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ロストカラーズ  作者: あすか
第三章 不死王討伐
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第67話 懐かしの味を楽しもう

「さあ着いたぞ。ここが俺達の城だ」


 トオルの転移で、一瞬にして赤の国からシクトリーナ城まで帰還する。

 すでに赤の国で転移を経験しているので、二人にはそれほど驚きはないようだ。


「へぇ。ここがシオンさんの城か。綺麗にしとるなぁ」

「はぅ。立派なお城……」


「まぁ城は前に住んでいた魔王が建てたし、管理はメイド達がしっかりしてくれてるからな。それに中はもっと凄いぞ」


「なんや楽しくなってきたな。わくわくするわ」


「そうだね! あっでも私達本当にお邪魔しても……?」


「ああ、構わないさ。今日のところは、城の客室で休むといい。で、明日は町を案内する。その後で、街に住むか城に住むか決めてくれ」


「城に住むって……見当もつかんのやけど。そもそも町ってどこにあるんや?」

「そう言えばお城はあるのに、町は見当たらないね?」


「やっぱり城下町がないのは変かな? 今後外交する際はやっぱり城下町があった方がいいよな」


「そうだね。誰彼構わずにツヴァイスに入れるわけにはいかないし、今ならドルクさんやエキドナの親衛隊もいるから作りやすいんじゃない?」


 ドルクとダナンさえいれば家を作るのは簡単だ。エキドナ親衛隊にお願いすれば、素材は簡単に手に入るだろう。


「ま、そのあたりの話は会議でやっていくか。じゃあここで立ち話もなんだし中へ入ろうか」


 そう言って俺達は城の横にある転移小屋へ向かう。


「えっ? 入口はあっちじゃ……?」


 ミサキが城の入口の方を指す。


「ああ、あっちは侵入者用の入口だ。一応ここは元は魔王城だから、偶に敵が来るんだよ。だから住んでいる人たちはこっちを使うんだ」


「……そうやった。ここは魔族の城やったな。すっかり忘れとったわ」


 おいおい、忘れるなよそんな大切なこと。……まぁ魔族っぽい所はどこもないもんな。仕方ないか。



 ――――


「お帰りなさいませ。シオン様」


 とりあえず二人に何か食事を……と思って、食堂に来たら、ルーナが待っていた。


「ただいまルーナ。もう体調は大丈夫なのか?」


「ええ、お陰様で、一晩休んですっきりしました」


 うん。顔色も昨日は青白かったけど、今は元通り普通の白だ。


「それにしても、よく俺達が食堂に来ることが分かったな」


「帰ってきたことは、通信隊から聞いておりましたから。昨日の状態なら、お腹も空いてるかと思いまして」


「食べてから会いに行こうと思ってたんだが……何でもお見通しか」


「後程、サクラ様とヒカリ様もいらっしゃいますよ」


 ……姉さんも来るのか。大丈夫かな?


「あ、あの! 昨日は助けていただいて、ありがとうございました」

「はう! ありがとうございました」


 俺とルーナの会話が途切れたタイミングで、ミサキとレンがルーナにお礼を言う。


「いえいえ、助けたのはシオン様でございます。それよりも、しばらくこの城に滞在するのでしょう? わたくしはこの城でメイド長をしています、ルーナと申します。この城で、何か不都合がございましたら、何なりとお申し付け下さい」


「は、はい。ありがとうございます」

「はぅ。大人の女性って感じ……」


 二人はルーナの出来る女ってオーラに、圧倒されている。これで、実は残念な部分があるとは、到底思わないよな。


「それで……姉さんはどうなんだ? かなり荒れてるって話だったが……」


 会う前に、心の準備も必要だし、流石に聞かずにはいられない。


「そうですね……。わたくしが帰還したときは、すでに酔っていて、セラ様やイオンズ様が死にかけてました」


 うわー。その光景が目に浮かぶようだ。良かったその場所にいなくて。


「その後も暴れ回っていたようですが、ヒカリ様が窘めて、ようやく落ち着きを取り戻しました。一晩寝て今日はもう大人しくなっていますよ」


「そ、そうか……」


 ヒカリ……なにやったんだろう?


