日常編 ハグル④
<研究隊視点>
「びぇ、ひっく……」
「ほらリズ、泣かないでよ」
「ぐじゅ……だって……全然人と会えないんですもん」
「いや、警備隊に会ったじゃない!」
「でも彼女達はすでに役も揃えてて、交換すらしてくれなかったじゃないですか。それに彼女達はすでに四チームに会ったって言ってましたよ! それなのに私達は……うわーーん!」
「何よ……そんなに泣くと私まで泣きたくなるじゃない。…………ぐす」
「……あなた方、何で泣いてるの? 思わず引き返したくなっちゃったじゃない」
「「えっ!? え、え、え、エリーゼさぁぁん!!」」
「きゃっ、な、なんですか貴女たち。……ちょ、ちょっとどこ触って……放しなさい!」
「ぐす……ようやく人に会えましたー!!」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「……なるほど、貴女たちは始まってからどなたとも会えてないのですね。……いやはや運が悪いというかなんと言うか。いいから早く泣き止みなさい」
「はぃぃ。ありがとうございます」
「では私が貴女たちの最初の交渉相手になりましょう」
「本当ですか!!」
「ええ、ですので、まずは情報を出し合いましょうか。私は『ゴールしたければどのNPCでもいいのでゴールしますと言えばGMの元へ転移する』というルールを知っています」
「はい私達は『ゴール順に応じて点数が貰える一位:20点、二位:10点、三位:5点。四位以降は変わらない』を持っていました」
「なるほど……あなた方がそのルールを持っていましたか。道理でどなたも知らないはずです」
「えっもしかしてご存知でした?」
「ええ、私は特殊ルールは全て知っています。後は各魔石の点数とトランプのルールを六個ほど知っています」
「す……凄いです!!! じゃあ私達の『ダイヤのマークを二枚所持で‐10点。一枚追加ごとに‐5点が追加される』も知っていましたか?」
「ええ、それは補給隊と同じルールですね」
「そうですか……あまりお役に立てず、申し訳ありません」
「いえ、貴女たちは誰にも遭遇しなかったのですから仕方がありません。それよりもトランプの方はどうでしょうか?」
「はい、私達は『♠9』『♣2』『♣10』『♢10』『♡4』です」
「あー、それでは私は力になれないですね。被っているカードがありません」
「そうですか……」
「ああ、でも待ちなさい。どうにかなるかもしれません。貴女たちは『♡10』が欲しくありませんか?」
「そりゃあ欲しいですけど……」
「では魔石一つを私にくれた上で、私達の『♢J』『♢Q』と『♠9』『♣2』を交換してくれるなら、『♡10』と『♡4』を交換してくれる人を紹介してあげましょう。ですが、知っての通りダイヤは持っているとマイナスになってしまいます。ですから、カードを交換してくれるNPCの存在も教えます。それで時間内に交換すれば間に合うでしょう。どうですか?」
「分かりました! 魔石は青でいいですか? お願いします」
「では少し待ってなさい。シルビアに連絡します」
「そういえばエリーゼさんは一人で行動してるのですか?」
「ええ、シルビアは『♡10』を持っているチームを尾行しているのです。ああ、繋がりました」
『エリーゼさん。どうされました?』
「補給隊と連絡取れますか? 『♡4』が見つかったと伝えてください」
『……今から行くそうです。そちらはどこですか?』
「4‐4です。相手は研究隊です。シルビアは3‐7で合流しましょう」
『分かりました。3‐7へ行きます』
「ではお願いします。……はい、今から補給隊がこちらへ来るので交換してください。あとカード交換は3‐7で出来るので、交換が終わったらそこへ行くといいでしょう」
「分かりました。何から何まで本当に有難うございました」
「いえいえこちらこそ。では」
「はーエリーゼさん。いい人だったね」
「うん。じゃあここで補給隊を待ってようか」
<GM視点>
「えぐっえぐ。研究隊チームが不憫すぎるよ……ぐすん」
「いや、ティティお前まで泣くなよ。それにしても、エリーゼはどういうつもりだ? わざわざ補給隊のカードをストレートフラッシュにしたぞ?」
「ねー? ハートのフラッシュで加点ってのも知ってるはずなのに……もしかしたら魔石狙いかもね。シルビアちゃんが補給隊から魔石貰ってたし」
「ああ、研究隊からも貰ってたな。なるほど、情報提供料の魔石で加点狙いか。しかし、それでも通信チームはまだ役なしだろ? 本当に大丈夫なのか?」
「でもでも今回で『♠4』『♣5』『♠6』『♠9』『♣2』ってなったからストレートが見えてきたよ!」
「でもストレートだけじゃあまり加点にならないしな。せめてスペードの2と3でストレートフラッシュなら……ああ、『♠3』なら第一だけど『♠2』か『♠7』は無理そうだな」
「あっ! でも『♠3』が手に入ったら『♠6』とのセットで×2だよ!」
