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ローキック

「簡単ダッタナ、キュウケツキ。油断シタカ? ソレトモ実際コンナモノカ? 実際噂トハ尾ビレガ付クモノト相場ガ決マッテイルモノダシナ」

 コンクリートを触れただけで砕いた理屈や、機械のような音声の絡繰や、宙から突然現れた道理も未だわかってはいない。しかしどういう理屈なのか、考えるのはやめた。ただ――

「デハ、予定通リ――ナンダ、人間?」

 初めてこちらに気づいたような、そんな声色。

 なんだ人間だなんて呼ばれたのは、初めてだな。

「いや、ちょっとな。この子には、少し借りがあってね」

 間に割って入り、そのことで直接気配をぶつけられて、初めて感じるところがあった。

 なるほどこいつには――というよりこいつに"も"、殺気と呼ばれるものがない。敵意もなく、もっとざっくりいえばありとあらゆる感情が見受けられない。

 ただただそこに在るだけの、異様。

 宮藤との違いといえば。

 その無機質な無表情が、嫌に癇に障るといったところか。

「ナニカ、用カ?」

「というか、俺、この子のボディーガードみたいな立場でね。このままぼうっとしてると、少し困ったことになるんでな」

 一歩、コートはこちらに踏み込んでくる。

「ドウ困ルンダ?」

「まぁ、気恥かしい話だが……武道家の、矜持って奴かね?」

 さらに、一歩。

 そこが、間合いだった。

 戦闘は、合図なく前触れなく始まっていた。

「――シッ」

 呼気一閃、太腿めがけて下段廻し蹴りを放つ。最短距離で、最初に機動力を潰しておくのは定石ともいえた。一番バランスを崩しにくく、力が込めやすい技だというのも最初に選んだ理由だった。

 果たしてコートは――それをモロに、受けた。

 そしてそのまま、宙に舞った。

「きゃ」

「――――は?」

 思わず、間抜けな声をあげてしまう。手ごたえならぬ足ごたえは、完璧だった。真芯で脛のもっとも硬い部分が相手の大腿骨の中心を捉えた感覚がある。だがしかしそもそも牽制のつもりだったから、相当な手加減をしておいた。当たっても警戒、ぐらいの気持ちを喚起させるつもりだった。

 しかし果たしてそれで相手は宙を半回転して、地面に頭から受け身も取れずに激突していた。

「…………」

 宮藤の時の、焼き増しだった。二歩距離を開け、様子を見る。こんなんばっかりだ、と頭が痛くなる思いだった。得体の知れない相手と戦うのは慣れているが、こうも呆気なくいって様子を見なければならない相手と戦う羽目になったのは宮藤のを合わせて二回目のことだった。

 もぞもぞ、とコートは蠢いていた。痛みに呻いているのか、それとも何か準備でもしているのか、まったく判別できない。それこそまるで、芋虫かなにかのように映った。

「……………………」

「っ……く、ぅ……」

 だいたい10秒ほどかけて、コートは立ち上がった。その姿は、どこか頼りなさげだった。足元もおぼつかず、そのありようは宮藤とは違い深いダメージを連想させる。

 思わず、問いかける。

「あの……大丈夫か?」

「キ、気遣イハ無用っ」

 あ、なんか怒ってる感じがする。無機質ながらも、なんとなくだがそんな感じが受け取れた。

 どうしたものか、難しいところだった。

「えー、と……」

「邪魔スルカ?」

「一応、そのつもりだが……」

 改めて意思表明するのも結構恥かしい話だった。もう問答などありえないと考えていた浅はかさを恥じる。

 コートはこちらを睨むように顔を上げ、

「――目算ガ甘カッタヨウダ。貴様今日ノコト、後悔スルナヨ?」

 吐き捨て、コート姿はその場から立ち去っていった。足をズルズル引き摺りながら。あとに残されたのは、構え、気合いが空回り気持ち悪く残ったままの俺と「う、ぅ~ん……あれ? 今史?」なんて今頃起きて寝ぼけてやがる吸血鬼だけだった。

 まったく、なんなんだこれは?


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