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ロストカラーズ  作者: あすか
第二章 魔王城防衛
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第43話 新しい村を作ろう

 【蒼穹の槍】を解放した後、俺とルーナは会議室へと向かった。


 そこで行われた会議の結果、俺の計画をトオル達、ルーナとメイド隊各隊長、皆が了承してくれた。


 後は【黄金の旋風】との交渉。そしてフィーアス村への交渉が残っている。村側はルーナとヒカリ達がやってくれるらしいから、俺は【黄金の旋風】を説得することにした。



 ――――


「……もう一度言ってくれ。俺たちが何だって?」


 セラが信じられなかったようで、俺の顔を見てもう一度説明を求める。


「だから俺達の仲間にならないか? って言ったんだ」


「聞き間違いじゃなかったんだ……」


 どうやら事実だと受け入れてくれたようなので、俺は詳しい説明を始めた。


 俺が立てた計画とは、新しく作るツヴァイス村の村人として【黄金の旋風】と、赤の国の村人を引き入れることだった。


 【黄金の旋風】から聞いた赤の国の現状はそうとう酷いものだった。特に村人の扱いは奴隷と何ら変わりはない。

 文化的にも、地球でいうと他国は中世ヨーロッパなのに、赤の国の村だけ三国志レベルだ。


 赤の国の市民や貴族、兵士はクズが多いみたいだし、異邦人や魔族への忌避がある。

しかし、村人は魔族はともかく、異邦人の忌避はないようだ。なら赤の国の住民だとしても、助けて問題ないだろう。村人を助け、俺達も悩んでいた新しい村ができる。お互いwin-winってやつだ。


 まずは【黄金の旋風】が仲間になり、セラやイオンズの村と交渉。交渉がまとまれば、ツヴァイスへ引っ越してもらい、開拓してもらう予定だ。


 もちろんツヴァイスにはまだ何もな。その為、しばらくは城の外にある兵士宿舎に住んでもらって、少しずつ開拓を進めてもらおうと思う。


 また、【黄金の旋風】以外の村にも、出来るだけ秘密裏に交渉ができればいいと思っている。


 村人から搾取していた税金や食料が無くなれば、赤の国の崩壊も早まるだろう。

 そこを今度はヘンリーに狙わせる。おそらく赤の国が崩壊寸前となれば、国力増強のために、シクトリーナよりも赤の国を先に攻めるのではないかと思っている。


 ヘンリー側の戦力の増強は怖いものがあるが、それよりもヘンリーの視線をそっちに集中させ、時間が稼ぎたい。恐らく今の調子で俺やトオルが強くなれば、そう遠からずヘンリーよりは強くなれるはず。なら、その時間だけでも稼げればいい。

 村人が増えれば、こちらの国力も増加するので、そこまで悪い賭ではないだろう。


 そのことを包み隠さずセラ達には説明した。


「つまり、村人も全て引き受けるから配下になれってことか?」


「配下……なのかな? 別に命令するつもりもないが。新たな土地と、それに伴う技術を教えるから、こっちで暮らさないかってだけなんだが」


 別に支配するつもりは毛頭ない。ってか、互いに協力していい村にしたい。


「……待遇は? 村人達の待遇はどうなる? 今よりも良くなるのか?」


「間違いなく良くなる。まぁ最初はゼロからの村造りから、多少キツいかもしれない。でも収穫出来るようになるまでは、こちらの食料を提供するから、少なくとも飢えはなくなるぞ」


「税は? 税はどうする? 取らないことはないんだろう?」


「まぁ流石に取らないと、回らないからな。ただ、収穫が安定するまでは取る予定はない。その後は実際に収穫できるようになってからかな」


 セラは随分と悩んでいるようだ。考えるまでもなく今よりも好待遇だと思うんだけどな……。


「こちらからの条件……というか、お願いは二つある。一つ目は赤の国の情勢が落ち着くまでは、こちらの敷地内から外に出るのは禁止する。もう一つは、隣人は異邦人と魔族だ。こちらからは攻撃することはないので、偏見は持たず普通に接して欲しい。もしこちらを攻撃したり、差別したりするなら、その者には容赦しないと考えてくれ」


