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ロストカラーズ  作者: あすか
第二章 魔王城防衛
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第41話 冒険者から話を聞こう

「こいつらが例の冒険者達か?」


 俺はトオルに連れられて、城の牢に来ていた。

 トオルが捕まえた冒険者はAランク冒険者の【黄金の旋風】(おうごんのせんぷう)と、【蒼穹の槍】(そうきゅうのやり)だ。

 【黄金の旋風】の方は、男三人、女一人の四人パーティー。男の一人がドワーフで、女は猫の獣人だ。

 【蒼穹の槍】は三人パーティーで三人とも男のエルフのようだ。


「ほら、ここの魔族と人間以外の人とお話ししたことなかったでしょ? 他の種族がいた冒険者グループは彼らだけだったんだ」


 なるほど。他種族の話も色々と聞いてみたい。……が、きっとトオルに色々とやられたんだろう。トオルへの敵意と怯えがすごい。


「トオル、お前一回どっか言ってろ。多分その方が話しやすそうだ。あと、リンがいたら連れてきてくれないか? 彼らと行動を共にしていたんだから、彼らも話しやすいだろ」


「仕方ないね。分かったよ。確かに僕はいない方が良さそうだね。でも……リンくんはどうだろ? 彼らからしたら裏切り者なんだから逆効果かもしれないよ?」


「あ、そっか。じゃあ、一応リンに話してみて。興味があるなら来てって言っといて」


 了解と言ってトオルは出て行った。トオルの姿が見えなくなったことで、少しだけ空気が和らいだ気がした。まぁこんなところに閉じ込められているんだ。俺への敵意も半端ない。


「よう、少し聞きたいことがあるんだけどいいかな?」


 何も返事が返ってこない。当然か。


「まずは名乗るか。俺はシオン。ここの城主をやっている。一応お前らはこの城に不法侵入した強盗扱いで捕まえたってことになるが……」


 俺の言葉を聞いた瞬間一人の男が叫び出す。


「強盗だと! ふざけるな! 俺達はAランク冒険者なんだぞ!」


「Aランク冒険者ってのは、人の住居に勝手に出入りして、強盗の真似事をしてもいいのか?」


 そんなことしていいのはゲームの勇者だけだ。


「そうじゃない! ただ俺たちは依頼があってここに来たんだ!」


「ほう、で? その依頼の内容は? 城への不法侵入か? 強盗か? それとも俺達の殲滅か? 一体何だろうな……。まぁどれにせよ、許可なく勝手に入ってきて城の中を荒らしているのには違いないだろ?」


「……依頼はこの城にいた魔王が死んだのでその調査と、残党狩りだ。お前たちがその残党なのか?」


 てっきり守秘義務が……とか言ってしゃべらないと思ったが、やけに素直に話したな。


「俺達が残党に見えるか? 違うよ。俺達はここに住んでくれって村人や使用人達に頼まれて新しい城主になっただけだ。ってか仮に残党でもいいが、それならやっぱり許可なく侵入したただの不法侵入だよな? ってかまぁその依頼自体がただの罠だったわけだが」


「……どういうことだ?」


 おや? 思ったよりも食いつきがいいな。これなら話ができるか?


「話を聞く気になったか? こっちも話を聞きたいから、教えてくれるなら知ってることは答えるぞ」


「話の内容にもよる。どんなことが聞きたいんだ?」


「何、簡単なことだ。俺はこの城から出たことがないから、外の生活のことが知りたくてな。特に人間以外の連中に、人間との接し方や待遇などを聞きたいかな。あとはAランク冒険者の普段の生活にも興味はある。代わりにこっちからは今回の依頼の全貌を話す。どうだ? 悪い取引ではないと思うが?」