「ま、まぁ姉さん達には、後で紹介するとして、とりあえず何か食べようか。いつもなら、決まったものを出してもらうんだけど、今日は特別に作ってもらおう。何が食べたい? 何でもいいぞ」


「えっ? いや……何でもって言われても……何があるか分からんと、注文できへん」


「ある程度のものなら何でも出来るぞ。ラーメンでもうどんでも。焼きそばやお好み焼き、チャーハンにカツ丼や親子丼、カレーや唐揚げ、ハンバーグでもいいぞ。もちろんデザート付きでもいい。ケーキやアイス、パフェなんかどうだ?」


「お好み焼き!! って……え? ここ日本やないよな?」

「ケーキ……パフェ……甘いものがあるの?」


 俺の言った日本食に二人は目を丸くして驚く。この世界では、どれも食べたことないよな。


「ははっ。流石に日本じゃないさ。でも限りなく日本に近い料理は出せるぞ。米も麺もデザートもだ。好きなものを言っていけ」


「ウチ……お好み焼きとご飯が食べたい!」

「私は……パンケーキありますか?」


「了解。じゃあ、すまんがこの子たちにお好み焼きとご飯、それからパンケーキを。俺とトオルはいつもの昼食でいいからくれないか」


「畏まりました」


 と奥から声が聞こえる。急な対応にも答えてくれるのは、本当にありがたい。


 しばらくするとメイドが料理を持ってきた。どうやら今日のランチはハンバーグ定食だったようだ。


「お好み焼き……ホンマにでてきた。ご飯も……ちゃんとした白米や」

「うわぁ……本当にパンケーキだぁ。蜂蜜と生クリーム……それにイチゴにベリーまである」


 目の前に料理を出されて、二人は感極まっているようだ。


「ほら、さっさと食べないと冷めてしまうぞ」


 俺の言葉に二人は慌てて食べ始める。


「ああ……ホンマにお好み焼きや。ソースもバッチリや。ごはんも……炊きたてのご飯や」

「はぅ。甘くて美味しい。……イチゴもベリーも酸っぱくない。本当に幸せだよ」


 二人とも目に涙を浮かべながら食べてる。やっぱり食事には苦労してたんだろうな。

 さて、俺も二人に見とれてないでさっさと食べるか。



 ―――――


「ふー食った食った。いやー、こんなごちそう。こっちに来て初めてや」

「はぅもうお腹いっぱい」


 二人ともどこにそんなに入るのか? ってくらい食べてたな。お好み焼きお代わりはやり過ぎだ。……いや、パンケーキお代わりの方が、俺的にはしんどいな。


「とにかく満足してくれたようで何よりだ。でだ、食事も落ち着いたところで、改めて自己紹介して欲しいんだが……」


 二人は気がつかなかったようだが、夢中になって食べている間に、姉さんとヒカリがやって来ていた。


 姉さん達はミサキとレンのことを知らされてなかったようで驚いていたが、一目見て日本人だと思ったようだ。だから事情は食事中に簡単に説明してある。


