なくなってもそれでも、、、
♯0
もっとあーしたい、こーしたい。
しかし、俺はただひたすら彼女の左手を握るしか出
来ない。本当に情けなく感じる。
俺好みのサラサラとした彼女の左手から震えている
事に気づく。
「ねえ、もしかして怖い?」
「・・・そうね、今更震えちゃったりする」
珍しい。人に弱みを見せない彼女が素直にその姿を
見せる。
まあ、仕方がない。何せキオクが綺麗さっぱり雑巾
で拭き取られたみたいに無くなるのだから。
総技官が残り少ない俺たちの時間に終わりを告げる
のだ。
彼女は、何も言わず笑顔を見せ、技官の後を歩いて
いった。
その姿を、背中を見ることがどうしても出来ない。
どうにもとまらない、溢れんばかりの涙を見せまい
と、必死に下を向き涙を拭う。
幻覚か否か、彼女の声がこだまする。
しかし、幻覚ではなかった。
「リト!」
はっきりとした彼女の声で、不意に泣きじゃくった
情けない顔を上げてしまった。
「何で戻って来たんだよ」
俺の心配を聞こうともせず、彼女は俺の言葉を遮っ
た。
「リト ーあのね、」