「ちょっと待ってくれ」


 そう言って冒険者達は固まって相談を始めた。



 ――――


「俺達【黄金の旋風】は話を聞く。だが、そっちの【蒼窮の槍】は断った」


 しばらく待ってるとそのように答えてきた。どうやらエルフの方は駄目みたいだ。エルフの方が話を聞きたかったんだけどな。


「分かった。じゃあ【黄金の旋風】の方だけこっちに来てくれ。今回の真相について話す。その代わりそっちの話も聞かせてくれよ」


 男は分かってると頷く。


 俺は【黄金の旋風】だけ牢から出し、隣の休憩室へ連れていく。


 牢から出ると、ちょうどそこにリンがやって来た。


「あっ! シオン様。トオル様に呼ばれて来たんスけど、何処かに行くんスか?」


「ああ、リンか。ちょうど良かった。今からコイツ等に話を聞くから、一緒に聞かないか?」


「了解っス。そのつもりで来たっスから」


「じゃあ人数分のお茶だけ準備してもらえるか? 隣の休憩室にいるから」


「了解っス」


 そう返事をしてリンは給湯室へ向かっていった。


「お、おい、今のリンってまさか……」


 冒険者姿じゃなくてメイド姿だったが、流石に気がついたらしい。


「ああ、昨日まで一緒にいただろうけど、リンは元々この城のメイドだ。冒険者の同行を探るために、ちょっとばかり潜入してもらったがな。おかげでお前達よりは色々と知ってるぞ」


 男はマジかよって呟く。まぁ死んだと思ってた冒険者仲間が、いきなりメイド服で現れて実はスパイでした。じゃ、びっくりするよな。


 とりあえず気にしないように言い、休憩室へ案内する。

 休憩室へ入ると、そこにはメイド通信隊のティティと肉まんちゃんがいた。


「あふぇ?、ひおんひゃま?」


 ティティが口一杯に何かを頬張りながら話してくる。


「お前……せめて口の中を空にしてから喋ろよ」


 メイドとして城主にしちゃいけない行動だと思うぞ。


「それで、二人は何してるんだ?」


「あ、私達は休憩です。ようやく一段落ついたので……」


「そうだな。今回はお前達は大活躍だったもんな。特に千里眼ちゃん……キャメリアだったっけ? 彼女にはゆっくり休むように言ってくれ」


 彼女がいなかったら多分色々とヤバかった。少なくともさっき逃がした探索隊は全滅していただろう。


「うん、キャメちゃんはさっき自室に戻ってたから、今頃もう夢の中じゃないかな?」


 キャメちゃん? ああ、キャメリアだからキャメなのか。


「お前らは? 通信室の休憩場所でも自室でもない、こんなところで休憩なのか?」


「通信室の休憩場所は短い時間だけ使用してるんですよ。長いお昼休憩などはここで取ってるんです」


 肉まんちゃんが説明してくれた。


「なるほど。なら邪魔しちゃ悪いし、別のところにするかな?」


「あ、何かをするなら、私達は出ていきますけど?」


 いや、流石に休憩中の邪魔をするのは気が引ける。


「って、考えたら特に秘密にする話でもないな。それにティティ達はコイツ等の行動をずっと見てたし今更だな。二人がよければ一緒に聞いててくれ」


「畏まりました。休憩時間内でしたらご一緒いたします」


「ありがとう。えーと、肉まんちゃん」


俺がそう言うと、肉まんちゃんがガタっと立ち上がって俺に詰め寄る。


「シオン様! 肉まんちゃんって誰のことですか!? 私ですか! ねぇ! 私ってそんなに太ってますか!? 私の名前はシルビアです! 覚えてなかったんですか!?」


 肉まんちゃん、もといシルビアはちょっと涙目だ。……もしかして気にしていたのか? 別に太ってないから気にすることないのに。でも、確かに肉まんちゃんは女性に付ける名前ではないな。


「シオン様ひどーい」


 早速ティティが茶々を入れる。……ちょっとイラッとしたからデコピンをお見舞いしてやった。


「ギャー! シオン様ひどい!? 横暴だ! 虐待だ! パワハラだ! セクハラだー!」


 何でデコピンでここまで責められないといけないのか。しかもセクハラは絶対に関係ないと思う。



「悪かったよ」


 これ以上面倒はごめんだから一応謝っておく。そして俺は改めてシルビアに向き直る。


「覚えてなかったも何も、シルビアの名前を聞いたのは初めてだったと思うぞ」


 もう随分と城に住んでいるが、まだ全員のメイドと顔を会わせていない。機会がなかったからね。でもそろそろ全員の顔と名前は一致させないとな。


「ティティとエリーゼは通信中に聞いた名前だったし、キャメリアだってルーナが言うまで千里眼ちゃんって言ってたんだぞ。シルビアは偶々肉まん食ってたから肉まんちゃんなだけで、体型とかは関係ないよ? シルビアは十分スレンダー美人だ」


「本当ですか!?」


 ガバッと先ほど以上に食い気味になってこちらに近づく。こちらの顔まで数センチだ。近い近い!


