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ロストカラーズ  作者: あすか
第三章 不死王討伐
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閑話 ルーナの戦い

ルーナ視点のため閑話扱いですが、本編と同じ感覚でお読みください。

 わたくしがバルコニーへ降りたのは、いくつかの理由があります。


 一つは単純に地上ですと、空を飛んでいるヘンリー卿と相性が悪いからです。

 一つはここなら、初撃を遅らせる可能性が高いからです。ここには前不死王のゼロ様、敵側の幹部、カミラ嬢、現魔王であるエキドナ様がいらっしゃいます。いくら勝負開始と言っても、この並びの中に攻撃を出来るほど、ヘンリー卿の肝は据わってないでしょう。


 そして初撃を躱すことに成功したわたくしは、城の中へ入ることが出来ます。これがバルコニーを選んだ最大の理由でございます。中に入りさえすれば、ヘンリー卿の最大の脅威である、空を飛ぶ能力が意味をなくします。


 少しだけバルコニーで戦うことも考えましたが、ここの人達に、後で恨まれそうなので、止めておきましょう。


 わたくしは城の中へ入ります。すると広間にでました。バルコニーと隣接していることから、ここは城の中でもパーティーなどに使用する場所ではないでしょうか? 戦うにはちょうど良い広さかもしれません。


 わたくしが少し待つと、外からヘンリー卿が入ってきました。もしここで、ヘンリー卿が外で待たれる選択をとったら、わたくしは少し困ったでしょう。

 さて、わたくしの近くには、先ほどと違い、障害になるものはありません。ヘンリー卿は心置きなくわたくしを攻撃してきます。


 ヘンリー卿の間接魔法は、コウモリの形をした追尾付きの攻撃魔法です。これに関しては、わたくしの召喚した銀のナイフで相殺が可能です。いえ、相殺ではありません。敵の魔法を消して、わたくしのナイフはそのままヘンリー卿に襲い掛かります。


 わたくしの属性である銀は、ヘンリー卿にとって弱点となります。銀のナイフがヘンリー卿に当たっただけで、大ダメージになるはずです。もちろんわたくしのナイフも、自動追尾にしております。果たしてどうやって避けるのでしょうか?


 ヘンリー卿は大きな鎌を出して、わたくしのナイフを薙ぎ払います。この鎌は、以前コピー卿が使用した、紛い物ではなく、実際に存在する武器です。

 魔王会議でかなりの業物だったと自慢していた覚えがあります。ヘンリー卿の魔法ではないため、相性も関係がなく、わたくしのナイフが負けてしまいました。

 いつも思いますが、ヘンリー卿は普段、この大鎌を体内に隠し持っております。

 この世界に、自身の魔法での物質化以外に、魔法で武器を召喚できることは、転移魔法使いくらいしか出来ません。そのためヘンリー卿は大きな鎌を体内に隠しているようです。霧になれるヴァンパイアだからこそ出来る隠し場所なのでしょう。ですが、体内にあんなものを入れていて、ヘンリー卿は平気なのでしょうか?


 このままあの鎌で近接戦を仕掛けられたら、わたくしは少し不利になってしまいます。

 流石に二割の身体能力では、長時間の戦闘には不向きです。ですから、このまま遠距離からの攻撃で仕留めましょう。ただ、確実に仕留めるには大技が必要です。しばらくはナイフで時間稼ぎです。


「くそっ。打つ手がないなら、さっさと殺られればいいものを……いちいち面倒くさいですねぇ」


「そちらこそ、わたくしに近づくことすら出来ないではないですか。本当に昔っから口だけですね」


「誰が口だけだと……貴様は前からそうだ! 俺のことをいつも蔑んだ目で見ては、悪態を付く。正直あの首なしよりも、貴様の方が憎くて仕方がなかった! ……そうだ。どうせ貴様を殺せば、この場では命の補償はされてある。貴様を殺したあとは、あの男の前で死体を犯してやる。その後で俺の眷属にしてあの男と殺しあってもらおうか!」


 口だけと言ってから豹変しましたね。それにしても、私を殺してシオン様の前で犯すなどと……なんて下品で許しがたい行為でしょうか。


 しかもそれを今シオン様にも聞こえるように言うとは。あっシオン様が怒ってらっしゃる。ここから見ても分かるくらいに怒ってるのが分かりますよ。あっ、エキドナ様とトオル様が止めに入りましたね。