「え、えとウチはミサキって言います。三年前にこっちにやってきました。今は十九歳です」

「私もミサキちゃんと一緒に気がついたらこっちにいました。レンって言います。高校二年生でした」


 若いと思ったけど、俺たちと少ししか違わない。しかし三年前ってことは、俺たちよりもカラーズ歴は長いのか。


「じゃあ二人とも、日本にいたら今頃大学生だったかもな。俺達は大学三年の頃にこっちにやって来たんだ。二年前かな。年は二十二になる」


 俺の説明後、姉さんとヒカリが自己紹介を始める。


「じゃあ私も。こんにちは私はサクラ。貴女たちと同じ日本人よ。で、シオンの姉でもあるわ。久しぶりの日本人と会えて嬉しいわ」


「私はヒカリ。私も日本人だよ。年はシオンくんが言ったけど……考えたら、日本にいたらもう大学卒業しちゃってたんだね」


 あのまま日本に居たら、今頃は社会人一年目だっただろう。一体どんな生活だったんだろうな……。


「で、俺とトオル。四人とも同級生だ。この四人で地球からカラーズに来た」


「あれ? そうだったっけ? 私たちは置いて行かれなかったかしら? ねぇヒカリ」


「そうだよシオン君。嘘をついちゃだめだよ」


 嘘って……数日しか変わらないじゃないか。


「……ったく。殆ど変わらないだろ。ゴホン。俺とトオルが先に来て、数日遅れで姉さん達が追いかけてきたんだ。多分君たちとは状況が全く違うと思う。信じられないと思うが、俺達は望んで地球からこっちの世界へ来たんだ」


「えっ? 自分から……ですか?」


 まさか自主的にこっちに来たなんて思ってもいなかったんだろう。ちょうどいいので俺は最初から説明をすることにした。



 ――――


「自宅にゲートが出来たんは驚きですね。確かにその状況なら、ウチでも来たかもしれんわ」


「はう。そこは危険だから止めようよ。ミサキちゃん」


「しかし……そのお陰でこっちでも不自由なく生活出来るやなんて。流石としか言えないですね」


「まぁ殆どがトオルのお陰だけどな。トオルがいなかったら、持ってくる物も全然足りてない。それに、こっちにきて覚えた魔法も便利なものばかりだからな」


「ホンマに最初に会ったときに、スマホを操作したのには驚きましたよ」

「あっもしかしてこの人……って思ったよね」


「ミサキちゃん。別に無理に敬語や標準語を喋ろうとしないでもいいからね」


 さっきからちょくちょく気になってたけど、自己紹介後からミサキは敬語になっていた。


「年上と話すんは先生か親くらいしかおらんかったから、どう話していいか……でも分かった。出来るだけ自然に話すようにするわ。あ、あとシオンさんもウチのことちゃん付けやのうて、呼び捨てにしてください」