「本当だ。なら点数的には十分だな。あとは無事第一に出会えるか……だな」
「あのーシオン様?」
見学のメイドが話しかけてくる。
「ん? なんだ?」
「エリーゼさんとシルビアさんのケータイってアリなんですか?」
「ああ、持ち込み禁止にはしてないから勿論ありだ。それにエリーゼは事前に許可も貰ってたしな。まぁあそこに入る前から勝負は始まってるってことだ」
他にもメモの持ち込みをしたチームもいるし、色々ルールの抜け道を考えたチームもいる。さっきの同盟や景品の譲渡もその一部と言えるだろう。
<料理視点>
「ヒカリ様! 合言葉を教えてください!!」
「分かったよ。合言葉は『ああ、スーラさんはいつも可愛いなー』だよ」
「……これ? シオン様が考えたんですか?」
「ううん。これは私が考えたんだよ!」
「……そうですか」
「うん。じゃあ頑張ってねー!」
――――
「サクラ様!!これとこれを交換してください」
「いいけど……本当にこのカードと交換するの?」
「はい、だってルールには二枚使用しちゃダメってのはないですよね?」
「それは私の口からじゃ言えないなー」
「ちぇ、サクラ様の意地悪」
「意地悪じゃないわよ! っと、はいこれ」
「有難うございます。ついでにもう一つ。……『ゴールがしたいです』」
「あらっ? そうじゃあはい。頑張ってね」
<GM視点>
「おおーっと、料理隊の帰還だ!!」
「結構遅かったな。もうすでにゴールしているチームがいるぞ」
「色々と点数を集めていたので……ではシオン様『ああ、スーラさんいつもは可愛いなー』」
「ぷぷ。アレーナ、顔が真っ赤だぞ」
「うるさいです!! いいから早く手役の確認してください」
「分かった分かった。……おい、この手役はなんだ?」
「何って……もちろんファイブカードですよ」
「……なるほど盲点だった。まさかジョーカー二枚でファイブカード扱いにするとは思いもしなかったよ」
「別にジョーカーは一枚しか使用してはいけないってルールはなかったですし、ファイブカードならジョーカーのデメリットもないですからね」
「そういう事か。これは遊撃隊と交換した時から考えていたのか?」
「ええ、後はジョーカーが二枚あるか? とジョーカーが残ってるか? が賭けでした。トランプのセットはジョーカーが二枚だからあるとは思ってました。それに、ジョーカーのデメリットは浸透していたみたいなので勝算は高いと思いました」
「なるほどな……これはフルハウスを作ったやつらが悔しがるだろうな」
「でしょうね」
「よし、じゃあ料理隊もゴールだな。料理隊は五番目のゴールだから着順得点はなし。残り時間は五分あるから五点加算だな。じゃああっちにルール一覧があるから、自分の点数の計算でもしてるといいよ」
「分かりました。では失礼します」
「おう。またな」
アレーナは奥の部屋へ向かったようだ。
「これで残りは四組か。あとの四組は時間いっぱいいるのかな?」
「多分いると思うよ。ってかルールを知らない可能性があるからね」
「ま、時間まで待つか」
――――
「じゃあ結果発表を行うぞ!!」
ここには今NPCを含む全員が戻ってきている。
「その前に、皆ご苦労だった。疲れたかもしれないが、楽しく過ごせたのではないかと思う。……まぁ一部チームが泣いたりしていたが、まぁそれも含めていい思い出になっただろう」
会場から失笑や苦笑い、拍手や大笑いが聞こえてくる。
「あーあー静かに。では最下位から順番に発表していこうと思う。まず最下位だが、おそらくみんな分かっているだろう。第一メイド隊だ。魔石点数0、手札役なし、特殊ルール点数0で合計点数も0だ。何か一言あるか?」
まず第一メイド隊が前へ出てくる。
「いえ、特にはございませんわ。……いえ、一つだけ。皆様、もし一位になったチームは私達のチームの約束をお忘れなきようお願いします」
「第一は色々なチームと交渉していたからな……じゃあ次のチーム。次は魔石点数青以外一個所持で、19点、特殊点数は0、手役はフォーカードで×7合計133点。研究隊チームだ!!」
「うう……エリーゼさんに助けてもらったのにこの順位……本当に申し訳ないです」
「NPCとのカード交換でフォーカードまで揃ったのは良かったが、特殊ルールの点数がなかったのが、痛かったな。ただ、あの時間からよく持ち直したと思うよ。まぁ今回は運が悪すぎた。次回があるならまた頑張ってくれ」
「はい。有難うございます」
「じゃあ次は七位だな。魔石点数各一つずつで26点、特殊点数0、手役はフルハウスで×6、合計で156点。警備隊チームだ!!」
「ええっ!? フルハウスなのに七位ですか?」
「当たり前だろ。お前たちは真っ先にフルハウスが出来て開始五分で優勝候補だったのに、残り時間を何もせずに過ごすとは……ちゃんとやってたら普通に一位だったと思うぞ」
「うう……ちゃんとルールを把握すべきでした」
