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ロストカラーズ  作者: あすか
第三章 不死王討伐
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第60話 合流しよう

「見えたぞ、あれが王都じゃ」


 ホリンに乗って移動すること数時間。正面に城壁に囲まれた都市が見えて来た。あれが赤の国の王都ミンガラムか。

 実は、勢いよく出発した俺達だったが、城から王都へはグリフォンでも一日掛かる。

 前回ゼロの所に行ったように、全速力で走れば半日で着くようだが、この後戦うことを考えれば、疲れる真似は出来ない。


 その為、一旦地上に降り、転移で王都付近まで移動することにした。トオルが旅をした際に、付近の村を登録していたので、まずはその村まで移動し、再度王都に向かって、ホリンで移動した。

 近くの村と言っても、数時間かかったが、それでもお陰で昼には辿り着けた。


 王都で目に入ったのは城壁。結構頑丈そうな城壁だ。所々赤のマークがあり、かなり目立つ。……あれは魔物を呼びそうだ。


 城壁の内部は、村とは違って石造りの家が多く並び、商売をしている店や宿、食堂などがある。が、まだ昼なのに、どの店も開いていないみたいだ。それどころか、通行人も殆どいない。

 もしかして、もう全員アンデッド化してしまったのだろうか? 俺達の情報だと、まだ王都は滅んでいないはずだったんだけど……。

 城下町を抜けると、豪邸と呼ばれそうな建物が見える。たぶんあの並びが貴族の建物なのだろう。そして一番奥にある大きな建物……あれが赤の城か。


 正直に言うとがっかりした。赤の城は、シクトリーナ城とは比べものにならないくらいに見劣りする。

 赤色に塗られた城は印象に残るが、赤色は年季が入って変色しているし、塗装も所々剥がれている。

 貴族の屋敷も、ドルクの造ってくれたツヴァイス一軒家の方が遥かに立派に見える。これが王都って……名ばかりって感じだな。


「もう王都って全滅しちゃったのかな?」


「ちょっとリンに連絡してみましょう」


 そう言ってケータイを取り出す。リンとセツナは、この王都のどこかにいる筈だ。


『はい!! こちらリンっス!!』


 リンの声はスピーカー出力にしているため、俺にも聞こえる。……やたら元気だなこいつ。


「わたくしはルーナです。今ミンガラム上空に来ております。そちらの状況を教えていただけますか?」


『えっ!? ルーナ様っスか! 少々お待ち下さい。……見えたっス。ルーナ様から見て右下の方、一風変わった白い建物があるのが見えるっスか?』


 どれどれ……確かにリンの示した方角に、他の家と違う建物が見える。他の建物は屋根があるが周りと違いその建物だけ屋根がなく屋上になっている。で、屋上でリンが手を振っている。


「リン、このまま降りても問題ないですか?」


『大丈夫っス。おそらく誰も気にとめないっス。』


 大丈夫ってことなので、早速俺達はリンの所に降りることにした。念のため一旦トオルに透明にしてもらったので、降りていくところは目撃されてないはずだ。……転移だけじゃなく、トオルってマジで便利だな。降りて透明化を解除すると、リンが近づいてきた。


「シオン様、ルーナ様、お疲れ様っス。あとトオル様も。……でそちらがエキドナ様でしょうか。初めましてエキドナ様。私はシクトリーナ城でメイド遊撃隊に配属されております、リンと申します。現在潜伏中となりますので、このようなお見苦しい格好をしており大変申し訳なく存じます」


 見苦しい恰好と言うが、普通に冒険者風の格好だ。


「リンとやら……お主、何故妾にだけ話し方を変えるのじゃ。妾にも皆と同じように話すがよい」


 話し方って、あの語尾にスのことかな? 別にスが通常じゃなくて、エキドナへの話し方が通常なんだから、俺達への話し方を変えるべきなんじゃ……。


「えっですが……」


 リンがチラリとルーナの方を見る。


「構いません。エキドナ様の仰るようになさい。ただし、メイド服の時は、例えエキドナ様がどう仰られてもメイドらしい振る舞いを行いなさい」


 今は冒険者風になっているから、問題がないようだ。

 ちなみにルーナはここでもメイド服だ。だが、ルーナに言わせると、このメイド服は何時ものメイド服じゃなくて、戦闘用らしい。違いは分からないが、素材でも違うのだろうか?


