第49話 先代魔王の話を聞こう
「あい分かった! 妾もここに住む!」
食事が終わって一息つくと、エキドナはそう叫んだ。
「駄目に決まってるだろーが!!」
何が分かっただ。分かったじゃねーよ!
「ん? 何でじゃ?」
そんな真顔で何で? って言われても困る。ってか、そんな意味が分からないって顔をするな! いやいや意味が分からないのはこっちだからな。
「エキドナ様。お気持ちは非常によく分かりますが、エキドナ様は魔王なのですから、お帰りいただかないと困ります」
ラミリアが窘めてくれるが……気持ちは分かっちゃうんだ。
どうやら夕食で無事? にエキドナ達の胃袋を掴むことには成功したようだ。
夕食は四階のパーティー会場で行われた。俺がお客を迎えるのは初めてだから豪華にした。
今回は舞踏会のようなダンスはしない。その為、フロアの中央にテーブルと椅子を置いて壁際に料理テーブルを準備する。料理テーブルの奥には調理スペースを作って、目の前で料理を披露。出来立てを食べてもらう。
室内にはBGMとして自然・波の音を中心としたヒーリング音楽を、途中からはクラシックを流した。通常の舞踏会は直接楽団が流すのだろうが、うちにはそんな楽団はいないので、ラジカセに頑張ってもらった。
エキドナは最初こそ聞き入ってくれたが、料理を食べ始めると、殆ど気にしなくなった。食べながら『おっこの曲はなかなか……』と曲が変わるときに気にする程度だった。
音楽に関してはハーマインの食いつきが半端なかった。料理そっちのけでスピーカーの前でずっと聞き入っていた。どうやら音楽が好きみたいだ。
ラミリアはバイキング形式に興味を持ったようだ。初めこそ『客が自ら料理を取りに行くとは……』と文句を言っていたが、いざ食べ始めると『自分が食べたい料理を選んで食べれるとは画期的ですね』と意見を翻していた。ただずっと卵料理ばっかり食べるのはどうかと思うが。
エキドナは端から端まで全ての料理を食らいつくしていた。どれも『美味いぞー!』と叫びながら最終的にはテーブルに戻らずにその場で立食していた。一体あの体のどこに入るんだ? そう疑問に思うくらい食べていた。さっきもケーキを三個も食べていたし、本当に大丈夫なのか?
「のうラミリアよ。どうせ城に戻っても何もないじゃろ? だったら妾はここでもっと色々と食したい。な、いいじゃろ?」
ラミリアに話しながら、何故か俺の方へ体を擦り寄せ、腕を絡めてくる。
なんというか……柔らかな感触と、大人の色気でこっちはドキドキしっぱなしだ。このままでは、エキドナの魅力に負けて、住むことを許してしまいそうだ。
《シオンちゃん。ダメなの!!》
突然頭に響き渡ったスーラの念話にハッと我に返る。そしてエキドナから腕をほどき、ゴホンと咳払い。……うちの女性陣の目が怖いことになってるのが分かる。
「ん、ん、あ、えーと、そうだ!? 魔王って普段どんなことをしてるんだ?」
俺は必死に話題を逸らす。城に戻っても何もないって言ってたような気がするけど、魔王って普段何してるんだろ?
