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彼女の事情

「まぁ、それはいいとしよう。どうせ俺のことだしな。それで今日来た理由が、俺が危ないからって言ったな?」

「うん」

「それは例の、その、魔導連盟ってやつのことか?」

「そだね」

 軽い、途方もなく。ぽんぽん気負いもなく言葉が返ってくる。とてもこんな途方もない話をしている雰囲気じゃない。

 だからこそ逆に、現実味を帯びて感じられるところもある。

 夜の闇が、窓から這入ってくるようだった。

「――奴ら、俺に報復にくるってことか?」

「というより、やっぱりボクを狙ってくると思うよ? 狙いはボクだしね。ただ向こうとしては、今史が契約したかどうかが気にかかるところなんじゃないかな?」

「契約、か。察するに、血を吸われたかどうかってところか?」

「ヲぉ!? 鋭いねふみっきー?」

 ああ、学校じゃそんな呼び方されてたな。既に少し懐かしい、というか完全に忘れてて欲しかったところだったがな。

「……まぁ、な。それでしもべとか、そんなところか?」

「それがちょっと惜しいんだよねー。しもべじゃなくて、使い魔というか、相棒というか、片割れというか、伴侶というか、一蓮托生というか――」

「……ヲイ、なんかちょっと意味違ってきてないか?」

 しもべから始まったはずのそれが、なぜかどんどんグレードアップしていた。最後には伴侶だとか、一蓮托生だ。いったいそれは――

「いや? 違わないよ? つまり契約とは、ボクの分身っていうかそういう同等に近い相手を選んで行うものなのです、えっへん」

「いやそんな無い胸張ってえばられても――」

 初めて。

 本気の殺意を、視た。

「――――」

「うぉ!?」

 宮藤に会ってから初めて真剣に、身を躱した。心臓があった辺りを、轟音をあげて宮藤の右腕の先にある爪が通過していった。しかし躱しきれずカッターシャツの前面が破られ、皮が真一文字に、切り裂かれる。

 そこから血が、零れ出す。

「――――なにか、いった?」

 作られた完璧な笑顔に、冷や汗が溢れだす。単なる突きで轟音が出来るなんて、初めて見たぞ……

「――まぁ、気にするな。ひとには色んな特徴があるから、個性だしな、うん」

「なにか、いった?」

 どうも言葉が通じない状態だった。女性の心理というやつは、男というか俺には昔から理解がし難いもののひとつつだった、もう触れないでおこう。

「……で、だ。つまり契約と普通の吸血は、扱いが違うわけだな?」

「そだね」

 ようやく宮藤は落ち着いたのか突き出していた右手を引き、前のめりに両ひざをついていた状態からごろんと後ろに体重をかけ、今度は体育ずわりになった。なんだかそこまでくると徴発されてる気がしてきて、今度はなにがなんでもと硬い決意ができてくる。

 メガネを直して、尋ねる。

「どう違うんだ?」

「普通の吸血に制限はないし、相手もみんながみんなどうかなるわけでもない。蚊に、似てるかな? 血を吸うのと、かゆくさせるのは別っていう。確か分泌する唾液がそうさせてるんだよね?」

「いや、まぁ、確かそうだったけど……いいのか、蚊と一緒にして?」

 沽券だとか何とか言ってたから、そういうのは気にすると思ってたんだが。

 宮藤は掌を顔の前でブンブン振って、

「あ、ぜんっぜん。まぁひとによっては気にするひともいるみたいだけど、ボクはどーでもいーね」

 ひとっていうか鬼だけど、まぁそこは言わないでおこう。

「なるほどな。となると、幸人の血を吸ったのはどうなるんだ? というか気になってはいたんだが、お前幸人のどこから血を吸ったんだ?」

 キスしてそのまま血を吸うなんて、頬の内側からでも吸ったのか?

「舌だね、べろ。それをかぷって噛んだんだよ?」

「うわ……」

 聞かなきゃよかったと少し思ってしまった。なんと痛そうな――幸人、乙。

「あ、だいじょぶだいじょぶ。ちゃんとその前に、魔眼で魅了してあるから」

「魔眼? って、その目か?」

「そ。今史も、魅了して欲しい?」

「――いや、いい」

 二コリと笑われて、俺はきっちり拒否する。そういう非科学的なものや超自然なものには、断固として距離をとる必要がある。武道においてもそういう一面はハッキリと存在し、その威力は身をもって体験済みだったから。

「そう? 残念。で、他に聞きたいことってある?」

「契約っていうのは?」

「あ、そだね。契約もおんなじように吸血は行うんだけど、たった一人としか出来ないの。その相手には血を吸う代わりに、こっちからはオドを送り込む。そして心も体も繋がるってわけ」

「……オド?」

「あ、ちょっとわかりづらかったかな。今風に言うならそうだね、魔力っていえば近いかな?」

「ほう……魔力、ね」

 ぞくぞく、と背筋を悪寒が駆け抜けていった。そんなもん送りこまれたらどうなるか、わかったもんじゃない。それになにより、通過儀礼だとか契約しなくちゃいけないとか、それって――

「で、その相手を探して色んな人間を試してたところで、ふみっきーに――」

「魔法使いは、次にどういう行動に出そうなんだ?」

 最後まで言わせず、急に迫っている事態に話を移す。宮藤は、ん? と一瞬頭を傾げ、

「ああ、そうだね。だからたぶん、ボクとふみっきー、両方同時に襲撃に来ると思うよ?」

「そっちには当初の予定通りに、こっちには契約したかどうかの確認のために、か?」

「そうだね」

「じゃあ、その対策としてはどう行動したらいいんだ?」

「ずっと一緒にいた方がいいと思うよ。分散すると、こっちも対策立てにくいし不意の襲撃が怖いしね」

「ほう、だから今日は来たのか?」

「うん、だから今日から毎日ふみっきーの家に泊まるね」

「なるほど。だが断る」

「へ?」


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