 息吹き。通常肺までしか送り込まない酸素を一気にへそ下十センチの臍下丹田まで落とし込み、そこから一気に吐き出すという空手独自の呼吸法。これにより気を全身に行き渡らせ、精神の充実をも図る。

「――いや、まあな。それでなな、なんでいきなりだだ、抱きついたりしたんだ、だだ?」

「なんかまだ変だけど……うん、クッキー焼いたんだっ」

 ギリギリ意思疎通が図れたところで、宮藤は右手を差し出してきた。そこには紙、というかクッキングペーパーに乗せられた少し湯気っぽいものが出ているクッキーが6枚ほど乗せられていた。

「え……へぇ、焼いたのか?」

「うん、ボクは練ったよっ」

 焼いたのか練ったのか、どっちなんだよと思った。

「……キューケッキ殿、上手に丸めてたでごじゃる」

 ぼそっ、と呟くように水戸が言った。そちらへ振り返るというより見下ろすと、水戸はなんかモジモジしてた。

 これはなんか言いたいことがある時の仕草だった。

「どした、水戸?」

「……兄じゃは、その」

「ん?」

「……キューケッキ殿が、その」

「――いやちょっと待て」

 その会話の流れは、マズイと思う。この9歳児。そう9歳児、小学三年生なのだ。空気を読むとか相手を思いやるとかは出来ないのだ。だからこのまま残酷とも呼べる純粋な質問をさせるのは、回避しなくてはいけない。

「み、水戸? 腹減ってないか?」

「? で、ですが、ご飯の前に甘いもの食べるのはダメじゃと……」

「ほれ、クッキー」

「いただくのじゃっ!」

 一枚差し出すと、すぐに小学生低学年と高学年の境目なお子ちゃまは脱兎のごとくかぶりついた。フッ、所詮は子供。手なずけるなど容易いことよ。

 というわけで残り五枚、一枚摘ませてもらう。

 コリコリっ、とやや硬めな感じはあったが、しかしほどよい香りとほどよい甘――

 というか女性三名で作ったんだよな。

 そりゃ上限知らずで甘くもするわな。

「お、おぉ…………うまいな」

 そして俺は甘党、実に心地いい甘さだった。

 俺が言うと宮藤は目を輝かせて、

「ほんとっ!?」

「おぉ、うまいうまい。ちょっと硬いけどな」

「よかったー本当一生懸命作ってー」

 にっこにこしてる。ここまで喜ばれると、食べてるこっちまで嬉しくなってきた。ぜんぜん話聞かないのはいつも通りだけど。

「ところで今史は、部屋でなにやって――」

 そこで初めて。

 宮藤の言葉が止まった。

「ん? どうした宮藤? お前も腹へって――」

 それでこちらの言葉も止まった。

 宮藤が見ていたのは、部屋の隅。壁に身体を預けて頭を抱えている生田と、それに寄り添い介抱している麗だった。

 宮藤は麗に、一度街中で襲われている。そして生田とは口ぶりからどうやら面識があるらしい。あの二人が敵だと知っている宮藤にとって、この状況はあまり芳しくないモノに映っているのか――

「……血」

「え」

 疑問符を浮かべる暇もなかった。


 宮藤は部屋の中に、飛び込んでいた。


「な……お、おい宮藤!?」

 わけがわからず、あとを追う。呼びかけたが、宮藤はまったく聞こえていないようだった。それどころか、宮藤はドアの縁から隅の――麗までの7メートルほどを一足で、飛びかかっていた。

 麗の目の前に、着地。

「え……」

 呆然とする、麗。それに宮藤は口を開き、そこからやたらと鋭く、長い犬歯をさらけ出し、それを麗に近付け――

「なにやってんだお前っ!」

 叫び、俺は跳び横蹴りで割り込み――その顔を、蹴っ飛ばす。宮藤は吹き飛び、反対側の壁まで滑っていって、激突する。そして俺は元々宮藤が立っていた場所に、着地する。

 宮藤は部屋の隅で膝をつき、むくむくと起き上がっていた。

 場の空気が、変化していた。まるで、最初に会った時のように。

「宮藤……」

「血……ち、ち、が……」

 宮藤はゆらり、と立ち上がりながら、ぼそぼそと呟いていた。前のめりに、上半身を大きく倒して。そのせいでその長く青味がかった黒髪が前方に大きく垂れて、完全に顔を覆い隠してしまっていた。

 その様子に、普段の純真爛漫さはない。

 まるで、もののけの類のようだった。

「…………」

「血が、血を、血が……飲み、たい」

 こちらを、ギョロリと睨む。いや実際に見ているのは俺ではなく、傍にいる生田の額から流れている血と、それを拭う麗のハンカチと手についたそれだろう。

 長い長い黒い暗い髪のすだれのその隙間から、赤く紅く血走った眼が、こちらを覗き込んでいた。

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