入隊式
♯1
心臓の鼓動が耳の鼓膜まで鳴り響く。
昨日から何故か気持ちが高ぶっていた。
夢に見た日が今なのだ。今日は入隊式なのだ。
我が国を守るために作られた自衛隊みたいな組織
に、俺は入ろうと決意する。
自分の高ぶった気持ちを落ち着かせようと右耳だ
けにイヤホンをねじ込む。聞き慣れた音楽をリピ
ートし、同じ歌詞をひたすら聞く。
深呼吸し、会場のドアを開ける。
目の前には、何百という人の群れがあちらこちら
から声を発する。
「えー、ゴホン。これより入隊式及び隊編成を行
います」
一つのアナウンスの声で、先ほどまでこれでも
かとうるさかった会場が一瞬にして静まり返る。
ステージの真ん中に一人の爺さんが歩いてくる。
「おい、この人長様か?」
会場の一人の新入隊員の一言で騒ぎ出す。
「長」と呼ばれる人物は、この国最高峰のこの
組織で一番偉い人なのだ。滅多に会えない一人
で、一般人ならば会わずに生涯を閉じるものは数
多い。会えた奇跡と呼ばれた人なのだ。
「リト・ソーザンド」
足の震えを必死に抑えながら、前にでる。
ここで、一人ずつどこに派遣するのかを長様直々
に任命するのだ。
「リト、大きくなったなぁ」
確かに長様はそう言った。
「え?」
会えただけで奇跡の人が、久しぶりと言ってくる
のだ。しかし、キオクを辿っても思い当たらな
い。
「すまん、覚えがないだろう。何せ前に会ったの
は、お主が一歳の頃だからな」
「そう、ですか」
「君の父に大変世話になった」
そういや、父さんもここで働いてたっけ。
すると、長様は何かを決意したらしい。顔に出て
いる。
「よし、お前をこの組織最高峰の特殊強化部隊、
又の名を、SWCに任命しよう」
「え!!!」
会場中が俺に目を向けた。
なにせ、SWCは、知力体力共に試験でオールA
を取ったエリートしか入らない所なのだ。
5年に1人入れたら奇跡と言われる部隊でもあ
る。
「え、俺には」
「いや、父の偉業を受け継いで欲しい。これは譲
れんな」
まさの選択になったのだ。
いや、無理だろ。