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銃弾

 歩みは止まらない。一歩、一歩、とジャリジャリ踵で小石を弾きながらこちらへ向かってくる。距離は、7,8メートル。三歩で、間合いに入る。

 と、

「ところで、よいのかな?」

 そこで突然意味不明な問いかけが、投げかけられた。さらに一歩、男は踏み込んできた。意図が知れず、自然尋ね返していた。

「なにがだ?」

「なにも構えていないようだが?」

 それは心もちのことを言っているのだろう。

 返事するように辺りに向けて手を振り、

「ハッ、なに言ってやがる。あんたまさかこんなとこでやろうってのか? 周りにはこんなにたくさん生徒が――」

 一瞬だが、世界が凍りついたように視えた。

 いや違う、凍りついたのは俺の思考の方だった。

 辺りにひとは、既に一人もいなくなってしまっていた。

「な――――」

 生徒の。一人も。幸人まで。宮藤でさえも。

 ジャリ、という音が聞こえた。間合いまで、あと一歩。

 常に冷静に、死へと手を伸ばし、そして己を生かしきる。一度心で、詠唱する。それで焦りは、どこか視たこともない彼方へと消え去ってくれた。

 戦う。

 振り返る。

 そこに――"銃口"が、こちらを覗いていた。

 選択肢。躱す、否、不可能。前に出る、否、間に合わな――

「さて、どう出るきみは?」

 発射音。

 死。それは決して見えず、そして逃げることは出来ないものだ。

 己に出来るのは、ただ、流れに身を任せるのみ。

 結果、俺は――"動かなかった"。

 痛みが、走った。

「ほう」

 男の、驚いたような感心したような声。痛みが走ったのは、右頬。切れて、おそらくは血が流れている。掠めていったのだ、弾丸が。わずかに、皮と、肉を削ぎ落として。

 死が、掠めていったのだ。己の、肉体を。

「なぜ動かなかったか、聞いてもよいかね?」

「意、がなかった。その銃からは」

 もっといえば、殺気が。こちらを殺してやろうというものが、一切感じられなかった。

「ほう、それは気というやつかね?」

「少し、違うな」

 説明する気はないが、それは直感と呼んでよいものだ。直感とは、単なる勘やなんとなく思うとは趣が異なる。それは長年の経験と、さまざまな条件要素から導き出される集約的な科学要素といっていい。具体的にいうなら、この場合はまず入射角。明らかに、こちらの急所を狙ってはいない。そして表情、筋肉などから察する雰囲気。ひとを殺そうというには、軽すぎる。さらにはこちらに確認を取った行動など。他にもいろいろとあるが、まあそんなところだ。

 男はそんなこちらの様子を、観察するように眺めていた。

「……ふぅむ、ほう。はぁ、んむ。きみは、あれかね?」

「なんだ?」

 構えない。振り返った棒立ちのまま、身体を斜に――半身を切り、左肩を相手に見せている形で、質問に応える。今さら動きを見せるのは、逆に危険があるかもしれない。相手はそれこそ得体が知れない。

「そのだね、いわゆる我々側とは、違う人間ではないかね?」

「我々側?」

「そのだね、いわゆる、魔法だとか、神秘だとか、そういうものを扱う立場の人間たちだよ」

「違うな」

「ならばなぜ、その、邪魔をするのかね?」

 ほんの些細な違いだ。普通の人間ならば、気づけない。だが空気が、口調が、視線が、表情が、言葉にするのも憚れるぐらい微かに、変わった。

 緊張感。

 そこに意図があるかは、断定しづらい。

 迷う。

「……邪魔?」

「麗くんから、そう聞いているが?」

 確かにそう言った。これは誤魔化しはききづらそうだ。

 依然銃口は、こちらを向いている。狙いは今度はどう見ても、脳天だった。

 ――どうするのが、正解か?

「……ああ、そうだな。あの時は、確かにそう言ったな。間違いない、認めよう」

「あの時、という言い方が気になるのだが?」

「いや、そうだな。あの時はそうだったが、今はどうかは断定できないということだ。まずだいたいが、あんたらの目的もなにも俺は知りはしない。だから邪魔するとかいわれても、そも答えようがないな」

「ああ、そうだったのかね」

 存外。

相手はあっさりと、俺の言い分を認めた。もちろんそれをそのまま鵜呑みにするほど、俺も純粋な子供でもないが。

「それはそれは、失礼したね。無礼を詫びよう、この通りだ」

 そういって、男は肩をすくめた。自然銃口は、空へ向く。とりあえず急場は凌いだか。もちろん、気休めもいいところだが。

「なるほど、とりあえず話し合いは出来そうか?」

「もちろん、話し合おうじゃないか? 人類、みな兄妹だろう?」



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