 セラ達の話では異邦人への偏見はないようだが、魔族はどうだ? ここでは魔族と一緒に生活しなくてはいけない。それが許容できる人のみが対象だ。これだけは譲れない。

 村人か、この城の魔族の選択肢なら、俺は間違いなく魔族をとる。


「もし断ったら俺たちはどうなる?」


「別にどうも? 俺はお願いしているだけで、命令しているわけじゃない。嫌々されても良い村なんて作れない。俺はちゃんと賛同してくれる仲間がほしいんだよ」


「セラ。儂はこの話引き受けてもいい気がするがの? 少なくとも今の赤の国よりは遙かにマシじゃろう」


 ずっと黙っていたダナンがセラに話しかける。


「寧ろ儂には何故お主がそんなに悩んでおるのか分からんぞ?」


「……確かにいい話だとは思う。内容も魅力的だし、条件もシオンさんの立場なら当然の条件だと思う。問題は俺達側、こっちの村人の方にあるんだ」


「どういうことだ?」


「俺は確かに異邦人に対する壁は兵士達に比べて少ないとは言った。それでもゼロじゃあないんだ。ましてや魔族に関しては、村人……いや、俺だって恐怖の対象としか思ってない。もちろん、ここにいる魔族がそうだと言ってるんじゃなく、一般的な認識で言ってるんだ。だけど、そんな状態で仲良く一緒に……ってのは、難しいと思う。村人の中には大丈夫な人もいるだろうが、無理だという人もいるはず。シオンさんの考えなら、無理な者は切り捨てるんだろう?」


「まぁそうなるな」


 俺はそこまでお人よしじゃない。駄目なものは最初から切り捨てる。


「俺は誰一人切り捨てたくないんだ! 村人の殆どが賛成しても、一人でも反対があれば、その一人は村に取り残されて死んでいくことになる。それが嫌なんだ」


 偽善だな。とは思う。全部救うなんて不可能だ。でもセラの考え方は嫌いではない。だが強要できるかといえばそうでもない。……難しいよな。


「そういうことならじっくり考えればいいさ。別に期限を設けているわけじゃないし、こっちはいつでも受け入れる準備だけはしていけばいいしな」


 そう言った後、今度はダナンの方に聞いた。


「ダナン。ダナンには別件で協力して欲しいことがあるんだ」


「なんじゃ? 余程の無理難題じゃなければ多少なら協力は惜しまんが」


 ダナンは随分と協力的だな。もう完全に俺達のことを信じ切ってるみたいだ。


「ああ、物作りに関して相談に乗って欲しい。現在、俺達にはドワーフのような技術者がいなくてな。ダナンは冒険者だから技術者とは違うかもしれんが、同じドワーフで誰か協力してくれそうな人とか知らないか?」


「儂も少しくらいならできるぞい」


「本当か!? 協力してほしいことは、武器の製作なんかじゃなくて、俺達の……異邦人の世界の道具の製作だ」


 こっちに持ってきた道具の量産から、こっちに持って来なかった便利道具。それをこっちでも作れたら……。


「なんじゃと!? 詳しく説明せい!」


 別世界の道具と聞いてダナンの目が輝く。やっぱりダナンもドワーフなんだなと思う。


「そうだな。まず俺達の状況を説明するか」


 そういって俺はここに来た経緯を簡単に説明した。



 ――――


「だから俺達は他の異邦人達と違い、準備してここ(カラーズ)にきたんだ。向こうの技術法を持ってな」


「と、と、と、と言うことはじゃ! こっちでその異邦人たちが使っているものを作るということか!?」


 ダナンは興奮して身を乗り出す。


「今は食材を作っている。まずは食事改善が必要だったからな。そして今はそれを生かす料理法、調味料などをどんどん開発、量産している。お前たちもさっき食べただろう? ああいうのだ」


 だが、と小さく呟く。


「料理や農業は何とかなっても他のものがな。俺達が持ってきたものを改造できる者はいるんだが、新規で作れるものはいないんだ」


 グレムリンのグレイはあくまでも改造がメイン。一から作る技術はない。


「例えばどんなものを作ろうとしておるんじゃ?」


 俺は四人に色々と計画を聞かせた。まずは新たな村人が住むための家を建てること。その後の生活必需品の作成。そしてそれの向上。その後の便利道具の作成。併せて武器等も。地球の建造物や道具が載ってる本や、実物があるのは実物を見せたりしながら説明した。


