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武道家

 自嘲気味に笑う。

 自分がすごいと思ったことこそないが、自分が普通だと勘違いした時もまたない。

「え、えっほん。それで、だから、ボクたちは自分たちと違う人間という種族を、それこそ牛とか豚――っていうかお肉とかお魚を食べるくらいの気持ちで狩って、血を啜ってたの」

「……なかなかに過激な表現を使うな、お前」

「え? そう?」

 啜る、じゃなくて普通なら吸うだと思うが。

 それじゃまんま大量殺人鬼だ。

「ふーん、なんか感覚の違いを感じるね。これが人間と吸血鬼の違いかなぁ?」

「いや、違うと思う。たぶん、俺とお前の違いだ」

 なんでもひとまとめにするのはよくないな、うん。吸血鬼といえばこうだろうと最初はそうも思っていたが、実際空手家といっても幸人みたいのから俺みたいのまでいるんだから、そうはひと括りには出来ないか。

 じゃあ、まとめよう。

「つまりお前は、全然無知ゆえに子供の頃は普通に人間を襲って、血を啜ってたんだな?」

「うん、啜ってた」

「で、物心ついてからは人に襲われるから返り討ちにしてその相手の血を啜ってた、と?」

「うん、啜ってた」

「そこにお前の意思は、選択肢はなかったんだな?」

「…………そう……思う、けど」

「どうなんだ?」

 立ち上がり、教壇の前でモジモジし出した宮藤に、迫る。宮藤は両手の人差し指をくるくるしてて、俯き、こちらを見る気配はない。

 それを俺は、真っ直ぐに見つめてやる。

「――今史?」

「どっちなんだ?」

「な、なにが……」

「お前の気持ちだ。それが大事なんだ。お前がどう思って、どういうつもりで人間を殺したのか? それが、大事なんだ」

「大事って……それって、誰にとって――」

「お前だ。そして、俺にとってだ」

 宮藤は、瞳を揺らしていた。本当に、心の芯まで、俺の言葉が届いたことを示していた。それでいい。そうじゃないと、俺がここまでする甲斐がない。

「ボクと……今史に、とって」

「そうだ」

「ボクは……」

「お前は?」

 さらに覗き込んで宮藤は、伏せていた顔を、上げた。

 こちらを見つめる瞳には、真剣な色が浮かんでいた。

「――殺したいと思って、ってゆうよりそんなつもりで殺したことは、ないよ。だけど殺してしまった人たちには、悪いと思ってる。でもだけど、殺そうとしてくる人たちには、殺されること……っていうより殺されたって、仕方ないと思ってる」

「そうだな」

 俺は同意し、そして離れた。ついとはいえ、その距離は鼻と鼻3センチ程度まで迫っていた。今さらだが、少し心臓が高鳴りだした。だがまあ、それはいい。

「……今史?」

「ああ、決まりだ。宮藤、俺はお前の味方をしてやる」

 過去の罪を問わないという意味じゃない。

 罪は罪だ。それは償わない限り、赦されない限りは決して消えることはないだろう。

 だがそれが故に、生涯罪人として生きるべきだとは俺は思わない。過去どれほどの間違いを起こそうが、それによって現在心の中に深い後悔と反省する気持さえ存在するなら、それは本人はともかく周囲には許されるべきだと思う。

 心もち、という意味合い。武道家とは、常に心の在り方を問われる。慌てて取り乱すなどもってのほか。過去は過去として自分の犯した過ちだとして受け止め、受け入れたのなら、現在は現在として揺れぬ心で見つめる必要があると俺は考えている。

 だから俺は、宮藤に味方することに決めた。

「……今史?」

 問いかけてこないというのは、なかなかに賢明だ。

 純粋なやり取りが、濁らずに済む。

「心配するな。武士に二言はない」

 にやり、と口元を歪める。半分冗談だった。だけど半分はなかなかに本気だった。面白い。なるほど、吸血鬼、お前が俺の力を求めるのはそういう理由か。

「でも…………んん、ありがとう」

 それこそ無数の問いかけが出そうなのを押しとどめ、宮藤は感謝の言葉を紡ぎ、笑みを作った。そこには余裕がない、本当に表れたといっていい笑顔があった。


 下校する。二人連れ添って。そこに今までのような無駄口は、なかった。なぜだろう、と風が吹く程度の軽さで考えたりもした。理由なんて、考えるまでもなかった。くだらなくて、空を見上げた。

 赤い赤い月が、そこには浮かんでいた。

 違った。それは赤い赤い太陽だった。夕暮時。それは地平線に、今にも吸いこまれそうだった。

 血が、何者かに啜られているようで、なんだか見ていると笑えてきた。

「今史」

 もう、ふみっきーと呼ばないのかとなんだか寂しくなった。あんなに嫌だって思ってたはずなのに。波長が合わない筈の幸人と友人関係でいるのと、それはきっと同じ理由なのだろう。

「どうした?」

「…………」

 呼びかけはしたものの、やはり容易には語り出さない。きっと聞きたい事が無数にあるのだろうけど、それは簡単には口に出来ないのだろう。

きっと彼女は、怖いのだろうと思う。それは想像にすぎない。だけど多分、合っていると思う。

「…………なんで?」

 端的な言葉に、笑みが零れる。

 あまりにそれが端的過ぎたから、少し意地悪をしたくなった。

「なにが?」

「…………」


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