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ロストカラーズ  作者: あすか
第二章 魔王城防衛
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閑話 エイミーの転機

今回は閑話。エイミー視点です。

 私は兵士になったことをずっと後悔していた。


 じゃあ冒険者のままの方が良かったかと言われればそうではない。なにせ冒険者は稼げない。

 採取や配達では日銭を稼ぐのがやっと。討伐になると途端に死の恐怖が付きまとう。

 特に稼ぐための討伐になると、Bランク以上の魔物の討伐が必要だろう。


 だから私は兵士になった。だけど、村人が兵士になっても、待遇が良いわけがない。私は辺境の中でも、魔族領に一番近い砦に配属された。


 そこでは、毎日毎日女だからという理由で蔑まれる。お風呂やトイレはいつも誰かに覗かれる。それも偶然を装い堂々と覗くのだ。

 私が入っているのを知っていながら、『あれっ? 入ってたのか? すまん』だ。白々しいにも程がある。


 特に酷いのが上官。いつも私のことをいやらしいゲスな目で見る。あの目だけで私は犯されている気分になる。

 そして特に用事もないのに細かな理由をつけて私を部屋へと呼び出そうとする。その都度、私は夜勤や雑務を装いながらなんとか断り続けていた。


 本当に辞めたい。何度そう思ったか。でも辞めることが出来ない。私が辞めてしまったら、母への薬代が稼げないからだ。

 母の為にも何とかここで働かないと駄目だ。そう言い聞かせ続けてきた。



 ――――


 ある日、ここから一番近い魔王が討伐されたので、調査隊の志願者を募った。


 あくまでも志願だ。だが募ったのは王都の宰相。ほぼ強制だ。


 この砦には百名の兵士がいる。流石にこの砦を空に出来ないからここからは十名程度でいいらしい。


 だが、誰が好き好んで魔王のいた城へたがるのか。案の定誰も志願しなかった。そのため、この砦の中でも地位が低いものが選ばれる。


 私はこの城で最も地位が低い。だけど私は選ばれなかった。理由は簡単だ。私がこの砦で唯一の女性だからだ。

 だから私は志願した。この城にいた方が身の危険を感じるからだ。

 私は死の危険よりも、身の危険を嫌がった。身の危険はどうにもならないが、今回の遠征で死んだら、国から補償金が出て母が助かる可能性もあるのだ。


 今考えれば、この国が死んだ者に見舞金なんか出すわけない。そんな分かりきったことすら気がつかないほど、当時の私は追い詰められていた。それ程本当にあの砦にいたくなかった。



 ――――


 結果として、今回の遠征は私の人生の転機になった。


 二千からなる調査隊は二百の輸送隊と千八百の探索隊で構成された。


 兵の殆どが王国警備隊だった。彼らは安全な輸送隊よりも、手柄や物資の着服のため、探索隊を希望した。

 そのため、出世に興味のない一部の貴族以外は、輸送隊の殆どが辺境勤務の兵だった。

 私も出来れば輸送隊で安全に済ませたかったが、辺境勤務兵の中でも、問題のある者は探索隊へ配属された。恐らく上官の仕業だろう。


 そこで、探索隊の本来の役目を教えられた。私達の目的は、城に住んでいる残党を誘き寄せる囮なのだという。

 無理に敵を殺す必要はない。もちろん殺せるなら殺した方が良いが、それよりも長時間引きつけるのが役目だそうだ。そして探索も行い、敵の物資を根こそぎ奪うことも義務づけられた。


 ここにいる兵の大半はその物資の略奪が目的だろう。そして、この城は元々男がいない女帝の城と呼ばれていた。その為、城の残党も女が殆どであると説明があった。それを聞いた男達の下卑た笑み。本当に気持ち悪い。そして、私を見る目も……本当に嫌になる。


 探索隊のメンバーは金目の物を手に入れる。女を犯す。その事で頭がいっぱいの様だった。このあとに訪れる地獄も知らずに……。



 ――――


 そこは地獄だった。

 全員が集まった広場に突如現れた大きな壁。

 そこに現れた一人の悪魔。見た目は少し頼りなさそうな男の人。だけど、その行動は悪魔そのものだった。


 その人が触るだけで人が死ぬ。その人が何かを飛ばすだけでも死ぬ。こちらの攻撃は素早い動きでかすりもしない。

 広場から逃げたくても、壁に阻まれて逃げることが出来ない。だって壁に触っただけでも死んでしまうのだから。


 私はその時初めて、本当の死を目の当たりにして恐怖した。『死にたくない!!』その言葉を何度叫んだか覚えてない。こんなことなら、上官に犯されてでも砦にいれば良かった。そう思った。


 しばらくすると男が『降伏すれば殺さない』と叫んだ。

 私はすぐに武器を捨て降伏した。


 でも、そこからが本当の地獄だった。男が上官は許さないと言ったのだ。

 私は上官じゃないから安心だ。そう思った。

 だが、今度は殺されたくない上官達と、死にたくない兵士達の同士討ちが始まったのだ。


 敵ではない。ついさっきまで味方だったのだ。何故殺し合えるのか?