「本当本当! なっ!」


 俺は慌てて【黄金の旋風】の方を見る。何も分かっていないだろうが、空気を読んだのか、慌てて頷く。


「ほら。コイツ等もそう言ってるし……な。落ち着こう」


 俺は何とかシルビアを宥める。


「分かりました。でも私の名前はシルビアですよ。シ・ル・ビ・ア。覚えましたか?」


「はい。分かったよ。シルビア。これでいいか?」


 はいっと元気よく頷く。ふぅ。なんとか助かったようだ。


 そこにリンがノックをして入ってくる。


「あれっ? ティティとシルビアじゃないっスか。流石にお二人の分は用意してないっスよ」


 リンが持ってきたお茶は冒険者四人と俺と自分の準備しかしていない。


「ああ、私達は別に休憩していただけだから大丈夫。ほら、自分たちでちゃんと持ってるわよ」


「でも、そのおまんじゅう美味しそうだね!」


 シルビアはともかく、ティティは少し自重しろと言いたい。


「ティティもちゃんと持ってるじゃないっスか。欲しかったら自分で取ってくるっス」


「ぶー! リンちゃんのけち!」


 プクーっとむくれるティティ。ってか饅頭とか普通に食べれるのな。あまり料理は食べてるけど、間食はあまりしてなかったから、現在のお菓子事情はあまり知らないんだよな。


「しかし、よく饅頭とか量産できたな。小豆って量あったっけ?」


 収穫はされてるだろうが、ここで普通に食べられるほど採れているとは考えにくい。


「私も聞いただけっスから、詳しいことは分からないですけど、ルーナ様とヒカリ様の主導で最優先で作られたとか……魔法も色々と使って大量収穫できたみたいっスよ」


 俺が一番最初に最中を食べさせてから、ルーナは大の和菓子好きになったようだ。もちろん洋菓子も好きそうだが、和菓子にかける情熱は半端ないようだ。


「元々が魔素の影響で早く育つってヒカリ様が言ってたっスよ。まぁ土壌の問題や品質の問題もあるので、ある程度収穫できたら通常の栽培に戻るそうっス」


 無理に育てすぎたら後でツケが回ってくるからな。無理をさせるのは最初だけだ。

 それよりも何で城に殆どいないリンがそんなことを知っているんだ?

 その質問をしたら、メイド料理隊が話していたかのを聞いただけのようだ。何でも究極の和菓子を作れとルーナに言われているらしい。……究極の和菓子って何だろう?


 ちなみに砂糖は、地球から持ってきたものがまだ大量に残っている。

 俺達も結構持ってきていたが、それよりも姉さんたちが大量に持ってきているからだ。その為、てん菜やサトウキビなどは、種はあるが後回しになっている。在庫が無くなる前には着手したいところだ。


 そして今一番ルーナを悩ませているのがお茶の栽培だそうだ。俺は知らなかったが、お茶の栽培は数年かかるらしい。ドリュアスやノーム、ヒカリが栽培に適した場所や気候を維持しながら出来るだけ早く収穫できるようにはしているみたいだが、やはり時間がかかっているそうだ。

 今はまだ持ってきた茶葉があるからどうにかなっているらしいが、収穫して飲める前には在庫はなくなる計算のようだ。

 まぁ、少しくらい飲めなくても……と思うのだが、ルーナが和菓子には緑茶! みたいなことを言ってるらしいので、こちらも最優先らしい。


「なぁ、一度聞いてみたかったんだけど、お前らってルーナのことどう思ってるんだ?」


 最初こそ完璧なメイドと思っていたのだが、最近は残念メイドになってきている気がするんだよな。


「ルーナ様ですか。凄いですよね。あんなに完璧に何でも出来て、そして私達のことも常に見ていらっしゃる。まさに理想のメイドです」

「凄いよねー。あんなに仕事漬けで……休んでる暇なんてあるのかな?」

「シオン様、あんまりルーナ様をこきつかっちゃダメッスよ」


 あれ? 俺の評価と大分違うような……。いや、昔の俺の評価と同じなのか。ってことはルーナのやつ、まだ猫かぶってるのか?

