第46話 本音で話そう
「シオン。あなた何者なの?」
エキドナがそう言うと同時に、俺は強い衝撃を感じた。おそらく言葉に魔力を乗せたのだろう。
ものすごいプレッシャーが押し寄せてきた。俺はなんとか大丈夫だったが、普通の人なら失神、いや下手したら死ぬレベルだったと思う。
「その問いに答えるには前城主、シエラ様のことから説明しないといけませんね」
俺は平静を装いながら答えた。まぁ内心冷や汗まみれなのだが。
「へぇ。妾の魔力を受けながら普通に答えれるのね。それに後ろの二人も……確かに優秀なようね」
エキドナの感嘆の声と同時に、部屋中にあったプレッシャーが霧散した。どうやら試されたようだが、認められたのかな。
トオルと姉さんも無事のようだ。だけど、姉さんは少し膝がガクガクしてる。まだ魔力が俺達の中では一番低いから、ちょっと辛かったようだ。ルーナは……冷や汗一つ掻いてない。やっぱり平気そうだ。
――――
俺はエキドナに簡単に説明した。
前魔王は異邦人の冒険者によって倒された。その冒険者と前魔王、その場にあった兵士たちの死体もろとも魔力暴走により異世界に飛んでいった。
その後、数日して偶々この城に来た俺達がルーナの頼みでこの城に住むことになった。
そんな感じに説明した。俺達が異邦人とかツヴァイスやフィーアスのことは触れていない。
「どうやら嘘は言ってないようね。だけど真実も言ってない感じかしら」
思いっきり内心を言い当てられるが、ここまでは予想済みでもある。
「まぁ流石に全部の札は晒せないですから」
俺は笑顔で答える。
「なるほど……馬鹿って訳でもなさそうね。それじゃあ次にヘンリーのことについて教えていただける?」
ここでヘンリーのことを聞かれたのは予想外だった。さて、どうする? 正直に答えるか、はたまた誤魔化すか……ちょっと勝負をかけてみようか?
「教える前に聞きたいのですが、エキドナ様はヘンリー卿のことを、どうされるおつもりでしょうか?」
その言葉にピクリと反応するエキドナ。
「質問がおかしいと思うのだけれど? どう思う? や、どんな方? なら答えようもあるけれど、どうされると言われると、まるで妾が何かするような言い方ね?」
「間違っておりませんよ。ヘンリー卿について聞かれるということは、既に現状をある程度ご存じのはず。ですから、どうするおつもりかと思いまして。考えに見合う情報をお伝えしたいと思いますよ」
そう言ってニヤリと笑ってみせる。俺の考えではここで成功すればヘンリー攻略は随分と楽になると思うのだが……。
「そうよのぅ。ヘンリーは赤の国を狙っているのでしょう? このままなら勢力が拡大すると思いますの。もしかしたら少しは戦力を削ぐ必要があるかしら……と思ってるのですけど?」
結構深く話してくれた。戦力を削ぐつもり、とまで言ってくれるとは思わなかった。あっちと組んでこちらを潰すという選択は考えてないか?
「いっそのこと、ヘンリーを滅ぼしてみてはどうでしょう?」
「何? 滅ぼすじゃと!? 妾に同じ魔王を討てと申すのか!」
エキドナは怒った口調でこちらを睨み付ける。……まだ早かったか? いや大丈夫だ。
「戦力を削ぐと考えているということは、彼を敵視しておられるのですよね? こちらも彼には苦労しているのですよ。本来ですと、私共のみでヘンリーを滅ぼそうと思ってたのですが、こちらの戦力は少数ですので困っていたのですよ。エキドナ様が手伝ってくれると助かるのですが……」
別に手伝ってくれなくても、寝込みを襲われることがなければ十分なのだ。
「妾を利用しようというのか? 面白い。詳しく話してみよ。話によっては協力も吝かではない」
よし! なんとか成功しそうだ。
「ヘンリーは既に人間の国、赤の国を占領しています」
とりあえずエキドナが知らないカードを切る。情報としては最強のカードだが出し惜しみしている場合じゃない。
「妾の聞いた話だと、攻めている途中と聞いて追ったが……もう占領済みじゃと?」
「ええ、まだ表には出ておりませんが、王都の城にはすでに生き残っている人族はおりません。全て眷属化しているようです。今は王都内を眷属にしている頃かと」
王都全てがアンデッド化し、バレるのも時間の問題だろう。
「それが本当だとすると確かにことだのう。それで妾をどう扱おうと言うのじゃ?」
「実は……ヘンリーを倒すのはそんなに難しいことではないのです。彼は弱いですから。ですが、先ほども言いましたが、こちらは数が少なくて、攻めている間に別口がこの城を攻めてきたら面倒なのですよ。どうやら黄の国も戦争の準備をしているようですし、シエラ様の死亡も公になって来たようです。ですので、エキドナ様には、私共が攻めている間、別口から攻められないようにこの城に滞在していただきたいのです。もし敵がこちらに来た場合は、そこにいるルーナを手伝っていただければ嬉しいです」
