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 抑えようとした。精一杯。敵に回すのは得策ではない。それにそういう台詞にくることも、充分に予測していた。

 それでもなお、言葉に敵意がこもることを抑えきることは出来なかった。

「いや、言葉が悪かった」

 それに、生田が麗を制して前に出た。麗はそれに逆らうことはなかった。なんとか穏やかに済ませる可能性は出てきたか。

「今のは、なにもそんなに物騒な意味ではないのだよ。ただその、我々の存在を周囲に知られては色々と面倒なのでね。その辺のケアのことを、麗くんは言っていたのだよ」

「具体的には?」

「……そのだね」

「消すのよ」

 ざわっ、と背筋が殺気だった。

「なにをだ?」

 麗の一言に、問い詰める。麗は生田の身体の陰からこちらを不敵な笑みで見つめ、

「その存在か、」

 初めて。

「――――あ?」


 本気で、こいつらを敵と判断した。


「…………え?」「いやきみ、少し落ち着きたま――」

「っざけんなよ? お前ら……冗談じゃ、ねえぞ」

 麗の呆けたような声も、なんとかなだめようとする生田の声も、心には届かない。

 というか黙っていた様々な感情が胸中で津波を起こして口から、迸ってきた。

「おまえら、色々言ってるがよ……結局、自分たちのことだけだろうが? あ? なにが我々だ、秩序のためだ、平和のためだ。色々お題目は並べてるがよ、お前らがやってんのは自分たちの都合ばっかりじゃねぇか?」

 自然、口調が荒々しくなる。

 麗は目をむき、後ずさる。そちらをギロリと睨みつけてやると、

「ひっ……え、あ、あ……?」

「お前、俺の妹に手をだすつもりだって? あアッ?」

「い、いや、ち、ちが……」

「なにが違うってぇ?」

「あ、う、ぅ……」

「その辺にしてやってくれないか?」

 今度は生田が麗を庇うように、前に出た。それに俺も、剥き出しになっていた殺気を、僅かにだが留める。

 何度も言うが、俺は別に戦争をしたいわけじゃない。

「我々の非は、認めよう。確かに一方的にして、そちらの都合を考えないものだった。すまない。謝罪する」

「ぇ、あ……せ、先生?」

「黙っていなさい」

 俺の殺気にあてられて呆然として麗がなにか訊こうとしたが、それを生田が遮った。

 頭を下げたそれに、溜飲が少しづつ降りていく。

「……いや、いい。とにかく、妹は下におろす。それでいいな?」

「すまない」

 しまった、と声を出す暇すらなかった。

 ぐにゃり、と床が、溶けた。

「ッ……!?」

 咄嗟になんとかもがこうとするが、しかし既に時は遅かった。床へと、足が潜り込んでいく。まるで泥沼のようだった。

「っ、く……お、お前っ!」

「本当に、すまない」

 生田は頭を下げた状態で――しかしその口元は、わらっていた。

 そのままで、歪んでいた。

「こうなるとは、思ってはいなかったよ。私としても、穏便に済ませたかったのだがね。しかし、第三者に我々の存在を知られた以上、そうも言ってはいられない。いやしかし、世の中ままならないものだね」

 顔を上げる。そこに張り付いた薄ら笑いに、奴の本性を見た気がした。

「――なるほど」

 俺と、気が合うといった。

「……なにを笑っているんだい?」

 生田が問いかける。その傍では麗がその裾を掴み、勝ち誇ったように笑みを浮かべていた。一方こちらは俺も、そしてTシャツの袖を掴んだ水戸もろとも地面に膝まで沈んでいた。

「さあ、なんでだろうなあ?」

 その理由は、俺にもよくわからない。どう考えても、マズイ局面だ。油断して、敵のよくわからない罠にハマって、機動力は大幅ダウンだ。しかも傍には、水戸までいる。

「ふむ、どういうつもりかは知らないが、すまないがこのまま当初の予定通りとさせてもらおう。私としてはきみが如何にして麗くんを退けたのか気になるところではあるが――」

「なら、試してみるか?」

 まどろっこしい。

「は?」

 生田が、ボケっとした顔をしている――目の前に、俺は躍り出た。それに麗も唖然として見上げる。目の前の出来事が信じられない、といった感じだった。

 ただひとり。

 水戸だけは、怯えもせず声も出さず、ただじっとこちらを見つめていた。

「兄じゃ……!」

「おうっ!」

 妹に応援されて気合い、一閃。

 俺は泥沼のようになった床から一足で抜け出し――そのまま渾身の飛び廻し蹴りを、その首筋に、放った。

 ガチン、という硬い手ごたえ。いや、足応えか?

 しかしそのまま力任せに押し、切った。

「づ、ぁア……!?」


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