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ロストカラーズ  作者: あすか
第二章 魔王城防衛
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日常編 新年会

「ねー。次わたしがやるー」


「ずるーい。私もやりたいっ!!」


「おいおい、順番にな。あと、手をケガしないように気をつけるんだぞ」


「「はーい!!」」


 今日は冬の二月四十五日。冬の最後の日だ。明日からは五日間の新年を迎えたら春の月が始まる。

 だから今日は日本の大晦日にあたる。去年はこっちに来て半年で何も出来なかったが、今年は違う。


 俺は今、明日の新年に向けてフィーアス村で餅つきをしていた。

 去年はもち米すら出来ていなかったが、今年は準備してある。

 今、村の至るところで餅をついている。俺が担当している臼ではエイミーが杵をもって子供たちが合いの手をしている。


「グリグリと潰し、形を崩してからつき始めるんだぞ。米の形がなくなって、滑らかになるまで頑張れよ」


「分かってますよ、さっきみたいにやるんですよね?」


 さっき実演として俺と姉さんがやってみたのだ。姉さんは今は他の場所で同じように実演して回っている。


「ああ、エイミーも子供たちがケガしないように気にしてやってくれ」


「はい。任せてください」


「よし、じゃあ餅つきはラーワとナンに任せるから、ミケはこっちだ。今出来た餅を分けていくぞ」


 俺は出来上がった餅から一口サイズの大きさにしていく。


「はーい。こうやるんだね」


 ミケは俺の真似をして取り分けていく。ちなみにミケはケットシーだ。猫タイプの魔族のため手にはゴム手袋をしている。


「ごめんな、ミケも本当はあっちに混ざりたいだろ?」


 いくらゴム手袋をしていても、手を出し入れする作業は毛が落ちる可能性が高くなる。

 衛生的な面を考えれば、ミケに餅つきはさせられない。


「大丈夫だよ! だってじょーしゅさまと一緒に作業できるから楽しいもん!」


 まったく可愛いことを言ってくれる。


「おっ、そうだ。餅ってのはつきたてが美味しいんだ。ほれっ、喉に詰まらせないように気をつけろよ」


 そう言って俺はミケの口に、ちょっと小さめに千切った餅を、準備していたきな粉をまぶして食べさせる。


「うわー!? むにむにしてて変な感じ。……でも美味しい!!」


 餅の食感はあまり他の食べ物にないから初めてだったら驚くだろう。


「ほら、口のまわりがきな粉だらけだぞ」


 俺はミケの口元を拭ってやる。


「えへへ……じょーしゅさまありがとー!」


 ミケは少しハニカミながらお礼を言った。


「よし、じゃあ作業に戻るか。明日のお雑煮の分の餅をたくさん準備しないな!」


「うん! 頑張る!」


 俺は作業に戻ろうとするが……ふと視線を感じて横を見る。

 そこには俺のことをじっと見ているラーワとナン、それからエイミーがいた。


「おい、何してるんだ? 早く餅をつかないと冷めてしまうぞ」


 ったく、何してるんだか。


「ミケちゃん……ズルい」

「私も……」

「……」


 どうやらミケが食べていたのが羨ましいようだ。


「ったく三人は食いしん坊だな。それが終わったら食べていいから、まずは餅を完成させろよ。あと、明日の分もあるから食べ過ぎるなよ」


 俺がそういうと三人の顔がみるみると膨れていく。お前らが餅になってどうするよ。


「違うもん! 食べたいんじゃなくて食べさせてもらいたいんだもん!!」

「わたしも!! じょーしゅさまにあーんってしてもらいたいの!」

「シオンさんが私に……」


「……仕方がないなこっちに来い」


「「「わ~い!!」」」


 ナンとラーワとエイミーが喜んで近づいてくる。……エイミーは少しは年を考えたほうがいいと思うぞ。


「わたし餡子がいい!」

「わたしはきな粉!!」

「えーと、私は大根おろしと醤油で……」


 そういって俺の前で口を開ける三人。まるで雛鳥のようだ。


「……エイミー。大口あけて恥ずかしくないのか?」


「恥ずかしいですよ!! だから早くしてください」


 あっ止めないんだ。


 仕方ないから三人にも食べさせてやる。


「おいしーね!!」

「あははっ! くにくにーへんなのー!」

「……っ!! ん、んー!!」


「エイミー……ほら水」


「んく、んく。はー。死ぬかと思いました」


「何で子供達じゃなくて、お前が喉に詰まらせてるんだよ」


「えへへ……ごめんなさい」


「ねーねーじょーしゅさまー。拭いて拭いて」


 そう言ってラーワとナンが唇を突き出してくる。


「ったくしょうがないな」


「ん~! ……ありがとうじょーしゅさまー」

「えへへ……ありがとー!!」


 それを羨ましそうに見るエイミー。


「……流石にエイミーにはしないぞ?」


「要りませんよ!!」


 そう言って自分で口元を拭う。何でキレてるんだよ。


 ……はっ! 後ろから殺気が!!