「はぅ。私も年上の男の人にレンちゃんって呼ばれると、何だか子供扱いされてる気がして……」


「そっか。分かった。じゃあミサキとレンだな。改めてよろしくな」


「「はいっ」」


「私たちは普段はミサキちゃんとレンちゃんって呼ぶわね。二人も私のことはサクラちゃんって呼んでいいわよ」


 いや……流石にちゃん付けはないだろう。


「いえ、流石にサクラさんみたいな年上の女性にちゃん付けはちょっと……サクラさんって呼ばせてもらいます」


「そう? 残念ね」


「私もミサキちゃんとレンちゃんって呼ぶね。私のことも、気軽にヒカリちゃんって呼んでね」


「はい、分かりましたヒカリちゃん」


 あっこれヤバいやつだ。絶対に姉さんが文句を言うやつだ。『何で同い年のヒカリがちゃん付けで、私は違うのよー!』って言いそうだ。

 文句を言う前に黙らせないと……俺は素早くルーナにアイコンタクト。今回は通じてくれよ! ……よし、ルーナが頷く。


「ではわたくしのこともルーナちゃんと……」


「だからちっがーう!」


 だからお前は残念なんだよ! これがラミリアだったら……いや、止めておこう。三人から殺気が溢れ出てきそうだ。


「シオン様、以前も申し上げましたが、突然奇声を出すのはお止め下さい」


 だからお前のせいだってのに……。


「いや、俺はまた姉さんが理不尽にキレたりしないか心配で……」


「ちょっとどういうことよ!! そんな無闇矢鱈とキレないわよ」


「あれっ? 俺はてっきり何で同い年なのに私はさんでヒカリがちゃんなのよー! ってキレるかと」


 俺がそう言うと、姉さんが心底呆れた顔を見せる。


「あんたね……。実の姉のことをなんだと思ってるのよ。私だってね。同い年でもヒカリよりは年上に見られる自覚はあるわ」


 あっ自覚はあるんだ。


「そっかそっか。俺はてっきり昨日みたいにキレ……ひっ」


 俺が昨日のことを話そうとすると、姉さんからものすごい殺気が送られてくる。


「シオン。誰から聞いたか知らないけれど、昨日のことは忘れなさい。良いわね?」


「……はい」


 どうやら昨日のことは、封印を施したようだ。きっとこの城の中に、その封印を解こうとする人間は存在しないだろう。


「昨日のこと? 昨日いった……」


「トオル! いいか、死にたくなかったら聞くんじゃない。せっかく封印されているのを、無闇に開ける必要はないんだ。いいな」


「……わかったよ」


 流石のトオルも、俺の鬼気迫る説得に何かを感じたようで、すんなりと引っ込む。



「はははっ。皆さん仲いいんですね。なんか久しぶりにホッとしました」


 大笑いしたのは何とレンの方だった。何がツボに入ったのか分からないが彼女は大笑いしている。


「まぁオトンがおったとしても、この世界ではいつ死ぬかも分からん状態やったし、色々張り詰めとったんやろな。ウチもこんな風にほのぼのさせられたのは、久しぶりや」


 三年間で初めて日本人に会えて、緊張の糸が一気に切れたのかもしれない。俺達だって、こっちに来て初めての日本人だ。なんか嬉しい。


「じゃあ次にミサキとレンはいつの時代からここへとやって来たんだい。そしてどんな生活を送ってきたのか……ツラいことは話さなくても良いから、教えてもいい部分だけ教えてくれないか」


 スマホを知ってるから、俺達と近い年代からやって来たのは確かだ。俺達と違い、この二人が、何の知識も持ち物もない状態で、どうやって生き延びてきたのか。言葉や文字はどうしたのか。異邦人としてどう扱われてきたのか。そしてこれからどうしたいのか。聞きたいことは沢山あった。


「そうやな。さっきウチらは高校二年って言うとったけど、二年生に上がったばっかやった。だから春やな。2018年春からこっちへやってきたんや」


 まさかの俺達よりも未来人だった。そして俺たちよりも早くこっちに来た。……もう時系列バラバラだな。


「言葉は初めは苦労した。でもレンが、魔法で言葉を使えるようになったんや」


「魔法で!? 二人の魔法は一体何色の属性なんだい?」


「ウチは青や。まぁ基本的な水の魔法やな。水以外にも、色んな液体を出すことが出来る。シャンプーやら液体石鹸やらな。行商で旅してるときは便利やったで」


 道理で二人は、この世界で三年も過ごしていた割には、小綺麗なはずだ。旅するのに便利な魔法だったろう。


「私は緑です。植物をイメージしていたら、植物と話が出来るようになって。それで、そのまま人間ともお話が出来るようになったんです」


 これまた便利そうな能力だな。植物と会話ができるなら、農業に役立ちそうだ。


「ねぇねぇレンちゃん! 今度植物とのお話を聞かせて!!」


 案の定ヒカリが身を乗り出してくる。まぁ一番植物に触れあってるからなぁ。


「はぅ!? いいですよ」


 レンは少し驚いたが、笑顔で了承する。


「二人とも。それは今度にして今は話を進めるぞ」


 二人とも頷いて座り直す。


「せやから、しばらくはレンに通訳してもらいながら、ウチは必死に言葉を覚えた。ちゃんと話せるようになるまで一年はかかったわ」


 ミサキの方は苦労したらしい。でも通訳でも話が通じるならまだマシだっただろう。


「んで、オトン……まぁこっちの世界での育ての親みたいなもんやな。ウチは親しみを込めてオトンって呼んでた」


「私は……お父さんとは呼べなくて、いつもおじさんって呼んでた」


「最初にオトンに出会ったのは、こっちに来て森を抜けたところやった」


 俺達は、ミサキとレンのこの世界に来てからの物語を聞いた。

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