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招かれざる来訪者

 弁解する気はないけど、もうどうすりゃいいのやら。このまま視界を掌で覆って学校まで行けばいいのか?

 そんなわきゃない。そんなんで解決されることなんて、世の中ひとつもない。いつだってひとは、俺は、武道家は、目の前の壁に立ち向かい、苦しんで、悩んで、戦って、打ち破らねばならないのだから。

「――よし、ひとつひとついこう」

 掌をおろし、息吹きひとつして気持ちを切り替え、まず最初の問いかけ。

「最初の問いだ。いい加減、答えろよ? なんでお前は、こうして俺と一緒に登校することになってんだ?」

「そりゃオレが聞きたい話だぜふみっきー?」

 またも頭抱えた。目の前に、馬鹿がいた。吸血鬼とは別種の。

「あー……よう」

「よう、親友」

「その言葉には若干の異論を挟み込む余地があるが、とりあえず今日もいい天気だな幸人」

「ンなこたぁどうでもイっつの。おっはよーさんでーす、えーりなちゃーんっ」

「あ、おはようしもべ一号くん」

「誰がっての、てか朝っぱらからきっついっすねー」

「え? そうかな? てゆうか狼男くん?」

「ま、それはそれとして、ふみっきー? なんかお前この前二度と会わないとかって言ってなかったですっけ?」

 肩に腕を回され、のしかかられた。参る、こういうノリはとことん苦手だ。

 だからそのガラ空きの脇腹に、肘を飛ばした。

「おわっと?」

 それを幸人は、直前で身を引いて躱した。ヒューと口笛なんて吹き、

「っとっとっと、っぶねーふみっきー必殺の猿臂打ち。これくらってオレ昔マジでアバラにヒビ入ったんだよねー」

「若い頃の話だ、今なら的確な加減をしてやろう」

「こーえ。で、えりりんは今日どーゆー理由でふみっきーと登校してんの?」

「ん? 一緒に暮らしてるから」

 ばっ、とすら言う暇なかった。

『――――』

 静まり返る通学路、ておいおい比喩じゃねーぞホントに周りの推定2,30人の学生たち世間話や雑談やめてんぞっていうかお前らわざわざ止まってこっち見てんじゃなーよホント暇だな、ホント。

 ホンっト、泣けてくるよな。

「ぅ……う、ぅう……」

「ど、どーしたよふみっきー? な、なんで泣いて……ってホ、ホントに泣いてんのかよ今史!?」

「あぁ……なんか、なんでこう、なにもかも裏目にでっかなぁって思ったら、こう、ホント泣けてきて……」

「だ、だいじょーぶだって! ほ、ほら、オレ見ろよ? みんなに笑われけなされバカにされて廊下に立たせられても立派に生きてんだろ? 人間その気になればどんな立ち位置になってもやっていけるもんさ、うんっ!」

「そ、そこまで堕ちたくねーんだ、俺は……」

「……し、失礼だなてめーこのやろう」

「今史、なんで泣いてんの?」

 自称親友とそんなどうにもならなりやり取りしてたら、その発端であり原因である頭からっぽ女が覗き込んできた。

 お前のせいだよバカって言いたかった。ていうかせめて取り巻きとっとと登校してくれ。

「……な、なんでもねーよ。いいから登校すっぞ。お前、2?Hなんだろ?」

「うん。だけど残念、初の誰かと登校は、ならなかったね」

「――なんで」

 その質問が、既に余分だった。

 身体は自然、そちらを向く。

「――と、邪魔したかね?」

 それは、パッと見て異様な男だった。青の、ストライプ柄でダブルのスーツをきっちりと着こなし、紺のネクタイを締め、磨き抜かれた黒の革靴を履き、深い茶のキャスケットを被った、背の高い男。

 まるで映画の英国紳士が飛び出してきたような、その出で立ち。

 口元にはオシャレな手入れがされた髭があり、左手には使い古されたレトロな鞄が握られ、そしてその眼差しは――その眼差しこそが、異様の原因だった。

「なにか、用ですか?」

「いや、用があるのはそこにいるお嬢さんでね。きみにあるかどうかは、まだわからないね」

 なんという合致した条件を丁寧に述べてくれるんだろうか。

 これでこちらも心おきなく、臨戦態勢に移れる。

「へぇ。それは、なるほど」

 なにも、言うべき言葉はなかった。代わりのように隣でくちゃくちゃガム噛み始めた、ポケットに右手を突っ込んで半眼になったガラの悪い自称親友が口を開く。

「なに? どしたの? なんかあったん? どーゆー状況よ、これ? 今史、オレの力必要か?」

「どうだろうな?」

 解決すべき疑問はいくつかある。

 ひとつは、場所。ここは通学路で、そして多くの学生たちがこちらを見つめているという状況だった。こんな状況で仕掛けてくるということは、いちいち説明する必要もないくらいに酔狂なことこのうえなしだった。

 さて、どう出る?

「先日は、うるわくんが失礼したね」

 普通に、歩いてきた。こちらへ向けて、真っ直ぐに。なんの憂いもなく。

 どういうつもりか。

「麗ってのは、この前の超チビか? なんだ、あいつの仲間か? それともあいつは様子見で、あんたが本命ってとこか?」

 膝を伸ばして、斜に相手を迎え入れる。ここでことを仕掛けるなら、戦わずしてこちらの勝ちだ。ひとも呼ばれるし、指名手配もされるだろう。

「いや、不肖ながらも私の一番弟子でね。あまり身長のことは言わないでくれないかな? 本人も気にしているようでね。優秀な子なんだが、いかんせん実戦経験が少なく、まさか戦闘にはなるまいと思っていた私の読みが甘かったようだ。素直に謝罪しよう」

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