「シオンあなたやけに楽しそうね」


「ね、姉さん。これは……」


「ミケ一人に作業を押し付けて、自分は楽しんでるなんていい度胸ね」


「いや、これには深い事情が……ってお前ら逃げるな!!」


 すでに自分たちの作業に戻っているエイミー達三人。

 この後姉さんに散々怒られたのは言うまでもない。



 ――――


「さて、この一年は俺達にとって充実した一年になりました。途中赤の国が攻めてきたりと問題もありましたが、無事に新しい年を迎えることが出来て嬉しく思う。今日は俺達の世界で新年に食べる雑煮を作ってみた。アレーナ達メイド隊に比べると味が落ちるかもしれないが、良かったら食べてくれ」


 俺の新年の挨拶が終わると、メイド達全員と食事を開始した。


 雑煮は一晩かけて全員分作った。アレーナが手伝うと言ったが断わった。地球の頃を思い出しながら一人で作りたかったのだ。アレーナは最後まで文句を言っていたが、こればかりは譲れなかった。まぁ代わりにおせち料理はお願いしたが。


「へぇシオン君の家では魚が入ってるんだ」


「ああ、うちではブリが入ってたな。こっちではブリに近い魚になってるけどな。後はシイタケと大根、人参と里芋かな。出来上がった雑煮に、かまぼことほうれん草を添えて完成だな」


「懐かしいわねこの味。うちはお父さんが鶏肉が嫌いだったから、お肉は入ってないのよね。……本当に懐かしいわ」


 この雑煮の味を知っているのは姉さんだけだからな。両親がいた頃を思い出しているのか少し目が潤んでいる。


「私の家は魚は入ってなくて鶏肉だったよ。あとほうれん草じゃなくて三つ葉だったな。お母さんたち元気してるかな?」


 ヒカリも地球にいる両親を思い出しているようだ。後悔しないように自分で決めてこっちに来たけどやっぱり寂しいよな……。


「同じ料理なのに皆様違う食材なのですね」


「ああ、俺達の国の伝統的な料理なんだが、場所によって全く違うんだ。味付けも出汁や味噌、地域によってはぜんざいの所もあるって聞いたな」


「ぜんざいもあるんですか!?」


 そういえばルーナは餡子好きだったな。


「ああ、その地域ではぜんざいみたいな雑煮を出すらしい。本当色々あって楽しいよ」


「いずれは食べてみたいですね」


「ぜんざいならいつでも作れるから今度作ってやるよ」


「本当ですか!?」


「お、おお…ってか、ぜんざいならアレーナに言えばいつでも作ってくれるだろうに」


「シオン様に作っていただきたいんです!!」


「えっ? あ、ああ、ま、まぁルーナがそう言うなら……」


 いつもルーナには世話になっているし偶にはいいだろう。


「シオン様ー。この雑煮の作り方後で教えてくれませんか?」


 食べ終わったのかアレーナがやってきた。いつもより少し口調が柔らかい……もしかして酔ってる?


「おお、いいぞ。今回は俺が無理言って作ったけど、アレーナにも作れるようになってもらいたいしな」


「ってか料理本に載ってないシオン様が知ってる料理は全部教えてほしいんですけど? 一人で食べてるのとか……ね?」


 いや……ここでそんなこと言わなくても……。


「シーオーン? あなたまだやってるの?」


「いや、もう今はやってないって」


 ごめん嘘です。偶にやってます。でも今は誤魔化さないと。


「私、三日前に食べてた貝の入ったラーメンを教えて欲しいです」


 ちょっ!? アレーナ! 本当に酔ってるのか? いつもなら匂わすだけで暴露まではしないだろうが……。でもさ、美味しそうなしじみが取れたんだもん! あっさりスープのラーメンが食べたかったんだもん。


 この後、新年の五日間全てをかけて全員分のしじみをドライ海峡まで取りに行くことになった。

 今後はもっとバレないようにしよう。そう誓った。

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