「まずは建築からやってもらうと思うけど、その後は調理器具、ミシンなど生活品。順番に作っていきたいから協力してほしい」


「……儂の知り合いに優秀な鍛冶職人がおる。職人気質なんで、鍛冶さえさせれば相手は魔族でも気にはぜん。そいつを誘いたい」


 種族に偏見のない鍛冶職人。まさにピッタリじゃないか。


「そういう奴を探してたんだ! ただ、条件が少し厳しいから必ず守れる人限定だ」


 そう言って条件を提示した。


 一、技術の漏洩を防ぐため今の生活を捨て、こちらに引っ越してもらう。その際、ここへ来ることを外部へ漏らしてはならない。

 二、ここで教わった技術を外へ持ち出さない。

 三、上記二つを守るために契約をしてもらう。


「一と二はどう違うんじゃ? あまり変わらないように聞こえるが? それから契約とはどういうものじゃ?」


「まず一に関しては分かるよな? こっちに引っ越してくるだけだ。ただ引っ越し先を誰にも教えないこと。だから今の仕事を継続して行うことはできない。常連や口利きなど全部諦めてもらう必要がある。そして二だが、こちらはここに住んでから、学んだことや作ったものをここから持ち出さないこと。要するにここ以外ではもう技術を使えなくなる。契約に関してだが、魔法契約になる。守らなかった場合は呪いが発動し、死んでしまう」


 しかし、と言って俺は続ける。


「この条件は今の状況を考えてのことだ。赤の国や魔王と決着がついて、外部と交易でも出来るようになったら……その時は、変更になるかもしれない。まぁ何年先になるかは分からないが」


「ふむぅ。なるほどのぅ。よく考えてあるわい。そう簡単には異邦人の技術は漏れんわけじゃ。儂はその条件でよいが、説得には制限はないのか? 断られたからといって口封じはさすがに困るぞい」


「流石に説得に失敗したからといって、相手を殺すなんてことはしないよ。ただ、あまり多くの情報は流さないで欲しい。特に場所は困る」


「異邦人のこととか魔族のこととかはよいのか? 駄目と言われると思っとったが」


「その情報がないと誘えないだろう? でもそうだな……異邦人の技術を教わることが出来るが、そこは魔族の住む場所で条件がある。こんな感じなら問題ない。あと、どんな技術が教わることができるかも言っていい」


 ダナンは少し考え込む。


「セラ、お主がどんな結論を出すか分からんが、儂はここに残ろうと思う。お主がここを離れるならパーティーから外してくれ」


 少し考えた結果、ダナンは俺達の仲間になることを決めたようだ。


「ダナン。本当にそれでいいのか?」


 セラは決意の目でダナンに問いかける。


「ああ、ぬしにはすまんが、儂は今ここで色々と試してみたいんじゃ」


「いや、構わんさ。自分の好きなことをやるのが一番だ。イオンズ、リャンファン。お前達はどうする?」


「僕はセラについて行くよ。でも、言わせてもらうなら、今回の話には乗った方がいいと思う。村人達のためにも」


「セラっち。アタシもそれがいいと思う。ここの人達は皆親切だったよ。きっと村人達も受け入れると思うニャ」


 イオンズとリャンファンも賛成のようだ。


「ま、そっちの話は後で纏めておいてくれ。ダナンは後で詳しく打ち合わせがしたい。あと個人的に接触したい人物がいるんだが、知っているか教えてくれ」


 接触したい人物とはソータが教えてくれた人物だ。その中にドワーフの名前があったので、知っているか気になったのだ。もし知っているならダナンから口利きをしてもらいたいんだが……。

 ともあれ、まずは【黄金の旋風】の話し合いだろう。このままここを使ってい旨を伝え俺は部屋を出た。



 ――――


 それから大忙しの日々が始まった。


 結局セラは俺達と一緒に行動することに決め、【黄金の旋風】は正式に俺達の仲間になった。

 尚、冒険者カードに関しては、こちらで元々依頼を受けていないように修正した。これで今回の依頼について悩む必要はないし、手配書が出回ることもない。他所で依頼を受けることもできる。