 今度は味方だった人に殺されるかもしれない。

 私は被害にあわないように、さっきよりも必死に逃げ回った。


 結果として私は生き延びたが、男が殺した人数よりも多くの人が同士討ちで死んでしまった。


 生き残った私たちは男に契約の呪いが発動する薬を貰った。


 私は貰ってすぐに飲むことにした。飲まない選択肢はなかった。

 それなのに飲まない人や、躊躇している人がいる、何故躊躇する必要があるのか。この人達は死ぬのが怖くないのだろうか?

 案の定薬を飲まなかった人や躊躇した人は死んでいった。でもこれは酷いとは思わない。助かる道があったのに自分で捨てたのだ。自業自得に決まってる。


 男はこれから輸送隊の方へ向かうらしい。輸送隊を説得する同行者を募り始めた。


 私にとって、知り合いのいない輸送隊に興味はない。それに、この男と一緒に行動すると、いつ殺されるか分かったものではない。

 でも、ここにいるのはもっとマズい気がする。

 今は何とか生き残ったが、呪いを掛けられいつ死ぬか分からない兵。

 

 その呪いの契約内容に、女を犯してはいけないとはなかった。

 絶望した人たちが私に何をするか……想像するまでもない。

 先程は死ぬより犯される方がマシだと思ったけど、助かったと思ったら、また犯される恐怖の方が強まった。何て自分勝手で身勝手なんだろう。私は自分で自分が嫌になった。


 この男は怖いが、言う事さえ聞けば約束は守りそうだ。犯されたくない一心で、私は輸送隊を説得する方を選択した。結果としてそれは正しい選択だった。



 ――――


 輸送隊の元へ向かう兵は私以外に九名いた。皆知らない人たちだが、どうやら全員が別の砦の辺境警備隊のようだった。王国警備隊の兵は全員残ることにしたようだ。


 森の中を歩いていると男が突然会話をしようと言ってきた。


 私には最初彼が何を言っているのか理解できなかった。

 会話? さっきまで殺しあいをしていたのに?


 仕方がないと彼にリーダーを任された人が『何がききたい?』と問いかけた。

 どうせ私達の目的や情報を知りたいのだろう。そう思った。

 だけど彼は不敵に笑って『まずは皆の名前が知りたいな!』そう言った。


 彼は私達と一人ずつ順番に会話をしている。だけど彼は私達の事を聞き出そうとはしなかった。寧ろ自分のばかり話している。本当に会話を楽しみたかっただけのようだった。


 彼は異邦人だった。異邦人は悪の象徴だと教わった。事実彼は特別な魔法を使い、次々と殺しまわっていた。まさに悪魔のような所業だった。

 でも、戦闘が終わって、会話をしている彼にはそんなイメージはなかった。

 私達人間と同じ存在。そんな気がした。



 ――――


 そして、ついに私の順番がやって来た。


「女で兵士は大変だろう?」


 開口一番そんなことを言った。


 この人も女の癖に生意気とか言うつもりなのだろうか?


「この世界には男女平等なんて言葉はないよな? 女性も少ないと聞くし、仕事よりも生活面で大変じゃないのか? 嫌がらせや性的なイタズラ……と、直接聞くのは失礼だったな。許してくれ。でもそう言ったのが多そうだと思う。それなのにエイミーは頑張って働いてるんだ。偉いな」


 偉いな。僻みでも妬みでも蔑みでも、ましてや、憐れんでいる訳でもない。その言葉には私に対する尊敬が含まれているのを感じた。


 違った。この人は女の癖に生意気だなんて思っていない。この人は私の苦労を分かってくれている。気がつくと私は自分の身の上話をしていた。


 彼のいる場所にはたくさんの女性が働いていて、そんな彼はいつも自分が苦労をしているという。

 きっと彼と一緒に仕事をしている女性は、のびのびと仕事をしているだろう。私のように苦労などしてないと思うと悔しくなった。


 彼は何と私に母の病気を治すポーションを渡すという。しかも無料だというのだ。普通なら信用は出来ない。何か別の目的があるのだろうか? 私の身体……いや、この人は女性に不自由していないだろうし、私のような女に興味もないだろう。