 三人に本当のルーナを教えてやるか? いや、実際に見なければ多分信じないだろう。

 俺は今度コソッとキャメリアに相談してみよう。そう心に誓った。


「そうだな。俺からもルーナにはもう少し肩の力を抜いて、ゆっくりするように言っとくよ」


 とりあえずそう無難に答えた。



 ――――


「よし、じゃあそろそろ話を始めようか。まずは俺とリンから説明すればいいのかな?」


 とりあえず、お互いに自己紹介をし、何故リンが冒険者達に紛れていたのかを俺が説明する。


 最初に兵士たちが来たこと。その来た理由。そして二人の捕虜。解放してからのこと。

 そしてリンに交代する。リンからは捕虜解放後の王都をセツナと二人で調べていたこと。

 リンが王都内、セツナが王宮内の情報を仕入れていたこと。

 セツナからの報告で、戻ってきた捕虜がどんな扱いをされてたか。そして赤の国がどういった結論を出したか。その後で冒険者ギルドに依頼があったこと。そして、似たような依頼が破棄されたこと。

 実は冒険者たちは囮で他に二千の兵士がいたこと。まぁそれも囮で本命は一緒に来ていた百の兵士だったが。そして不死王ヘンリーの暗躍。

 分かる範囲で順序立てて説明した。冒険者達は最初こそ驚愕の表情を浮かべていたが、依頼の件が囮で憤慨し、ヘンリーの件で顔が青くなった。


「ちょっと! なんでこんなヤバい依頼を受けちゃったのよ。これ、生きて帰っても口封じされるレベルでヤバいやつじゃないの!」


 冒険者で唯一の女性である猫の獣人――名前はリャンファン。


「俺だって、こんなヤバい案件って知ってたら受けなかったさ。ってか俺たちって捨て駒だったんだろ? 俺たちレベルの冒険者ってあのギルドにはいないよな? 一体何考えてんだ?」


 リーダーのセラ。俺たちレベルって……捕まってるから何とも言えないが、やはりAランク冒険者って上位になるんだろう。


「うむ、儂は今まで人族の愚行にはなんとか我慢しておったが、さすがに今回は許容できんぞ!」


 怒っているのはドワーフのダナン。


「こうなったら他国へ逃げる? いや、生存報告はしないと、他国のギルドが利用できないし……報告だけしてすぐに逃げる?」


 最後はパーティーの回復役――イオンズ。


「なぁ、俺が言うのもなんだけど、俺達の言うこと信じるのか?」


 四人の話を聞いてると、俺の話を全く疑ってないような気がする。


「えっ!? 嘘なのか!?」


 いや、そこで驚かれても困るけど。


「いや、嘘じゃないけど、よく信じられるなと。普通なら、こんな荒唐無稽なこと信じないだろ?」


 捕虜にした張本人の話を信じるとか考えにくいんだが。


「いや、信じるよ。まず第一に俺達がこの国を信用してない。それからリャンファンが信用している。彼女――獣人特有の嗅覚というか、他人の嘘には敏感なんだ。完ぺきではないけど、ほぼ間違いなく、嘘は見破る事が出来る」


 嘘が見抜けるか……結構便利だな。


「なるほど、獣人特有か。魔法って訳ではないんだ?」


「魔法じゃニャいよ。獣人は他の種族に比べて五感が優れてるから喋り方や態度でニャんとなく分かるんだ」


 さっきは普通の口調だったのに……どうやら、たまにナ行の滑舌がおかしくなるようだ。これも猫獣人だからか? それともリャンファン特有なのか。聞きたいけど失礼にあたりそうだから止めとこう。