「殆ど何もせんぞ。何か問題があればラミリアとハーマインが処理してくれるからの。妾がやることと言えば、新しく始めることに許可与えるだけじゃ。それも二人がおれば何の問題もないじゃろう」
……俺と全く同じ気がする。普段はルーナやトオル、姉さんがしっかりやってくれてるから俺がすることと言ったら何か始める際の許可か、子供と遊ぶことだけ。なんか共感を覚えてしまうな。
「だからラミリアとハーマインが帰れば問題ないのじゃ!」
「駄目です。一人だけ美味しいものを……じゃなくて、仮に何もしなくても、エキドナ様がいらっしゃらないと指揮に関わります」
若干本音が見えかけたが、ラミリアの言葉も真実だろう。な、そうであってくれ! じゃないと、それを否定されたら、俺の存在意義も否定されてしまう気がする。
「仕方ないのう。じゃあ毎日来るから転移の道具を貸してくれたもう」
たもうって……。毎日来られても迷惑なんだが。
「いや、転移に関しては、赤の国とヘンリー領を治めるならって話だろ。やってくれるのか?」
俺がそう言うと、エキドナは『うっ』と唸って固まった。どうやらすっかり忘れていたようだ。
ラミリアとハーマインが同時にどういうことです? とエキドナに問いかける。そういえばまだ話し合いの場を設けてなかったっけ。
「あー……なに、こやつらがな。ヘンリーが人間の国をすでに滅ぼしておると言うとってな。で、ヘンリーを倒したら領地をやるから治めろと……」
エキドナ……説明が下手くそすぎじゃね? 多分これじゃ二人に半分も伝わってないぞ。
《シオンちゃんも似たような感じなの》
スーラが冷静にツッコミを入れるが無視無視。俺はあそこまで下手ではない……はず。
仕方がないから、ルーナが二人に分かりやすく説明することになった。
――――
「転移による移動が可能であれば、妾は別に構わぬと思っとるのじゃが……どうじゃ?」
説明が終わると、エキドナが二人に意見を求める。
……もしかして、このまま会議に入るのか? 多分内輪の話になるよな。だったら俺達席を外した方がよくないか?
俺はどうしようか? って顔をしてルーナを見た。ルーナが分かったように頷く。おお! どうやらアイコンタクトが通じたようだ。
「エキドナ様。この話をお受けになりますと、今なら追加でさらに和菓子の食べ放題が……」
「ちっがーう!」
思わず立ち上がってしまった。なんでここで残念さを出すんだよ! ってか、和菓子の食べ放題って何のサービスだよ!
……ふと見渡すと、全員の目が俺に集中している。すごく恥ずかしい。
「シオン様。奇声を上げるのはお止め下さい」
おめーのせいだよ! って叫びたいところを必死に押さえる。これ以上奇異な目で見られたくない。
「そうじゃなくて……ほら、エキドナ達も俺達に聞かれたくない話もあるよな? もう食べ終わったし、話し合いの邪魔になるだろうから、俺達は出て行こうか?」
「いや、お主らに聞かれて困る話は一切ない。それよりもじゃ! その和菓子というのは……」
ええっ!? そっちに食いついちゃうの!?
「和菓子はシオン様がこの世界に与えたもうた、至高のお菓子でございます。餡子を使った甘いお菓子もあれば煎餅のようにしょっぱいものあり、味の種類はそれはもう千差万別。見た目も金平糖のように夜空に輝く星のようなものもあれば、かき氷のように一瞬の煌めきを放つものあり、食べる者の心までも奪うことでしょう。そして極めつけが和菓子にあう緑茶でございます。深い渋みがある煎茶は羊羹のような思いっきり甘いお菓子に。餡蜜のようなさっぱりとした甘さの和菓子には玉露を、おかきやお煎餅のようにしょっぱいお菓子には玄米茶を。お茶と和菓子という究極の組み合わせには、どんな料理も霞んでしまうことでしょう」
ルーナが熱く語る。……俺、こんなルーナ初めて見るよ。確かに和菓子が好きなのは知ってたけど、そこまでとは……流石に残念を通り越してドン引きだ。
だが、ドン引きの俺とは違い、そうは思わなかった者もいたようだ。
「してルーナよ! 和菓子というのはいつここに出てくるのじゃ!?」
もちろんエキドナだ。そういえば今日の料理の中に和菓子はなかったな。今日のデザートは杏仁豆腐とシャーベットしかなかったはずだ。
「本日はございませんよ。さすがに至高の料理と言いましても、本日のメニューには合いません。ですがもし和菓子が食べたいなら……」
「あい分かった。人間の国の領土は妾が貰おうぞ」
ちょっと待って!? 本当にそんなんで決めていいの???