「ほう、お主はヘンリーが弱いと申すのか? 一応あれでも魔王の端くれぞ?」
「いやぁ弱いでしょう。本日エキドナ様を見ても、ヘンリーは明らかに劣っていると感じました」
「お主はヘンリーと直接おうたことがあるのか? 噂だけではあてにならぬぞ?」
「会ったことはありませんが、うちの諜報員は優秀でして……。失礼ですが、魔力値が数値化出来るのはご存じで?」
「うむ。妾の所では導入しておる。その口ぶりはお主らも導入しておるようだな?」
「ええ、それによるとヘンリーの魔力値は恐らく十万程度と聞いております。エキドナ様と比べるまでもないでしょう」
「確かに妾の魔力値はヘンリーと比べるまでもない。しかし……まるで妾の魔力値を知っておるような口振りじゃのう?」
「知らなくても、先程の魔力波だけでも十万は越えているでしょう? 全く、人を試すにしてもやり過ぎですよ」
「ははっそこまでバレておるのか。許せ、お主達を見くびっておったようじゃ。妾の魔力波を受けても、顔色すら変えず、さらに交渉まで仕掛ける始末。ルーナ、こやつら面白い存在じゃの!」
さっきから気になっていたけど、いつの間にかエキドナの話し方がガラッと変わってる。
「ええ、お陰様で毎日退屈せずにいられます」
ルーナは笑顔で答える。それが本心からだと分かる程度には、俺もルーナを理解できた。
「ええい、やめじゃ! やめじゃ!」
突然エキドナは大声を上げて椅子に大きく寄りかかった。
「どうやらお主達は想像以上の実力を持っておるようじゃ。それに馬鹿でもない。何よりルーナが信頼しておるようだし問題なかろう。どうじゃ? 妾と対等の友誼を結ばぬか?」
「対等の友誼ですか?」
「だから惚けた振りは止めるのだ。言葉も適当でよい。なにせ対等じゃからな」
これは……予想以上の成果になったかもしれない。
「よし、乗った! じゃあ対等の友ってことでよろしく。いやー、本当はヘンリーを倒して実力を見せた後に友好を結ぼうと思ってたけど……。思った以上にエキドナが話が分かるやつで助かったよ」
俺の態度の変化に驚くエキドナ。いや、俺だって突然の変化に驚いたのだ。お互い様だろう。
「お主……いきなり変わりすぎじゃろう。じゃが、まぁよかろう。そういう訳じゃ。腹を割って話さぬか? お主ら何を企んでおる?」
「聞いたら後戻りはさせないからな? ……って言っても大したことは何もないよ? 殆どさっき言ったし。ヘンリー倒したかったけど、戦闘員が少なくて守りに不安があったのも事実だしな」
「ふむ。先ほどの話に偽りはなかったと。ちなみに戦力は如何ほどなのじゃ?」
「三人だ」
エキドナの目が大きく見開く。うんうん、魔王が驚くところを見るのは愉快だな。
「……もう一度言ってくれ。将軍の数ではなく全ての兵の人数じゃぞ?」
「だから三人だ。ここにいる俺達で全てだ」
「お主は……たった三人でヘンリーを滅ぼす気じゃったのか?」
「もちろん。赤の国の王都に一人、不夜城に一人、残党兵を狩るのに一人で何とかなるかなと。ただ、そうなると、ここの領内がルーナしかいなくなるから、少し不安だったんだ。それこそ……エキドナみたいに、いきなり魔王が来る可能性もあるだろ? それだけが不安だったんだ。いやー、エキドナが来てくれて、本当に助かった」
「主は……妾達が攻めるとは考えぬのか?」
「その可能性があったから、さっきまでのやり取りがあったんだろ? それでエキドナの性格上、友誼を結んだのに、攻め込むような野暮な真似をする訳がないと判断したんだが?」
そもそも、寝首を掻く真似をするなら、そもそも友誼を結ぼうとはしないはずだ。
「ふっ……はははははっ! いや、本当にいい性格をしとるの。その通りだ。友になった以上、攻め込んだりはせん。全く……これほど笑ったのは久しぶりだの」
「こっちも新たな友が出来て嬉しいよ。で、早速友にお願いがあるんだけど……」
「なんじゃ? やっぱり兵も必要か?」
「いや、今回は俺達の実力をしっかり見てくれればいいよ。じゃなくて、ヘンリーを滅ぼした後なんだけど。エキドナ、赤の国の領地とヘンリーの領地を治める気ない?」
「……何を言うておる? お主が滅ぼすのじゃから、領地はお主のものじゃろう?」
「いや、確かにそうなんだろうけどさ。さっきも言ったけど、こっちは戦力不足でさぁ。この城付近しか管理できないんだよ。かといって、放置するだけだと他の国が侵略してくるでしょ? そうなったら、またこの城にも攻めてくるかもしれないじゃん。ならエキドナみたいに、安心できる人が治めてくれたらこっちは攻め込まれる必要もないし、交易とかも出来るようになるかもしれない。……さっきの料理の材料も渡せるかもよ?」