「分かったっス。エキドナ様、今は潜入中のため、このような話し方になってるっス。よろしくお願いするっス」


「……何故冒険者に変装するのに、そんな話し方になるのじゃ?」


「言ってやるな。悲しい事情があるんだ」


 勘違いという悲しい事情がな……。


「む、シオンがそう言うなら、深くは追求すまい。で、これはどうなっておるのじゃ?」


「そうですリン。説明しなさい。前回の報告で、町は寂れていると聞きましたが……この状態は寂れているどころか、すでに廃墟ではありませんか」


 ルーナの言う通り、これは寂れているを通り越して既にゴーストタウンと化している。


「それが私にもよく分からないんス」


 そう前置きしてリンは説明し出す。


 十日前に定時連絡の時はまだ町中に人はいたそうだ。異変が起きたのは昨日の夜。半日前のことだった。突然、町の人たちがアンデッド化し始めた。


 当然町中はパニックに襲われた。戦える冒険者は、アンデッド化した市民を倒しながら生き残っている人を避難させていた。

 だがそれも長く続かなかった。城の方から、普通のスケルトンと赤い鎧を着けたスケルトン軍団が現れたのだ。

 普通のスケンルンだけなら、まだどうにかなったかもしれない。ただし現れたのは冒険者の装備よりもいい装備をつけたスケルトン。それも百や二百じゃない。もっと大量にだ。


 そうなったらもう冒険者でもどうにも出来ない。元々前回のシクトリーナ襲撃依頼の所為で、高ランク冒険者は殆どいないのだ。冒険者ランクの低い者から殺されていった。

 もちろん町の外へ逃げ出す冒険者や住人もいた。だが城壁の入口は堅く閉ざされていた。もしかしたら数人は逃げることもできたかもしれない。だがそれは誰にも分からなかった。


 人々はやられながらも、数人の冒険者と一緒にこの建物に逃げおおせることが出来た。


「そして夜明けっス。スケルトン達が城へと戻っていったっス。今は避難した住民と、この建物で隠れていたっス。けど、食べ物も殆どなくて、皆ピリピリしているっス」


「この建物は?」


「病院っス。病院や教会などはアンデッドには入れないっス」


 ゲームの影響か、病院とかゾンビの巣窟みたいなイメージがあったけど、ここにはいないらしい。

 この世界では、魔法で治療したりするから、聖なる魔力でも溜まっているのだろうか?


「状況に変化があったのに、連絡しなかったのですか?」


 昨日の時点で、通信隊から、今日俺達が来ることは伝わっていたはずだ。異変があればすぐに連絡するべきだろう。


「連絡したかったんスけど、何故か通じなくて……だからさっき連絡が通じてビックリしたんス」


 だからやたら元気な声だったのか。


「おそらく結界だろうね。僕の魔法結晶がこの王都を覆っている結界で、遮断されてしまってるんだよ」


 電波妨害みたいな感じか。


「ここは既に結界内だから、結界内同士なら通じるようだね」


 そういってトオルはケータイを出す。


「……駄目だね。僕でもシクトリーナには通じないや」


 どうやら本当にシクトリーナとは繋がらないようだ。まぁ繋がらなくても問題ないと思うけど、いざという時に通じないのは怖いな。


「あと……転移の魔法も使えないかもしれない。ケータイと同じ原理だからね」


 そっか。全員に渡されている魔法結晶も、ここでは使えない可能性があるのか。そっちの方がヤバいな。


「多分結界内なら転移できる筈だから、とりあえず何かあった時は、ここに転移するように、皆も登録変更しておいてよ」


 トオルの転移魔法は十ヶ所登録できるが、その魔法を封じた魔法結晶は、一ヶ所しか登録できない。ただし上書きは可能。だからシクトリーナから、この病院の屋上に転移場所を変更できることは可能だ。