「それで、国を信じないのはなんでだ? 自分たちの暮らしている国だろ?」


「住んでいるから分かるんだよ。この国は腐ってる。貴族以外の全てを人間として見ちゃいない」


 以前ルーナ達と勉強したときに聞いたが、やはり赤の国は村人と市民、それから貴族の間に大きな壁があるようだ。


 この中で赤の国出身はセラとイオンズ。二人は同じ村出身の幼なじみで、村では生活できないと思って冒険者になった。

 冒険者カードがあれば都市の城下町には入れるし、ギルドで仕事を貰うことも出来る。村人よりも待遇はいい。

 だから村人は冒険者になる。だが、国の方も冒険者の約八割が村の出身と知っているため、基本的には危険な仕事しか回してこない。

 ギルドの仕事では生活できるのはほんの一握り。魔物を倒せるレベルに到達するのも厳しいレベルでは生活ができなく、結局は村に戻るしかない。そして村での暮らしは……。

 想像以上に冒険者事情は酷いようだ。


「他の国はそこまで酷くないんですが、赤の国の衰退は年々酷くなっていくばかり。このままでは崩壊も近いと噂されています。その中で、魔王がいなくなったこの城は絶好の標的だったんでしょう」


 俺の話を聞いてセラがそう評した。


「何でそこまで酷いことになってるのに対策しないんだ?」


「王や貴族が国の情勢を知らないからですよ。都市の中だけにかまけて外を見ない。自分たちの欲しか考えてないから。近いうちに村がいくつか無くなるでしょう。そこから一気に崩壊しますよ」


「……そこまで酷い状況で、お前らは何でこんなことしてるんだ?」


 こんな国捨てて他国に逃げたりできないのかな?


「正直言うと金ですね。この国から逃げ出すにも、金がないと何もできない。だからせめて自分達の村くらいは養える金を持って皆で逃げる気でした」


 そう考えると今回の依頼はさぞかし美味しいと思っただろうな。


「今回の報酬が良かったのも、きっと全滅するから支払う必要がないと思って……あー! もう考えたら本当に腹が立ちます」


「そっちの二人は? こんな国にいたら立場がなさそうだが?」


 獣人とドワーフだもんな。人間でないなら尚更大変じゃないのだろうか。


「ああ、宿にはドワーフお断りだわ。武器はボロいのしか売らんわ散々じゃわい。正直この二人がおらなんだら儂は生きてはおるまい。本来ならこんな国さっさと逃げたいところじゃが、この二人には恩があるでな。それを返すまでは一緒にいてやろうと思うてたんだが……」


「私も似たようニャ感じ。奴隷に落とされたところを、二人に買ってもらって解放してくれたのよ!」


 セラとイオンズはどうやらかなりのお人よしみたいだ。


「……お前達は異邦人をどう思う?」


 コイツ等はどんな感想だろうか? ふと気になって聞いてみることにした。


「異邦人って? 別に会ったことがないから何とも……特に俺たちと変わらないんじゃないですか?」


 あれ? 思った以上に普通だぞ? ヴォイス達ですら最初は微妙だったのに……。


「王都ではで強い力や知識を持っている異邦人が脅威だって説明してるんですけど、要は国の威厳が保てないって思ってるだけですよ。確か五年くらい前に一人異邦人がいて、そいつを庇った奴や少しでも関わった奴は、皆の仲間って処刑されたんだ。それが嫌でその異邦人は捕まったって聞いた。噂だけど、拷問や洗脳などあらゆることをされたらしい。その異邦人は何とか逃げ出して、中立国のドワーフ王国に行ったって話です」


 多分、ソータのことだろう。あいつが捕まったのってそんな理由があったのか。そしてドワーフ国に逃げたと。それにしてもドワーフ国は中立国なのか。俺でも受け入れてもらえるかな?