ケーキが食べれるかも? と聞いて、エキドナがはっきり分かるくらいに動揺した。そんなに気に入ったのか……。
「う、うーむ。確かに領地が増えるのは好ましいが、妾の領地とここの領地は、ちと離れすぎておる。管理するにも一苦労だからのう」
俺はトオルの方を見る。トオルは大丈夫だよと頷く。
「もし……治めてくれるなら、赤の国の王都と不夜城、エキドナの領地に転移の門を繋げて、いつでも行き来出来るようにするけど?」
「なっ!? シエラはおらんのだろう? 転移魔法はもう使えんはずじゃ?」
「この城には、シエラ以外にも転移魔法の使い手がいる。まぁ能力は制限されてはいるが、エキドナの領地とヘンリーの領地を繋ぐくらいは可能だ。もちろん防犯のために、俺達にも使えないようエキドナが許可したものしか使えないような制限をつけることも出来る」
俺の提案にエキドナは真剣になって考え込む。
「むむ……。すまんが、この件は妾の側近とも話し合いたい。今返事をしなくてもよいか?」
「もちろん。ただ、俺達がヘンリーを倒す前に決めてくれないと、困るから、それまでには決めてくれ」
「もちろんじゃ。もうすぐ部下達も到着しよう。それから会議をして決める。よければ妾達のみで話をする場所を設けてはくれまいか?」
「会議室があるから、そこでいいなら貸し出すよ。念のため、入口に見張りだけ立てさせてもらうけど」
「それで構わん」
「よし、じゃあ面倒くさい話はこの辺りにして、もっと面白い話をしよう。そうだ、今日はどうする? 泊まっていくのか? それなら夕食は盛大にやりたいのだが」
「ほう? 盛大とな。妾を満足させることが出来るかの?」
「さっきのケーキが美味しいと感じたのなら大丈夫だろう。きっと食べたことのない料理ばかりだと思うぞ」
「言うたな? これは楽しみじゃのう。もし妾を満足させることが出来たら、何でも言うがよい。褒美を取らせようぞ」
「ん? 今何でもって言った? そっか……楽しみだなぁ」
俺はエキドナに向けて不敵に笑いかけた。
「んん!? ……た、確かに、何でもとは言ったが、出来ることだけじゃからな! やめろ! そんな怪しい目で妾を見るでない」
エキドナは身震いしながら後ずさる。
そのときスパーンと小気味いい音が俺の頭から発せられる。
「シオン様、お戯れは程々に。ほら、サクラ様もお怒りですよ?」
ルーナがハリセンで俺の頭を叩いたようだ。そして隣で静かな笑顔をしている姉さん。目が笑っていない。
「おま、ハリセンとかいつ準備したんだよ。ってか姉さんも……ちょっとした冗談じゃないか」
「シオン、こういう場所では姉さんではなく名前で呼びなさい。それから私は怒ってないわよ。それとも……怒られるようなことを考えてたのかしら? どんなことを考えてたのか教えてほしいわ?」
二人から責められては降参するしかない。
「く、くはははは。シオン、お主は城主だというのに威厳がないのう」
「当たり前だ。城主と言っても、肩書だけだ。俺とここにいる二人。それから別室に一人いる。俺達四人に上下関係なんてない仲間だ。俺が城主なのは、一種の罰ゲームみたいなものだ」
まぁ三人は村で働いていて、俺が一番仕事がないからってのもあるけど。
「ではそちらの二人。トオルとサクラと言ったかの? それからあと一人か? そなたらも妾と対等であることを許そう。お、ルーナお主もどうじゃ?」
「とんでもございません。わたくしはメイドでございますから。対等なんて恐れ多いことです」
「ふん、相変わらずじゃのう。じゃが、顔付きが大分変わったな。昔は鉄面皮のように無表情じゃったが……」
「あの頃はメイド一筋でしたから」
「今もそうじゃろ? しかし……そなただけでも生きておってよかったの。妾が連れてきた彼奴はどうじゃった?」
シエラのもう一人の側近のヴィーヴルのことだろう。
「あの方は最後までシエラ様をお守りしておりました。仕事に妥協をしない、兵士としてとても誇り高い方でございました」
「左様か。役に立ったのであれば彼奴も満足だろう。彼奴とシエラは亡骸もなく消滅したのであろう? 墓はないのか? 元々ここへは花を添えに来たのじゃが?」
「遺骨はございませんが、シエラ様の遺品をまとめた墓を用意しております。よろしければ後でご案内いたします。きっとシエラ様と総大将もお喜びになるでしょう」
「うむ。よろしく頼む」
この後も、エキドナと他の魔王のこと、エキドナの領地のこと、シエラとの昔話など、興味深い話を聞かせてもらうことになった。