 ちなみにトオルの転移魔法の登録場所は、現在シクトリーナ、エキドナの城、ゼロの棲み処、ドワーフ王国。この四つか固定で登録されていて、残りをシクトリーナ領土の入口や赤の国の村を何か所か登録している。ここを登録すると、どこか別の場所を消すことになる。


「ケータイもそうだけど、転移の登録数も、もっと増やさないといけないね」


「出来るのか? そんなこと」


 トオルのキャパの関係上、ケータイも転移も十ヶ所が限界だったんじゃ……。


「前は無理だったけど、多分今ならいけると思うよ。だけど、魔法結晶が……」


「ああ…そうだったな」


 転移にしろケータイにしろ魔法結晶が必要だ。だが、トオルの属性は透明。灰色の魔法結晶でないと、魔法を封じ込めることが出来ない。

 基本属性の魔法結晶と違い、灰色の魔法結晶は希少価値が高い。アンデッドを倒すことでしか手に入らないから、中々市場に出回らないのだ。今はセラやトオルがドワーフの町などに買い出しに行ったときに掘り出し物で手に入れるしか方法がない。


 アイリスから貰った魔法結晶はすでになくなった。ってか、ケータイやら転移やらで、トオル一人で既に三十個以上使用している。


 それに、いくらトオルに優先権があっても、他に俺の紫やヒカリのオレンジ、姉さんのピンク、ルーナの銀と基本属性以外の色が必要なことが多い。灰色の魔法結晶が全然足らなかった。


「なら……ここで大量の灰色の魔石を手に入れんといかんのう」


 エキドナがニヤリと笑う。エキドナも今後トオルの魔法の恩恵に預かるのだ。今以上にたくさん必要になるだろう。


「そうだな。アンデッドは倒すだけじゃなく、魔石も手に入れるようにしないといけないな」


 今回のヘンリー戦では大量のアンデッドと戦うのだ。この機会を逃すわけにはいかない。


「それでリン。連絡が出来ないのは分かりましたけど、セツナがどうなっているのか知っていますか?」


 セツナには城の方を見てもらっている。そう考えると、彼女の方がリンよりも危険だろう。


「セツナとは昨夜会ったっス。今は出ていますが、おそらく夜には戻るっス」


「この状態でどこに出かけたというのですか?」


「城の中を調べるそうっス。今日シオン様達が来ることが分かってましたから。少しでもシオン様達の負担を軽くするってはりきってたっス」


 どうやら俺達と連絡が取れなくなったから、どうするか二人で話し合ったらしい。

 で、昨日の連絡が途切れる前に今日俺達が来ることが分かっていた。城の状況に変化があったら、調べる必要があるとセツナが判断したらしい。


「なんて馬鹿なことを……大人しくこちらに任せればいいのに。捕まったらどうする気なのですか!!」


 いつになくルーナが怒っている。それはそうだろう。通常の偵察と訳が違う。


「急いで城の方に向かった方がいいな」


「そうじゃな。じゃがどうやって城へ行くのじゃ? 全員で仲良く正面突破かの?」


 うーん。正直それでいい気がずる。俺達が目立てばセツナに危険が及ぶ可能性が減るだろう。

 しかし、全員でそれをする必要もない。それに何があるか分からないから、この辺りも少し調べておきたい。


「正面突破はアリだと思うけど、全員でする必要はないと思う。ここは、この付近を確認しつつ、空から正面突破と、裏からこそっと侵入して、セツナを救出、あわよくばそのままヘンリーを倒す二手に分かれた方が良いと思う」


