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ロストカラーズ  作者: あすか
プロローグ
8/468

第8話 デートをしよう

 緋花梨の家に行く途中で、透から先に俺の家に行ってくれと言われた為、今は俺の家へ移動中だ。

 因みに移動は透の車だ。キャンピングカーは小回りが出来ない。動き回るために、今日はタクシーで移動していた。お金を気にしないでいいからタクシーを使うのに特に気にしない。


 透は朝起きて俺の家から一旦自分の家に帰って、その後は自分の車で行動していたらしい。

 透の車はワンボックスカーで後ろの方には透が午前中に買ってきたであろう物が置いてある。

 運転は透、俺は助手席に座り、緋花梨は後部座席で、まだぶつぶつと呟いている。


「なぁ、なんで俺の家に行くんだ? 荷物を置くだけなら先に緋花梨の家でもいいと思うけど」


「荷物を置きたいのもあるけどね。ちょっとソータくんにも会いたいんだ」


「ソータに? 何かあったのか?」


「そうじゃないよ。紫遠くん、例えば君が親だと仮定して、いきなり娘の友達が異世界に行くと言ったら君は信じるかい?」


 自分の子供が突然友達と異世界に行くと言ったら……


「いや、信じる訳ないだろう。たちの悪い冗談だと思う」


「だろう。だからソータくんに、例えば異世界の証拠になるような物、魔法や魔道具とか証拠になりそうな物を借りようかと」


 地球にない物を見せれば説得力も上がる訳か。


「成る程、確かにそれなら信じる気にはなるかな」


「あと、緋花梨くんの家に行くのは僕だけでいいから。紫遠くんはまだ忙しいでしょ?」


「いいのか?」


「うん、だって二人で行っても時間の無駄だよ。大丈夫、ちゃんと任せてよ。僕だって緋花梨くんが向こうに行くのは反対だからちゃんとやるよ」


 一瞬もしかしたら透は緋花梨の肩を持つんじゃないかと思ったが……どうやら大丈夫そうだ。


「ならお願いしてもいい?」


「もちろんだよ」と透は頷いた。



 ――――


 一旦、俺の家に行き、透はソータの元へ、緋花梨はアイリスと話している。


「ねぇ菫ちゃんは私のこと何か言ってなかったの?」


「母からヒカリさんのことは色々と、うる……元気で明るい子だって聞いています」


「えー! 菫ちゃんそんなこと言ってたの? ねぇ菫ちゃん他にはどんなこと言ってた-?」


 緋花梨は気がつかなかったが、今アイリスうるさいって言いかけてなかったか?

