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ロストカラーズ  作者: あすか
第三章 不死王討伐
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第69話 旅に出よう

 赤の国が滅んだ。


 赤の国を滅ぼしたのは、魔王である【不死王】ヘンリー。ヘンリーは【虚空】シエラが死んだため、戦力拡大を狙って、【虚空城】と赤の国を手中に収めようとした。


 だが、そのヘンリーも王都で討伐された。ヘンリーを討伐したのは虚空の部下。

 そして、王都は【重奏姫】エキドナが治めることになった。


 また、ヘンリーが治めていた不夜城は、ヘンリーの部下であったカミラが治めることになった。

 そして、虚空が治めていた城はシクトリーナ城と名前を変えた。シクトリーナを治めている者の名はシオン。但し、この男の情報に関しては殆ど存在しなかった。


 この全世界を揺るがすような未曽有の事件は、赤の国の王都から逃げ出した人間によって、冒険者ギルドや、商人を通じて、瞬く間に全世界へと広がっていった。


 ここまで詳しい情報を得ることが出来たのは、赤の国から市民を守りながら、近隣の町まで護衛した、リンという冒険者が、必死に手に入れた情報だった。

 状況証拠しかないが、アンデッドが多数現れたのは事実だし、【重奏姫】が占領したのも事実なので、【虚空】の話も含めて、かなり信憑性が高いと判断された。


 世界は混乱にした。魔王が二人も死んで、赤の国が滅んだ。【重奏姫】がこのまま人間の国に侵攻するかもしれない。【不死王】の後を継いだカミラが反撃に出るかもしれない。謎に包まれている【虚空】改め、シクトリーナはどんな行動をするのだろう。はたまた、更に他の魔王が動くかもしれない。

 赤の国が滅んだことにより、人間の国のパワーバランスも崩れる可能性がある。

 世界が戦乱になるかもしれない。そんな憶測が飛び交うことになった。


 エキドナは、赤の領土を全て手に入れるつもりはないようで、王都付近に、境界線とばかりに、大きな壁を作った。

 黄や青は、領地拡大を狙い、赤の国の領土に侵攻したいが、下手をすると【重奏姫】の機嫌を損ねる結果になる。そうなると、待っているのは破滅だ。その為、二国とも動けずにいた。

 その為、王都以外の赤の国の町は、何処からも侵略されず、放置され続けることになった。


 また、赤の国の、国境付近の砦に勤務していた兵隊が、一部の人間を残して消えてしまった。

 消えた人間は一年以上前に遠征で輸送隊に属していた共通点があったが、それに気が付いている者はいなかった。

 残った人間は皆、砦から逃げ出し今は砦は廃墟と化している。



 ―――――


 シクトリーナ領地は今は大忙しだ。まず人間の兵士が二百人以上増えた。

 兵士以外にも、その家族などがまとめて越してきた。その兵士たちの代表者はヴォイス、それにアルフレドやロベルトといった名前があった。


 住む場所はフィーアスでもツヴァイスでもない。城の横の広場だった場所を中心に、新しい町を造ることにした。シクトリーナの城下町的な感じになる予定だ。その町は交易も行っていく予定だ。その際は、バルデス商会をこの町に呼びたいと思っている。

 まぁ、その為には黄の国まで行く必要があるから、本当に何時になることやら……。


 人間以外でも、魔族が来ることが増えた。特に女性型の魔族が庇護を求めてやって来る。

 他国のスパイや、明らかに何か企んでいるような者は追い返すが、大半はフィーアスで引き受けた。

 男側の魔族が来た場合は、友好国のエキドナに引き取ってもらった。エキドナの所も、殆どが女性型の魔族だが、あそこはここと違い、少しだが男の魔族もいる。それに復興のための人手も必要だ。人間は引き受けてくれないが、魔族なら歓迎してくれた。