 四人いるけど、流石にそれぞれ個別に分かれるのは危険だ。二手が丁度いいだろう。


「うむ、いくら妾達が一騎当千でも、一人じゃと何があるか分からぬ」


「そこでトオルとエキドナの二人は、城の内部へ侵入をお願いしたい。そこでセツナの回収と、可能ならヘンリーの討伐を頼む。俺とルーナが外で正面突破。囮になろう」


「お主……それでよいのか?」


「ああ、トオルの魔法は潜入に向いてる。俺やルーナは広い場所の方が戦いやすい。適材適所ってやつだ。それに俺達が外で戦っていればヘンリーが外へ出てくる可能性もある。何せこっちにはヘンリーの宿敵のルーナがいるんだから。ルーナもそれでいいか?」


「シオン様が決められたこと。もちろん何の問題もございません」


「本当に良いのか? ヘンリーが出てくる可能性も確かにあるやもしれぬが、潜入の方が確実にヘンリーと相対する可能性があるぞ?」


「シオン様もたった今仰ったではございませんか。ヘンリー卿なら、わたくしが顔を見せると必ず出てきます。何せここは城から遠い地。力が半減どころか、普段の三割…いや、二割程度でしょうか。になってます。この機会を逃すはずはございません」


 いや、それは下がりすぎで逆に心配になるぞ。えっ? 本当に大丈夫なの?


「ふふ、不安そうですね。でも大丈夫ですよ。わたくしだってシオン様のドリンクを飲んでいるのですから。多少は力が下がってますが、それでも以前とは比べ物になりません」


 それは知ってるけど……。


「でも力が下がるって魔力以外に身体能力も下がるんだろう」


「それだってドリンクで強くなっております。正直ここでシオン様と模擬戦をしても、わたくしが勝つ自信がありますよ」


 流石にそれは言い過ぎだろう。最近は城に居ても、かなりいいところまで追い詰めてるのだ。……追い詰めてるよね?


「……分かった。だが、決して無理はするなよ」


「ふふっ、もし危ないときは、きっとヒーローが助けてくれますよ。……ねぇシオン様?」


 どうやらヒーローとは俺のことらしい。……ヒーローなら期待に応えなくちゃいけないな。


「ああ、もちろんだ。ルーナのことは絶対に守ってやる」


 ……ヒーローっぽく言ってみたけど滅茶苦茶恥ずかしいな。ルーナの顔をまともに見れないぞ。


「……っとに、不意打ちすぎますよ」


 ボソッとルーナが呟いたがあまり聞き取れなかった。何が不意打ちだったんだろう?


「おーい、そこで二人の空気を作っとらんで帰ってくるのじゃ」


 エキドナの言葉にハッと我に帰る。


「二人の空気って……エキドナとトオルじゃないんだから、そんなわけないぞ」


 正直一緒にされたら困る。


「おい、こやつ無自覚じゃぞ」

「おかしいな? シオンくんは鈍感系キャラじゃないはずだけど」

「シオン様ーそれはないっスよ」


 散々な言われようである。まぁいい。これ以上時間は無駄に出来ない。ツッコミは止めとこう。


「よし、じゃあさっきの流れでいいな!」


「シオン様。私はどうすればいいっスか?」


「リンは……正直ここで待機していて欲しいが、人では足りないからな。俺達はアンデッドを倒しながら城へ向かうから、無理のない範囲で、散らばってる魔石を回収してくれ。そうだ! 目立たないように、トオルの魔法結晶とキューブを貸してやる。キューブを使えば、透明化の魔法と、この場所までの転移が使えるはずだ。やばくなったりしたら遠慮なく使ってくれ。あとセツナから連絡があれば、早く脱出しろと伝えてくれ」


「分かったっス。大量の魔石を手に入れるッス」


 これで灰色の魔石が大量に手にはいればいいが……。


「よし! 行動を開始しよう!」

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