 俺は二人の話に混ざりたい衝動を抑えながらも透の車から荷物を下ろしていく。


 なんと、透は俺がさっき考えていた農業チートをする気だったようだ。農業に関する色々な準備がされていた。

 様々な野菜や果物の種や肥料、鉢植えやプランター、スコップに(くわ)、バケツにシャベルなど、一通り準備しているようだ。

 それに……これは小型のビニールハウスか? すごいな、こんなのまで用意してるのか。ってかこういうのが買えること自体知らなかったぞ。


 あとは……種もみ? しかもかなりの量だ。あいつ、向こうで田園でも作る気か? でもお米はいいな。是非作って食べたい。

 しかし、透は本当に自給自足できる勢いで準備しているな。


 一通り卸し終えると、透が戻ってきた。


「紫遠くんお待たせ」


「ソータから何か借りれた?」


「これ借りてきた」


 そういって、透は赤と青の石を取り出す。


「これは?」


「魔力結晶って言うんだって。中に簡単な魔法が閉じ込めてあるらしいよ」


「まぁみててよ」と言って、透は赤の魔力結晶を右手に持って力を込める。すると透の手からライターの火みたいなのが突然現れた。


「強く念じればもっと大きな火もだせるみたい。魔法を覚えるときのイメージに使う、補助道具らしいよ」


「そっちの青いのは? 赤いのが炎ならそっちは水でも出るのか?」


「その通りだよ。やってみる?」


 俺は透から青の魔力結晶を受け取った。


「どうやればいい?」


「単純に水よ出ろ!って念じれば大丈夫だよ」


 俺は試しに右手で魔力結晶を握って、水出ろと念じてみた。

 すると握っていた右手から水が溢れてきた。


「わっ!これ、どうすればいいの」


 右手から溢れ出す水に俺は慌てる。


「止まれって念じれば止まるよ」


 俺は慌てて止まれって念じた。

 程なくして、水が手から漏れなくなった。


「ふぅ。止まった。これ凄いな」


「ね、すごいよね。最初は皆これを使って魔法の練習するみたい」


「ふ~ん、これって念じてればずっと出続けるのかな?」


 もしそうならカラーズで水には困らないだろう。


「いや、使い続けるには魔力結晶に魔力を補充しないといけないみたい。まぁ充電みたいなものだね」


 この結晶もどうやら充電式のようだ。やっぱりそう都合よくはないか。


「でも、確かにこれなら地球にはないし、魔道具って信じそうだな」


「だよね。じゃあこれを使って説得に行ってくるよ」


「ああ、任せた。おーい、緋花梨!そろそろ行くってよ!」


 俺は奥で話している緋花梨に向かって呼びかける。


「は~い!」


「アイリスちゃん、またね!」


 立ち上がってバイバイとアイリスに手を振った後にこっちにくる。


「はい、またお話聞かせてくださいね」


 アイリスも緋花梨に手を振っている。


「随分と仲良くなったみたいだな」


「うん、だってアイリスちゃんって、すごく可愛いし。それに仕草とか佇まいとか菫ちゃんそっくりなんだよ!」


「それは俺も思った。顔立ちとかはあまり似てるとは思わなかったけど、雰囲気というか何というか」


「だよねー。今度また菫ちゃんの話をいっぱいするんだ!」


「そっか。それは緋花梨はこっちに残るって言う宣言でいい?」


「むー! ちーがーいーまーすー! 私も行きますー」


 緋花梨はふくれっ面になるが、実際に行けるかどうかはまだ分からないぞ。


「ま、行けるかどうかはこれから次第だけどね。じゃあ行こうか、車に乗って」


 透が運転席のドアを開ける。


 俺は留守番だから今度は緋花梨が助手席に乗る。


「見てなさい! きっと許しをもらって帰ってくるんだから!」


 緋花梨は捨て台詞を吐いて車に乗り込む。


「夕食までには戻るから。あ、時間があったら紫遠くんはこれを仕入れておいて」


 そう言って透は紙切れを渡してくる。

 そこには、保存の利きそうな大量の食料品と調味料が書いてあった。


「了解。夕食の材料と一緒に仕入れておくよ」


 貰った紙をピラピラと揺らし、透にそう返事し、透達を見送った。


 さてと、じゃあ俺も買い物に出かけるかな。


「ソータ、俺は今から夕食の買い物に出かけるけど、何が食いたい?」


 すぐ近くにいたソータに話しかける。


「味付けが濃いものがいいな。向こうじゃ基本肉を塩降って焼くだけだったから。あ、中華とかいいかも」


 ソータは少し考えていたが中華に決めたようだ。


「中華だな。了解。期待しとけ」


 中華なら麻婆豆腐とかエビチリ辺りでいいか。


 俺はキャンピングカーに向かう。今回は大量の食材もあるからタクシーじゃ厳しいだろう。


「すいません、シオンさん。私も連れて行って頂けませんか?」


 車に乗り込もうとする俺を後ろからアイリスが呼び止める。


「えっ、でも…」


 まだこっちに来て俺の家しか知らないアイリスを連れて行く?大丈夫だろうか?