「その通り。ルールが大事なゲームだからな。じゃあ次は六位だな。魔石は白2個青0で20点、特殊点数は残り時間ボーナスで15点ハートのフラッシュで15点。ここまでは良かったんだが[7]と[8]が揃ってるから‐20点、手役はストレートフラッシュで×8、合計で240点、補給隊チームだ!!」
「うう、‐20点が痛かったです」
「確かにカードが8じゃなくて3だったら‐20じゃなくて寧ろ×2でおそらく優勝だっただろう。まぁ惜しかったな」
ここら辺は紙一重って感じだな。
「次は魔石が赤以外で23点、特殊点数は残り一分ギリギリの1点と合言葉の30点、だけど『♣K』を持っていたから‐10点、手役がフルハウスで×6、合計が264点で第五位は第二隊だ」
「マイナスは予想外ですよ!!」
「あとは色々と練りすぎたな。相手を落とすだけでなく、自分の手役を上げるためにもっと努力すべきだったな」
「うう、精進します」
「残すは後四チーム。まず第四位だが、魔石は一個ずつの26点、特殊点数は一位の20点、残り時間で25点『♣3』『♣6』が揃っているので×2、手役がツーペアで×2、合計点が284点で遊撃隊だ!!」
「やはりツーペアでは限界があったっス」
「ゴール一位の点数はいいけど、せめて合言葉点数があれば、もっと上位の可能性があったぞ」
「そうっスね。手役が無理だと思って、速攻ゴールしたのがいけなかったっス」
「じゃあついにベスト3の発表だな。魔石は緑以外が二個ずつ緑のみ一個で42点、特殊点数が二位の10点、時間点数が22点、手役がフルハウスで×6、合計が444点でルーナ・エイミーの混合チームだぁ!」
「まさかわたくしが一位になれないとは……」
「あと三分早かったら、ゴールが一位だったのにな。もしくは合言葉があったらもしかしたら……って感じじゃないか?」
「……シオン様心なしか嬉しそうじゃありませんか?」
「い、いや? そんなことないよ? あっそれじゃあ最後の二チームの紹介しなくちゃ」
そう言ってルーナ達を追い出す。
「残ってるのは料理隊と通信隊だな。どちらも観ている限りではかなり激戦だったぞ。じゃあ点数は後にして、先に一位を発表するか」
俺がそう言うと照明が暗くなり、ドラムロールが鳴り響く。うん、準備した甲斐があった。
「では栄えある一位は……………通信隊だ!!!!!」
お互いにどっちが一位になるか分からなかったのだろう。お互いにビックリしている。
「じゃあ詳しい内訳を発表するか。まず二位の料理隊だな。魔石が赤以外で23点、特殊点数が時間点数が5点合言葉が30点、手役がなんとファイブカードで×10、合計が580点だな。一位の通信隊は魔石の点数がすごいな。白が0青が3、残りが1で39点、だけど特殊点数の同じ魔石三個で青の魔石の価値が2倍、これで青の魔石だけで42点、魔石合計が60点だ。それに3位の5点、時間点数の10点、スペードが3枚で10点、『♠3』『♠6』で×2、手役がストレートで×4で680点。点数的には差があるように見えるが、料理隊がファイブカードってことを考えると、ほとんどギリギリの勝負だったな」
「エリーゼちゃぁぁぁん!!!!」
ティティがエリーゼに飛びつく。
「ティティ。こら放しなさい!」
「良かったねエリーゼちゃん。シルビアちゃんもお疲れちゃん」
「ティティもお疲れちゃん。実況やってたんでしょ?」
「うん! 頑張ったんだよ!」
「ま、今回は通信隊の作戦勝ちだな。二手に分かれて活動していたのは通信隊だけだった。サポート要員を最もうまく活用していたな」
「そっか……一緒に活動する必要がなかったんだ」
アレーナが悔しがっている。
「ま、今からは感想でも言い合いながら皆で楽しく過ごそうや。そしてまた明日からもよろしく頼む」
「こちらこそ改めましてよろしくお願いします。そしてまた来年の記念にでもリベンジさせてください」
ルーナは早くも次のことを考えているようだ。
「その時はまた別のゲームでも考えてみるよ」
その後は皆で打ち上げた。いつもはメイドだからと一緒に食事をしたがらない人達も今日は文句も言わずに一緒に盛り上がってる。
年に一回はこんなばか騒ぎがあってもいいかもしれない。そう思った。
が、三位の賞品の一日券で一日ルーナのおもちゃにされて、今度の賞品の内容は絶対に変更しようと誓った。
全チーム最終手札
混合チーム:『♣A』『♠A』『♡A』『♢5』『♠5』
第一チーム:『♣4』『♢6』『♠8』『♣J』『♣Q』
第二チーム:『♡9』『♠9』『♣K』『♢K』『♡K』
料理チーム:『♠2』『♢2』『♡2』ジョーカー×2
遊撃チーム:『♣3』『♡3』『♠J』『♡J』『♣6』
通信チーム:『♣2』『♠3』『♠4』『♣5』『♠6』
研究チーム:『♣10』『♢10』『♡10』『♠10』『♣9』
補給チーム:『♡4』『♡5』『♡6』『♡7』『♡8』
警備チーム:『♠7』『♣7』『♢7』『♡Q』『♠Q』
NPC余りカード:『♠K』 『♣8』 『♢J』『♢Q』『♢8』『♢3』 『♢4』 『♢A』『♢7』