 友好国と言えば、新しく不死王となったカミラとは友好的な関係が築けそうだ。まぁ殆どがゼロのお陰なのだが。

 ゼロは、戦後からちょくちょく城に来ては酒を強請る。最近では、城の料理が美味しいことを知ったらしく、気がつくと食堂にいる。

 あまりにも頻繁に来るようなら、出禁にする必要もあるかもしれない。

 あと、夜魔族が姉さんを慕っているようだ。それを聞いた姉さんが、酒を飲んで暴れるという一幕もあったが、概ね問題はなさそうだ。


 そんなこんなで、ついにシクトリーナは内々だけでなく、外との交流も開始し始めた。

 これからどんどん発展していくだろう。



 ―――――


 そして、俺はと言うと……。


「ちょっ! ラミリアさん。そっちじゃないっス!」


「はぁ? だってここにこうやって……」


「ラミリアさん、それ上下反対ですよ」


「なっ!? だってエイミーさんが渡してくれたままですよ?」


「だからじゃないですか! 私が渡すから、反対になるのは当然です」


「なっ!? ふ、普通は、渡す人の方向にして渡すだろう!」


「いや、刃物じゃないんスから……って、かちゃんと確認しないラミリアさんが悪いんス」


「なっ! それを言うなら、最初に迷子になったリンさんが悪いんじゃないですか?」


「そ、それは……。ここに入り込んだ時点で、魔法が発動するなんて、思わなかっただけっス!」


「リンさんは、肩書きだけはAランク冒険者なんだから、罠はちゃんと確認してくださいよ」


「肩書きだけじゃないっスよ! それに、そう言うならエイミーさんはどうなんスか! 森の入口を調べようとした私を急かして、先に入ろうとしたじゃないっスか!」


 とまあ絶賛迷子中である。

 城の方が、ある程度の方向性は固まったので、復興や新しい町造りは、ルーナやトオルに任せて、旅に出ることにしたのだ。


 今回の旅の目的は、エルフの村でスミレに会うこと。


 同行人は、メイド代表として外での経験豊富なリン。人間世界の常識を知っているエイミー。エキドナから無理矢理連れていけと言われ、仕方なくついて来たラミリアの三人だ。


 もちろん、相棒のスーラは一緒にいる。が、ホリンは今回お留守番だ。本当は連れて来たかったんだが、森の中だと動きづらいと判断したからだ。エルフの村を訪ねた後に、旅することがあれば、次は必ず連れていこうと思う。


 そんな俺達四人だが、トオルにドワーフ王国まで送ってもらって、大森林からエルフの村を目指した。……のだが、森に入った瞬間、迷子になる始末。迷いの森ってのは伊達でも何でもなかった。

 しかも、結界のせいでケータイは通じないし、転移も出来ない。一旦外に出ようとしても、すでに迷子で、どうやって帰ればいいのかすら分からない。


 日本でアイリスから貰った地図は、さっきの会話で分かるように、地図の読めない女性陣の手に渡っている。

 迷いの森を抜けるための魔道具は、森に入る前に発動させないと駄目だったらしく、一旦森に入ってしまうと、一旦外に出るか、指定の場所まで辿り着かないと使用できない。その為に指定場所まで向かってるのだが……。


「おいおい、こんなところで言い合いしても仕方ないだろ? 誰が悪いとかどうでもいいから、さっさと先に進もうぜ」


 俺がそう言うと三人はピタッと言い争いを止めた。

 うんうん、それでいいんだ。


「……元はと言えば、シオン様が全ての原因っスよね? ちゃんと魔道具のことを皆に説明していれば良かったんス」

「それもありますが、そもそもドワーフの町で、シオンさんが冒険者をボコしたりしなければ、もう少しゆっくり準備や情報収集が出来たんです」

「シオンさん? 分かってます? 今食料がないのも、すでに三日も彷徨ってるのも、全部シオンさんのせいですよ?」


 しまった! 矛先が全部俺に来てしまった。


「いや、だってあの冒険者、俺のストールをバカにするんだぞ。そりゃあボコボコにしても仕方ないだろ?」


 トオルに送ってもらったドワーフの町で、準備や情報収集をしようと思ったが、俺が羽織ってるストールがボロだと馬鹿にされたため、ちょっとその冒険者にお仕置をしたら、速攻お尋ね者になった。

 食料の買いだめや、宿泊道具。何より迷いの森の情報収集もせずに、町から逃亡。そのまま森に入って早三日ってわけだ。


「シオン様が、スミレ様のストールを大事にされてるのは知ってるっス。普段は部屋で大事に畳んでいることも、こうやって旅に出るときに、羽織っている理由も分かるっス。けど、軽く懲らしめるだけならまだしも、装備品を全部溶かした挙げ句、全裸にして毒にするのは、正直やり過ぎっス。言い訳もできないっス」


「シオンさん。そのストールが大事なら、もっと丁寧に扱ってください。そこ、引っ掛かってますよ」


「なにっ!?」


 振り返ると、ストールが木の枝に引っ掛かってた。俺はそっと枝からストールを外す。ふー、危なく破れるとこだった。気をつけないとな。


「シオンさんって、実は結構残念な人だったんですね」


 違う、違うんだエイミー。残念なのはルーナだけで十分だ。


 結局最終的には俺が悪いことになって、今日の食事当番を任命させられた。

 食材はないので、もちろん捕まえるとこからだ。

 はぁシクトリーナの料理が懐かしい。わずか三日で、早くもホームシックになりそうだ。


 俺の旅は迷子からスタートすることになったのだ。

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