 それに少しの会話だったけど、この人は私が知っているどんな人とも違う、こんなことで騙したりはしないと思った。


 彼は私の仲間をたくさん殺したけど、それは自衛のため。そう言っていた。

 その証拠に実際に降伏した輸送隊には殆ど被害が出なかった。逆らった王国警備隊が数人やられただけだ。

 それに広場の時は動揺していて気がつかなかったが、彼は呪いの契約に関しても、こっちが死なないように配慮していた。輸送隊を見ていると、広場の私達は本当に酷かった。そう思わざるを得なかった。


 そして、私はあの場所を目撃することになる。



 ――――


 魔族達の村。


 そこは私が思い浮かべていた魔族とは全く違っていた。

 人間を含む全ての種族の敵。人々を恐怖に陥れる存在。絶対悪。そう言われ続けてきた。


 それがこの村では欠片も存在しなかった。笑いながら遊んでいる子供達。


 家の前では笑顔で世間話をしている人達。やれ今日はこんな野菜が採れただの、大きな獲物を狩っただの。


 そして、全員が彼に感謝をしていた。彼が来て豊かになった。美味しいものかたくさん食べれるようになった。仕事にやりがいが出来たなど、道行く人皆が彼にお礼を言う。


 私の村もこんな風に笑えたらどんなに幸せだっただろうか。

 毎日必死に働いていて、でも収穫できた作物の殆どが徴収される。

 毎日お腹を空かせながら、子供も仕事を手伝わないと生活が出来ない村。村人は皆いい人だけど、そこには笑顔がなく、いつも疲れた顔しかなかった。


 私はこの村で収穫された作物を食べた。とても美味しかった。採れたての生なのに泥臭さや苦味もなく、むしろ甘さすら感じる野菜。こんな野菜があるのかと自分の舌を疑った。何か幻術系の魔法を使われた? とすら思った。


 彼はこの村に感謝をしてるし、誇りに思うと言った。

 正直羨ましいとは思うが、それはこの村の人が頑張った証しでもあるんだ。私も素直にいい村だと思った。


 だけど、次に彼が放った一言が私の心を深く抉った。


「お前達の目的はこの村の破壊、略奪だよな」


 否定したかった。違う! と大声で叫びたかった。でも、出来なかった。だってそれは事実だったから。


 私は、もし彼がいなかった場合、探索隊がこの村を見つけたらどうするか想像してみた。彼に会う前、広場に向かう途中に見せたら兵士達の下卑た目を思い出す。


 この村に住んでいるのは魔族だけど大人も子供も皆、見目麗しい女性。そして、十分すぎるほど実っている作物。村人は皆凌辱され、最後には奴隷として売られてしまうだろう。作物はまだ収穫には早い物まで全て無くなってしまうだろう。


 そして、私もそれに参加をしているのだ。違う! そんなつもりじゃない! でも……仕方がなかったんだ!


 彼が例えとして私の村がそうならったらどうする? そして、仕方なかったと謝ったら許すのか? と聞いてきた。


 母や村人がなすすべもなく殺されていく。……許せないと思った。

 何が仕方ないだ。そんな言い訳が通る筈がないだろうと。

 それがさっき自分が考えていたことと全く同じで……全部自分に返ってきているのが分かっていながらも、そう思わざるを得なかった。


 私はいつの間にか泣いていた。彼が謝りながら涙を拭うようにと小さな手拭いの様なものを渡してくる。


 彼は何も悪くない。これ以上泣き続けていたら余計に迷惑がかかるだろう。

 私は精一杯の笑顔を作った。



 ――――


 その後は急遽別の魔王がやって来たりして、ドタバタしたけれど私達は無事に解放された。

 私が彼の元に近づいて母の薬をお願いすると、本当に薬をくれた。


 私は泣きながら感謝を伝えた。

 彼は苦笑いを浮かべながら『感謝は薬が効いたらにしてくれ』と言った。


 この薬が効かないわけがない。私はそう信じていた。

 そして、薬が効いて母が元気になったら兵士を辞めよう。


 私には向いていない。それよりも村で皆と一緒に頑張ろう。そして、あの村に負けないような笑顔が溢れる村にするんだ!


 そう心に誓った。



 ――――


「あれ? 君は確かあの時の兵隊さん?」


 母の病気は無事に完治して、村で暮らしていたある日、彼の仲間が村を訪れたときは本当に驚いた。


 その人は私の事を覚えていてくれた。そして、どうやら彼が新しい村を作るための村人を集めていると教えてくれた。この土地を離れることになるけど、私の村もあの魔族の村と同じ様に、笑える村になるなら……そう思うと断る理由はなかった。


 母のお礼も言えるし、何よりもう一度あの人に会えることが嬉しかった。

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