 今のアイリスの服装は、パンツルックに白のブラウス。姉が昔着ていた物を借りている。

 服装は問題ないが、ものすごい美人の上に、長い金髪の髪、それに耳…絶対に目立つ。


「そのエルフの耳はどうする? 日本ではエルフはいないので目立つよ?」


 俺が指摘するとアイリスは後ろ手に隠していたレディース用のニット帽を被る。


「これでどうですか?」


 両手を頭に乗せて上目遣いでこちらに尋ねてくる。


 ヤバい。ものすごくカワイイ。


「あ、ああ。いいんじゃないか。似合ってるよ。耳も見えてない」


 俺は動揺を隠しながらアイリスに返事した。


「本当ですか! 嬉しいです」


 ニコッとアイリスの顔が華やいだ。うっ! 笑顔が眩しすぎて直視できない。

 俺は顔を逸らし、バレないようにした。


「それで、ソータは何て言ってる?」


「別に行ってきても良いって言われました」


 ソータの方を見ると、おう! って感じで右手を出していた。


「でも、じゃあクミンも行きたがるんじゃない?」


「クミンさんは今『いんたーねっと』で調べ物してます。終わるまでは降りてきませんよ」


 そういえば帰ってきてから一回も見てない。


 うーん、確かにいつまでも出歩かないわけにもいかないし、この格好なら問題ない。全員で行くより1人ずつの方がバレにくいし安心か。


「よし、じゃあ乗ってくれ」


 そう言って助手席を案内し、シートベルトをかけさせる。


「ちょっと窮屈ですね」


「事故に遭ったときに無事なようになってるんだ。窮屈でも我慢してくれ」


 そう言いながら俺は運転席に乗り、車を発進させる。



 出発してからのアイリスは大変だった。


 何せ何もかも見るのが初めてのものばかりだ。道路に出てからの街並みや人の多さに驚き、信号で一斉に止まるのに驚き、珍しいもの、知らないものは何でも聞いてきた。


 スーパーに着くと今度ははぐれないようにと、しっかり俺の服を掴んでピッタリと横について歩く。それでも物珍しく辺りをキョロキョロと目を動かしている。正直滅茶苦茶可愛い。


 アイリスはかなり美人だ。そのため周囲の目を惹きつける。女性からは羨望の目、男達からは俺への嫉みが感じられる。

 羨ましいだろう? と俺は若干の優越感に浸りながら、そして彼女の仕草にドキドキしながら、俺は買い物を続けていく。


 外と同じように、店内でもアイリスは知らない物を片っ端から質問する。


「シオンさん、この果物は何ですか?」「あっあっちにお魚さんがいますよ!」「えっお魚を生で食べるんですか? 危なくないですか!?」「ほら見てください! 色んなパンが置いてありますよ! それにいい匂い」


 挙げていたら切りがないほどの質問に俺は一つずつ答えながら、どんどんカゴに調味料や食材を入れていく。

 荷物の量的に一回では終わらないので購入しては車に積んでを繰り返している。

 アイリスもそれにずっと付いてくる。


「少しなら離れて行動してもいいよ」


 と言ってみたが、さすがに一人で行動するのは怖いのか、首を横に振る。

 そんな仕草も可愛いなと思いつつ買い物をした。


 最後に、フードコートに立ち寄り、ソフトクリームを買う。


「これ! 冷たくて凄く美味しいです!!」


 どうやら気に入ってくれたようだ。アイリスは大喜びで食べていた。



 ――――


「今日はありがとうございました」


 帰りの車の中でアイリスは俺に礼を言う。


「どういたしまして。楽しんで頂けたならよかった」


 運転中の為、アイリスの顔は見ずに答えた。


「で、どうだった? 俺のことを何か探ってたんだろう?」


 俺はアイリスにそう質問した。

 多分アイリスは何か目的があって俺に付いてきたはずだ。変わらず正面を見ているのでどんな表情をしているか分からないが、横でアイリスの驚いているのは伝わった。


「どうして…?」


「ん? 理由なんてないさ。何となくだよ」


 そう、本当に何となくだ。強いてあげるならば、今のアイリスは昨日話したアイリスと雰囲気が別人のようだった。


 今の姿はまるで演技をしているような…そんな感じだ。


 あとはソータだ。俺がソータの立場ならこの状況でアイリスに外出はさせない。仮に外へ出る場合は必ず付いてくるはずだ。

 俺を信用しているとかの問題じゃない。何かあったときに対処が出来ないからだ。


 赤信号でも平気で渡ろうとする今の状況では外に出せるわけがない。

 それにエルフとバレた場合でもソータがその場にいたら対処出来るが、魔法も使えない俺だけだと何も出来ない。

 それなのにソータ本人がいなくて俺に託す。普通ではありえない。


「大したことではありませんよ。強いてあげるなら、シオンさんがどういった人か確認したかった。からです」


 アイリスはそう答える。


「俺が? どういうことだ?」


 明日でいなくなる俺を観察してどうするというのだ?


「母が愛した人がどういう人か? ……気になるじゃないですか。母は私が小さい頃からいつも日本にいたシオンさんの話ばかりでした。だから今日は母がやってみたかったって言ってたことをしてみたんです」