「ヘンリー領は如何されますか?」
これはラミリアだ。えっ? ラミリアも乗り気なの?
「あそこは……辛気臭いから正直欲しくはない。それにあそこを占領すると、うるさい隠居ジジイが出てきそうじゃ」
確かにアンデッドの国とか瘴気が混じって、辛気臭そうな気がする。……って!? 今物凄く気になること言わなかったか?
「なぁエキドナ、うるさい隠居ジジイって……」
「ん? もちろん先代の魔王に決まっておろう。あやつ、魔王業は面倒くさいと言って隠居した割には、よく城に顔を出して飯をたかっているようじゃ。もしあの城を手に入れたら、きっとうるさいに決まっておる」
エキドナは笑っているが、俺にとっては笑い事ではない。
俺達はヘンリーを倒そうとしている。ヘンリーだけなら苦労はしないだろうが、その先代とやらが出てきたら非常にやっかいだ。そいつはヘンリーみたいな、なんちゃって魔王じゃなく、エキドナのような本格派魔王だろう。
「ん? 何青くなっとるんじゃ? ……ははぁ。さてはお主ヘンリーを倒したらジジイに反撃されると思うておるな?」
エキドナが俺の内心を的確に読み取る。
「……ああ、流石に今の俺が倒せる相手じゃなさそうだからな」
目の前のエキドナも今の俺では勝てそうもない。同格の魔王なら勝てる相手ではない。
「安心せい。あのジジイはそんな復讐など考えるような小さな男ではない。じゃが……もし不安なら、ヘンリーを倒す前に、ジジイに話をつけても良いかもしれん。筋さえ通せば、ヘンリーを倒した後に文句は言わんじゃろう。それに次の魔王に狙われることもなかろうて」
ヘンリーとやりあう前に筋を通す。一歩間違えれば死地に行くだけの気もするが……。それから気になる言葉もあった。
「次の魔王って何のことだ?」
「はぁ? 魔王が倒されたら、次の魔王が必要じゃろ? 魔王がおらなんだら、誰がアンデッドを纏めるのじゃ? まぁ今回はジジイが魔王に戻るようにお願いすればよい」
そっか。本来、王が死んだら次の王――息子とかだろうが、王位を引き継ぐよな。この城はシエラの子がいなかったから、なし崩し的に俺がその役目になっちゃった。
そう考えると、アンデッドにもヘンリーに代わる新しい王が必要になるのか。今回はアンデッドを滅ぼす訳ではないから……そもそもアンデッドが亡びるかも不明だしな。
ってか、それも含めてエキドナにお願いしたかったよな。
でも、確かに先代に会って話をつけて、同盟でも結べば、同じ意味になるか。
「そうだな。そういうことならヘンリーを倒す前に、挨拶はしておきたいな。隠居した後の居場所は分かるのか?」
それが分からないと話にならない。
「分かるぞ。どうせ暇じゃから、案内しよう。今から行くか?」
「流石に今から行かねーよ! 飯食って満足しただろ。今日は寝ろよ!」
「何じゃシオンは妾と寝たいのか? 流石に妾も勘弁してほしいのじゃが……」
「ちげーよ! 誘ってねー!! ……ってか俺振られるのか」
勘弁してほしいは少しショックだぞ。
「ハハハ! ほんにシオンは愉快な男じゃ。妾相手にそこまで強気に話せる相手はおらなんだ。いや、今日は楽しかった」
そりゃあ誰も魔王相手にツッコむ勇気はないだろう。
その後、話も終わったので、エキドナ達に客室を案内した。エキドナは前も客室を使ったことがあるようで同じ部屋を用意した。
まぁこの後は部下達と会議をするようだから、寝るのはまだ先のようだ。今は会議室を使っている。
流石に疲れたので、今日はもう自室へと戻ることにした。が、少しだけルーナと話がしたかったので、ルーナには後で部屋に来るように伝えた。