 わたくしの為にそこまで怒ってくださる。メイドとしてこれほど嬉しいことは御座いません。だからこそ、このヘンリー卿はここで完膚なきまでに倒さなければなりません。


 さて、話している間に、ずいぶんとナイフが破壊されてしまいました。ヘンリー卿の足下には随分と破片が落ちています。そろそろ準備が完了でしょうか。


 わたくしは先ほどとは比べ物にならない量のナイフを召喚します。


「またナイフか? 本当にワンパターンだな」


「そうでしょうか? ご自身の足下を見てもそう思われますか?」


 そう言ってわたくしは魔法を唱えます。【全てを浄化する銀光(バニシングレイ)】。ヘンリー卿の足下からすさまじい光が巻き起こります。


「はははっ! 馬鹿め。自分で魔法を教えるとは……油断したな?」


「いいえ、その魔法は貴方をその場所から退かすことが目的でしたから、何の問題もございません」


 わたくしはヘンリー卿が避けているうちに、先ほど召喚したナイフを部屋中に散らしておきました。


「全方位からのナイフの攻撃か……小賢しい真似を。すべて無駄だと思い知らせてくれる!」


 そんな浅はかな攻撃は致しません。わたくしは部屋中に配置したナイフを分解させます。


「さぁ。この舞台のクライマックスを迎えましょう【銀幕世界】!」


 わたくしが魔法を唱えると、部屋中が銀色に覆われます。


 シオン様の【毒の霧】を見て編み出したこの【銀幕世界】。

 この閉鎖した部屋中に、わたくしの魔力をたっぷりと含んだ銀の粒子が撒き散らされております。

 銀が弱点のヘンリー卿は、霧になることも出来ずに肌を焼かれていくことになるでしょう。


「ぎゃあああーー!!」


 全身を弱点属性で覆われ、悶え苦しむヘンリー卿。醜い悲鳴を上げながら、堪らずバルコニーの方へ逃げだそうとします。


「せっかくのクライマックスに、演者が舞台外へ逃げ出しては興ざめです。演者が舞台外へ出るときはカーテンコールの時と決まっております。ですから外へは出させません」


 わたくしは先ほど【全てを浄化する銀光】を唱えた位置に、舞台の幕を下ろすための魔法を唱えます。


 その魔法は【カーテンコールの始まる前に】。

 出入り口を舞台幕が下りたように、中から出られないように施しました。


 外から見たら、銀色のオーロラのような感じでしょうか? オーロラ、いいですね。魔法名は仮名のため変えようとは思っておりましたが。オーロラはいい響きです。


「なっ! なんだこれは! 結界か? おい! ここから出せっ!」


 ヘンリー卿は、わたくしの銀のオーロラを大鎌で叩き割ろうと試みますが、ナイフよりも強力な魔力を使ってるのです。もちろんそれくらいで壊れるはずがありません。


 もちろんその間も、わたくしの【銀幕世界】によって、ヘンリー卿の体は焼かれ続けております。

 普通のヴァンパイアやアンデッドなら、とうに死んでそうですが、流石は腐っても魔王でしょうか。


 わたくしはトドメを刺すべく、ヘンリー卿の周り以外の銀の粒子をヘンリー卿の上空へと集めます。


「ヘンリー卿、これでお別れです。【無限に降り注ぐ聖光(ディバインシャワー)】 !!」


 上空に集まった銀の粒子が、流星雨のようにヘンリー卿へと降り注ぎます。


「ぎゃあああ!! や、やめ、も、おれは……ぐああああああ!!」


 最後にヘンリー卿はなんと言おうとしたのでしょう? その答えはもう永遠に分かりませんね。

 ヘンリー卿がいた場所には、大鎌と魔石しか残されていません。肉体もすべて消滅してしまったようです。


 わたくしは全ての魔法を解除しました。ふぅ流石に疲れましたね。


「ルーナ!!!」


「きゃっ!? シオン様!?」


 オーロラを解除した瞬間、シオン様が駆け寄ってきて、わたくしを抱きしめます。突然のことに、わたくしの頭は真っ白になってしまいました。


 シオン様はわたくしの動揺に気づかず、わたくしの肩に手を置き、少し離れます。


「大丈夫か? 怪我はないか?」


「え、ええ、特に怪我などは負っていませんが……」


「そうか! よかった」


 そう言って、またわたくしを抱きしめます。わたくしの頭はもう何も考えられません。

 そしてシオン様はわたくしにだけ聞こえるように耳元で囁きます。

 その言葉を聞いた瞬間、全てが報われた気がしました。わたくしはこの人のメイドで良かったと……一生この人について行こうと思いました。

 メイドのわたくしにとってその言葉は、きっと他のどの言葉よりも遙かに価値のある言葉でした。



「ルーナ。ごくろうさま」

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