「やってみたかったこと?」


 そんな話、俺は聞いたことがない。


「はい。二人で買い物に出かけたときに横で手を繋ぎながら仲良く歩く。だそうです」


「へ? そんなこと?」


 予想外の答えに俺は拍子抜けした。


「ええ、そんなことです。当時、母はそれが出来なかったと悔やんでましたから」


「……二人で買い物とかよく行ったけど?」


「でも、母は素直じゃありませんから。手を繋いでましたか?」


 俺は当時の様子を思い浮かべた。


「あ~確かに。そう言えば以前手を繋ごうって言ったことがあるけど。『はぁ?何で』って冷たい目で見られた。で、さっさと先に行ってたな。取り付く島もなかった」


 あいつはよくそれで自分のことをクーデレと思えたな? やっぱりデレの要素がねーじゃねーか。


「ふふ、多分それ夜一人で後悔して、悶々としてましたよきっと」


 アイリスはクスクスと笑っている。


「……そうだろうな。そんなやつだった。それで今日はこんな行動を?」


 悶々とってのはどうかと思うが、夜に一人で後悔するってのはなんとなく想像はできる。


「私は母の代わりで、手は貸せませんけど、せめて横を歩くくらいは出来ますからね」


「胸も手も貸せないんだな」


 俺は笑いながら言った。


「私は安くありませんから」


 誇らしげにアイリスは胸を張る。昨日も言ってたが、アイリスの口癖なのだろうか?


「で、感想は?」


 俺はアイリスに感想を聞いた。


「そうですね……及第点です」


 アイリスは少し悩んでから答えた。思った以上に微妙な点数だ。


「それ採点辛くないか?」


「最後のソフトクリームがなければ落第ですよ」


 クスクスと笑いながら言う。


「厳しくないかそれ!」


 ソフトクリームに救われたのか俺は……。


「それから…一つご相談が」


 この話は終わりだと言わんばかりか、アイリスは唐突に話題を変えた。


「何?」


「ヒカリさんのことです。実は母からヒカリさんへも手紙を預かってるんですが、渡していいものか……」


「ん? どうしてだ? 渡した方が緋花梨も喜ぶんじゃ?」


 しかしアイリスの顔は複雑そうだった。


「こちらの世界が母がいなくなってから年月が経ってないからです。本当はシオンさんへも渡すの悩んでたんですよ。母は五十年、もしかしたらもう死んでるかもしれないと思ってそれでも手紙を託しました。それが、こっちでは一年しかたってません。母の想像ではシオンはヒカリさんと結婚してたんですよ」


 俺が緋花梨と結婚? 一体何の冗談だ。


「いやいや、何年、いや何十年経ってもあいつとは結婚しないから」


「でも母はそう思ってました。いや、どちらかと言うとそうあって欲しいと。多分、自分がシオンさんと一緒になれないなら、せめて親友であるヒカリさんと……と言う気持ちが強いんでしょう。そしておそらくそのことを手紙に書いているかと」


 自分では幸せに出来ないから親友と……か。確かに考えそうではある。だが、緋花梨の気持ちは昨日聞いたし、俺も答えたつもりだ。だからどうにかなるとは思わないが、手紙を見たらどう思うか…。


「おそらく何があっても絶対に付いて行くって言うかと。もしくはシオンさんを絶対に向こうに行かせないようにするか」


「さすがにそれはないと信じたいが…」


 ってか、行かせないようにするってどうやるんだ? 監禁でもされるのか俺!?


「分かりませんよ? ヒカリさんはヤンデレの素質がありそうです」


 自信を持ってアイリスは言った。


「怖いこと言うなよ! ってか何でヤンデレって言葉を知ってるんだ?」


 昨日はクーデレは知らなかったはずだ。


「午前中に、いんたーねっとでクーデレの意味と一緒に調べました。母はクーデレじゃないですね。クーデレになりたかっただけの妄想少女です」


「なにげに酷いな!? まぁさっきの話を聞いたらデレをしたかったってのは分かるが……」


 デレを隠したままは駄目だろう。俺は当時を思いながら苦笑した。


「まぁいいや、じゃあ手紙は明日以降に渡してやってくれ」


 悩んだ結果、そう答えた。明日俺がいなくなってからなら大丈夫だろう。緋花梨には申し訳ないことになるが、どっちみち気持ちには答えられないし。


「いいのですか?」


「ああ、あいつも菫の親友だし、手紙も渡せる状態なら渡さないとな」


「わかりました。ではシオンさん達が行った後に手紙を渡すことにします」


「頼む。それから。これからもあいつと仲良くしてやってくれないか?」


 残される緋花梨のことを頼むのは心苦しいが、おそらく一番頼れる人物だろう。


「当然です。ヒカリさんはこちらで出来た初めての友達です!」


 アイリスは力強く答えた。


「そっか。よろしくな」


「はい!」


 その後は、特にお互い会話もなく家まで無言で家へ帰った。

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