 セラ達はまず自分たちの故郷の村人を説得した。村人も今よりも暮らしが良くなるなら、誰が上にいようと問題がないと、全員が賛成したようだ。セラも心配していたことが杞憂に終わって、ホッと胸を撫で下ろしていた。


 因みに【黄金の旋風】にはトオルが一緒に行動をしていた。転移魔法で村人をこっそり転移させるためだ。流石に歩いて移動じゃ時間もかかるし目立つしね。

 トオル達の移動もキャンピングカーでの移動だ。キャンピングカー自体は目立つかもしれないが、それよりも速いし楽なのが魅力的だった。


 本当は俺も一緒に行きたかったが、却下された。まだヘンリー達がどう動くか分からないのに、俺とトオルの二人が揃って城からいなくなるのはマズい。

 ってことで、俺達四人の中でトオルだけが一足先に城の外へ冒険に出た。……正直すごく羨ましい。


 トオルとセラ達は現在、他の村を周りながら、ダナンの知り合いがいるドワーフ王国に向かっている。



 ――――


 移住してきた村人は、現在兵士宿舎で寝泊まりをいる。まるで寮生活みたいな感じだ。村人も最初は家族以外と同じ屋根の下になるから違和感があったようだが、部屋は別にしてあるし、すぐに慣れたようだ。


 ツヴァイスはまだ建物すら建っていない。朝になると男性はツヴァイスに行き開拓。まずは住む場所よりも食い扶持の確保のため、畑作りを優先させる。


 女性は皆の料理を作ることと、メイドの仕事を教わっている。一通り出来るようになったら、次は針仕事をするようになる。本当は各家庭での料理にしてあげたいが、今はまだ兵士宿舎の食堂で共同生活だ。全員まとめての食事になる。


 あと、子供には勉強を教えている。簡単な読み書きと、一般常識を教えている。ルーナからは『シオン様も一緒に勉強しませんか?』と揶揄われる始末だ。


 教えているのは第二メイド隊。この間、先生って呼ばれて照れているのを目撃した。あと先生って呼ばれているのを羨ましそうに見ているルーナも目撃した。


 村人は数日毎にトオル達の手によって。新しく移住してくる。先に住み始めた村人が、新しい村人にこの生活のルールを教えていく。


 現在は三百人程、移住してきた。兵士宿舎もそろそろ限界が近づいているので、トオル達には一旦村人集めは止めてもらった。今は職人系の人材のスカウトをお願いしている。


 これだけ増えると村人間で色々な問題も起こる。……と思っていたが、今のところ特に問題もない。いい具合に統率されているようだ。


 村人側のまとめ役はグリンとサイラッドの二人だ。セツナが捕まっていた二人を連れて帰ってきたので、村人のまとめ役にさせた。元兵士ということで確執があるかもしれないと思ったが、元々奴隷になつつもりでやって来た二人だ。特に文句も言わずに役目を担っている。


 二人はツヴァイスで村人に指示を出しながらも、自らも率先して作業をしている。そのお陰か村人からの信頼も得ているようだ。


 女性側のまとめ役はエイミーがやってくれている。トオル達が村を巡っていた時に丁度エイミーのいる村があったそうだ。

 エイミーの母親は薬を飲んで元気になったようだ。トオルに移住の話を聞いて親子揃って喜んでここに来た。

 エイミーは女性側のまとめ役だけでなく、フィーアス村との繋ぎ役もやってくれている。以前見学したこともあったから、取っつきやすかったみたいだ。フィーアス側からも特に不満は出ていない。


 俺は毎日数人の村人と個人的に話す時間を設けている。不満がないか。ここで何をしたいか、何が出来るか、やってほしいことなど、顔を覚える意味も込めて一人ずつ話すことにしている。


 修行、ツヴァイスの開拓、新しい村人との面談。それにフィーアス村への視察。これが俺の一日のスケジュールだ。

 忙しくても充実している毎日に、俺は楽しくて仕方がなかった。

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