大義名分
どうもどこまで本音を晒し出してるか、怪しいところだった。もっといえば、全部うそくさい。芝居がかっている。その張り付いているような笑みも、キナ臭い。
だがどこか、嫌な感じもしなかったが。
「ではまず、得物をしまってくれないか? そんなものをちらつかされては、こちらとしても心臓に悪い」
「ああ、そうだね。すまないな、気がつかなくて」
そして銃を、ジャケットの内側にしまう。本当に話し合う気があるのか?
とりあえずこれで、少しは会話に集中できる。そのジャケットの内から銃を出し、こちらに向けて、構え、狙い、撃つという四動作の隙があれば、充分有効打撃を繰り出せるだろう。
「……これで、対等か。ホッとしたよ、いきなり銃を向けられるんだからな」
「いや重ね重ねすまないね。私はてっきり、きみが吸血鬼に加担している側の人間ではないかと疑っていたものでね」
やはり、そういう方向に話が流れるわけか。
「吸血鬼? あんた、本当にそんなもんが実在――」
「つまらない化かし合いはやめないかね? お互い、時間の無駄ではないかな?」
少し、心臓が鳴った。なるほど、甘い相手ではないな。
目算を変えよう。
「どこまで知っているか、話した方がいいか?」
「単刀直入が、人生を悔いなく生きるコツだよ? 人生の先輩が言っているのだから、間違いない」
ごもっとも。じゃあお言葉に甘えさせてもらいますよ、先輩。
「あんたたちのことが知りたい。そしてこっちの事情も話そう。込み入った話は、そのあとでいいだろう? もっといえばこっちは、あのトンデモ吸血鬼のことも知りたいぐらいだしな」
この言葉の羅列が宮藤に対する裏切り行為に当たるかはグレーゾーンだとは思うが、こちらの信頼を勝ち得ていないという意味では正直同罪だと思うし、なにも知らずにただ守れというのも事ここに至ってはかなり苦しい。
大義名分なくしては、命は懸けにくい。
こっちの要求に、男はにこやかな紳士的とも呼ぶべき笑みを零した。
「では、友好の証しとしてまずは名乗らせてもらおう。私は魔導連盟維本支部最高責任者、生田顕匡という」
その差し出された手に、なぜか俺は自然と応えてしまっていた。
気づけば俺は、歩いていた。通学路を、当たり前に。周りの生徒たちにも変化はない。いつものように賑わっている。そして俺自身も、家からずっとこうして歩いていたような自然さだった。それに違和感を見つける方が、難しいくらいだった。
しかし記憶は、確かに残っていた。
そしてハッキリと、指針が出来ていた。
「いーまふみっ」
いつもより、より明るい声。それに振り返ることが、出来なかった。
「どうしたよふみっきー? えりな嬢、呼んでんぜ?」
いつの間にか――というより最初から隣を歩いていたような自然さで、幸人が話しかけてくる。そちらにも、振り返ることが出来ない。既に別の世界にいってしまったような錯覚をおぼえる。ただ自分が前だけを見て歩くロボットになってしまったような錯覚に陥る。
「――あぁ、そうだな。呼んでるな、確かに」
「ん? どしたんふみっきー? 呆けてんな?」
「あぁ、そうだな。呆けてるな、俺は」
そして振り返る。幸人にじゃない。それは最初に話しかけてきた――接触してきた、事の発端。
「ん? なに? 今史」
「宮藤」
真っ直ぐに、その赤い瞳を見つめる。
それに彼女は、少し圧されたように視えた。
「いまふみ……?」
「お前なんで、黙ってた?」
動揺で、感情が抑えきれないというのが本音だった。少しプレッシャーが、漏れ出てしまう。怒り、とは少し違う感情に、自分でももて余していた。
「な、なんのことぉ?」
憐れだった。この状況でなお、惚けるか。
先ほどの生田との会話が、脳裏を掠めた。
「――やめよう。確かにこっちも、色々と問題はあった。だからもう腹を割ろうじゃないか? お互い、言いたいことも色々とあるだろうが……」
「え? え、と……」
戦闘以外で驚くことや動揺することがほとんどなかった宮藤が、無様にうろたえている。滑稽――いや、どこか、哀しかった。
その、在り方に――
「話してくれ。お前がなにを想ってここに訪れ――今までなにを、してきたのか」
言葉を失い、愕然とする彼女。
それに――同情に似た感情を、抱いた。
登校した。話はうやむやになった。とにかく始業まで時間がないからと、言い出したのは幸人が先だったか宮藤が先だったのか。それにどう答えたのかも、よく覚えていない。とにかく焦ってもしょうがないという結論に出たのだったか。なんとなく教室に入り、心ここになく授業を受けた。昼飯を食べたかどうかさえ、定かではなかった。
よくよく考えれば、屋上で待ち合わせればよかったか。あの、初めの出会いのように。
そして放課後。夕暮時の教室に。
彼女は、現れた。
「元気? 今史」