「だから異邦人が怖いとか嫌いよりも、関わると目をつけられるって印象ですね。実際に市民のことを思って自ら出頭したことで、その異邦人の評判は悪くない。貴族や兵の手前、誰も何も言いませんけどね。だけど兵士は最初から教育として悪だと言われ続けてるから兵の異邦人への対応は悪いと思います。赤の国以外には冒険者に異邦人がいたり、官職に就いてるって話も聞いたことがあります。まぁ奴隷になったり、殺された人も多いみたいですけどね」


「俺やトオルが異邦人だとしたら?」


 セラはちょっと眉を潜めた。


「別に。むしろあの強さの原因が分かって納得ですよ」


 特に何も感じないようだ。ってか異邦人が駄目なのって、赤の国だけなのかよ! じゃあ俺達もソータも、そしてスミレも……召還された場所が悪かっただけか?


「なぁ五十年前に奴隷になった異邦人でエルフに助けられたって話を知らないか? ツクモって言うんだが……」


「……流石に五十年前は生まれてないからなぁ。それこそ【蒼穹の槍】に聞いてみたらどうです? エルフだし、何か知ってるかも」


「そうなんだけどね。あいつらが話してくれるかな? 今だって断ったし」


「エルフは閉鎖的な種族だから、基本的に自分達のことは話したがらないんですよ」


 ならやっぱり話を聞くのは絶望的かな? まぁ居場所は分かってるからいいんだけどね。


「じゃあそれはいいや。それよりも、お前らこの後どうしたい? こっちとしては解放してもいいと思ってるんだけ?」


「正直解放してくれるのはありがたいが、このまま帰っても口止めとして殺されそうだし……。もしくは捕まって拷問コースか? かといって逃げたら冒険者カードの剥奪だろうし。村のこともあるし……」


「冒険者カードの剥奪って? 依頼を失敗したからか?」


「いや、基本失敗したら罰金だけ。複数回失敗するとランクが下がる。だけど依頼を放置したら問題だ。基本依頼は受けたギルドでないと報告ができない。例外なのは配達や護衛。この二つは目的地のギルドでもいいんだが、討伐や採取は受けたギルドでしか報告ができない。で、報告をしないで他のギルドに行っても、前の依頼が残ってるから新しい依頼が受けられない。冒険者カードの裏面に、現在の依頼ってのが表示されるんだ。依頼は最大で三つまで同時に依頼ができるが、同時に受けられる依頼は一ヶ所のギルドだけ。だからこの依頼を完結しない限り、他のギルドで依頼を受けれない。だが、今回の依頼の報告すれば、間違いなく命がない」


「そっか……ん? じゃあリンも報告しに行かないといけないんじゃないか? 今後も使うことがあるんだろう?」


 今後も遊撃隊の仕事で冒険者カードを利用することがあるはずだ。使えなくなったらマズいだろう。


「そっスね……どうしましょう? 後でルーナ様に聞いてみるっス。まぁ元々この城で作ったカードっスから。多分ここで変更できるはずっス」


「あっそうなんだ」


 多分身分証カードと同じ要領で作れるんだろう。ってか、それなら俺も冒険者カードが欲しいな。


「そんな!? 冒険者カードの偽造が出来る筈が……」


「偽造じゃないっス。ただ冒険者ギルドと同じことが出来るだけっス。だから依頼の削除して受けなかったことにするだけっス」


 依頼の報告は受けたギルドでって話は、あくまでも事務的な話で、システム的には出来なくはないようだ。


「じゃあ偽造って訳じゃなく、一から作ったってことか」


「そうっスね。だからここでも依頼のキャンセルが出来るはずっスよ」


「こんなこと言えた義理じゃないが、それ……俺達のカードにも出来ないのか?」


 セラがおずおずと切り出す。


 リンがどうしましょうか? って目でこちらを見てくる。


「あー、まずは本当に出来るか試してからだな。もしかしたら不正扱いになって、他の冒険者ギルドで使えない、なんてことになったら大変だろ? とりあえずは保留だ」


「そう……だな。もし良かったら検討してくれ」


 おや、思ったよりはあっさり引き下がったな。とりあえずは結果を見てからってところか?


「よし、じゃあ一回解散するか? 本当はドワーフの話や獸人の話も聞きたいけどちょっと、長話しすぎたからな」


 一度ルーナに相談をしたいし、エルフの方も気になる。それに、もうトオルと話しても大丈夫だろう。

 俺達は一旦話を終えることにした。

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